NTTドコモは、XR分野の新会社「NTT QONOQ(コノキュー)」の事業を10月1日に開始すると発表した。9月28日に実施された記者会見では、NTTコノキューの丸山誠治社長が登壇し、新会社とXR産業の展望を語った。

●NTTグループ結集のXR新会社

 NTTコノキューは、2022年6月に「XR事業企画株式会社」として設立された法人で、事業開始に合わせて社名を変更する。NTTドコモが100%出資する完全子会社となる。NTTグループの中でXR事業を担う会社と位置付けられており、これまで「NTT XR」というブランドで展開してきたNTTグループ各社のXR関連事業を集約して、運営を担当する。

 営業面ではNTTグループ各社と協力。NTTドコモの顧客基盤やdポイント会員基盤や、NTT東西やNTTコミュニケーションズが有する国内外の営業体制を活用し、XRやメタバースの普及、促進を進めていくという。また、NTTやドコモの研究開発部門と連携してXR関連技術の新規開発も積極的に実施する。

 NTT QONOQという社名は、若手社員が考案したもので、高度なネットワークによるXRの世界を追求するという「Quest over Network」、現実と仮想空間を行き交うというコンセプト、始まりの合図としての「キュー」などの含意があるという。

●NTTコノキューの3つの事業領域

 NTTコノキューの事業は、(1)メタバース事業、(2)デジタルツイン事業、(3)XRデバイス事業という、3つの領域に大別される。それぞれの事業領域で個人向けと法人向けの両方のサービスが検討されており、用いられるXR技術についてもVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)などから、それぞれの事業に合わせた技術を選択する。

 (1)のメタバース事業では、NTTドコモが開発したメタバースサービス「XR World」が事業の柱となる。また、NTT(持株)が運営してきたXR空間プラットフォーム「DOOR」も、NTTコノキューが事業を引き継いで運営するバーチャル空間上でのライブ配信を行うシステム「Matrix Stream」や、ドコモのバーチャルアイドルTacitly(タシットリー)もこの事業に含まれる。

 (2)のデジタルツイン事業は、当初エンターテインメント領域では、位置情報ゲームのような実空間連動型のXRサービスが含まれる。また、製造業向けのARを活用した製造支援システムのようなエンタープライズ事業もこの領域に含まれる。

 (3)のXRデバイス事業では、自社開発のデバイスの企画・開発を実施する。XR WorldやDOORはスマホのブラウザ上から参加できるサービス設計となっているが、専用デバイスの提供を通して、より臨場感のあるXR体験が可能という。検討中のデバイスについて、詳細は明らかにされなかったが、小型・軽量のメガネ型デバイスで、現在市場にあるVRデバイスと比べて装着感が良く、より手軽に使えるものを検討しているという。

●メタバース「XR World」が目指す姿

 NTTコノキューの主力サービスとなるのが、NTTドコモから引き継いだ「XR World」だ。XR Worldはマルチデバイス型メタバースサービスで、スマホのブラウザから参加できるという、導入ハードルの低さが特徴となっている。

 現在はエンターテインメント領域のうち、音楽ファン向けコンテンツに特化しており、バーチャルライブの会場や、ファン同士の交流の場として利用されている。将来的にはスポーツや教育といった分野への展開も進めていきたいという。

 XR Worldが目指すメタバースについて、NTTコノキューの赤沼氏は「いつでも」「みんなと」「あんしん」という3つのキーワードを用いて紹介した。上場企業のNTTグループの運営によりサービスの安全性・透明性も確保しつつ、アバターのエモート(しぐさ)によるコミュニケーションなど、ユーザー同士の交流が楽しめる場で、自分らしい表現ができるような世界を目指しているという。

 メタバースとしての機能強化では、2023年4月以降に、メタバース上でアイテムなどの売買できる、マーケット機能を実施する予定。ユーザーや参加企業が自作したアイテムを自由に販売できるような場とするという。

●XR WorldにAKB48新ユニット、センターは“バーチャルアイドル”

 NTTコノキューの事業開始に合わせて、メタバースサービス「XR World」での新コンテンツも発表された。その目玉となるのが、AKB48グループのアイドルユニット「AKB48 SURREAL(サーリアル)」だ。

 AKBサーリアルは、AKBグループ初の“リアル・バーチャル混合ユニット”で、センターポジションをバーチャルアイドルのSURRY(サリー)が担当し、「XR World」を主な活動として展開する。AKB48からは小栗有以(YUI YUI)、倉野尾成美(NARU)、下尾みう(MIU)、千葉恵里(ERII)、山内瑞葵(ZUCKY)の5人が参加する。同ユニットが歌う『わがままメタバース』は、XR Worldのテーマソングとして採用される。

 XR Worldの中で有料ライブを開催する他、バーチャル空間を活用したファンとの交流も実施。新曲シングルへのCD購入者の特典では、VR空間上での撮影会や、抽選に当選したファンとVR空間内で交流する「バーチャルデート」も企画されている。

●ユーミン、ゴジラ、エヴァがXR Worldに

 XR Worldでは、AKBサーリアル以外にも、タレントやアニメーションキャラクターとのコラボ企画が実施される。

 歌手の松任谷由実(ユーミン)は、新曲のミュージックビデオをXR Worldでの独占先行配信を実施している。ミュージックビデオは、松任谷由実と50年前の「荒井由実」がバーチャル空間のアバターとして共演する内容。ファン向けに、ユーミンのアバターとの記念撮影ができるバーチャル空間も展開している。

 「ゴジラ」シリーズとXR Worldのコラボレーションでは、ゴジラの大きさを仮想空間上で体験できるような展示が企画されている。

 アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズでは、仮想空間内で“仮想のメガネ型デバイス”をかけると、エヴァンゲリオンの世界観が体験できる「VR空間でAR」ともいうべきコンテンツを提供する。

 映画業界では松竹とも提携。2022年12月以降にXR World内で映画撮影所の雰囲気を体験できる撮影サービスを開始する。また、2023年1月以降には、伝統芸能を体験できるバーチャル劇場もオープンする予定という。

 この他、XR Worldのエントランスに当たる「ロビー」では、すみっコぐらしやNARUTOとのコラボ企画が実施される。

●都市空間連動型のコンテンツも

 NTTドコモは「XR City」ブランドで、現実の都市空間と連動するコンテンツサービスも提供している。NTTコノキューはこの事業も引き継ぎ、自治体や企業と連携してコンテンツを展開していく。

 説明会ではこの分野の新サービスとして「絶滅古生物コレクション」が予告された。ナイアンティックが提供する「ポケモンGO」のような地域連動型ゲームアプリで、都市空間を歩き回って、恐竜などの古生物の「化石」を発掘する体験ができるという。

●法人分野では製造現場支援や“仮想オフィス”も

 デジタルツイン事業では、XR技術を活用したソリューションサービスも展開する。エンターテインメントや観光の分野で体験サービスを提供するだけでなく、製造業での作業支援や、小売業での接客支援サービスなどを展開する。今後は、リモートワークを支援する“仮想オフィス”への進出など、サービスの幅を広げていく方針だ。

 また、NTTコノキューは、2025年大阪・関西万博にNTTグループの1社として参加。「バーチャル万博」の機能を開発すると表明している。

●「XRといえばコノキュー」と言われたい

 NTTコノキューは事業開始時点で600億円という資産を有し、NTTグループ各社のXR事業部から転籍・出向した200人程度の人員で事業を開始する。NTTドコモとしては、「スマートライフ事業」の一部と位置付けられており、中期経営計画においてドコモが表明した「2025年度に非通信領域での売上高2兆円達成」という目標の一部を担う事業となる。

 ARやVR、メタバースなどXR関連ビジネスは、世界的に注目が集まっている。2026年度に国内市場規模が1兆円を超えるとする予測(矢野経済研究所)もあるなど、今後大きな成長が見込まれる。

 ただし、現状のXR関連市場は期待先行の状況にあり、MetaやMicrosoftなど、米IT大手が大規模な投資を行っている他、日本の携帯キャリアではソフトバンクやKDDIなども新事業の一環としてサービスを展開している。

 この現状のXRサービスについて丸山氏は「ネットワーク、サービス、デバイスの各分野ともに、現状は価値あるサービスを提供できるギリギリの性能にあり、XRの普及のためにはこれから全体の技術レベルアップが必要」と指摘する。

 より具体的には「ネットワークは5Gの通信速度でようやく実用的になるという状況だ。デバイスは、レンダリング(画面描画)処理はサーバで行うクラウドレンダリングが理想だが、現状では一部しか実現できておらず、PC向けVRでは高価なグラフィックボードが必須となり、身近で手軽とはいえない」と丸山氏は話す。

 NTTコノキューが自社でサービス、ネットワーク、デバイスの各分野の技術開発を進める“全方位戦略”を取る背景には、こうした技術的課題がある。

 特にXRデバイスについては、現在市場で販売されている製品では重すぎる、価格が高すぎるといった難点もあり、NTTコノキューでは自社のXRサービスに最適化したデバイスを開発し、装着感を改善する方針だ。丸山氏によると、メガネ型デバイスで、VRやARに対応した製品の開発を検討しているという。

 また、ARやVR上でのサービスをどのように企業の収益へとつなげていくかは、各社が模索する段階にある。丸山社長は「XR関連ビジネスは確立したビジネスモデルはないと認識している」として、収益化につながるビジネスモデルを確立することも同社の目標だと説明した。