リチウムポリマーを採用しているスマホのバッテリーは、繰り返し充電すると、どうしても劣化してしまう。経年劣化で最大容量が下がると、その分、バッテリーの持ちが悪くなる。一方で、キャリアやメーカーの用意している保証(補償)サービスには、バッテリーが対象になるものは少ない。AppleのApple Care+のように、バッテリー交換が含まれるものもあるが、どちらかといえば、珍しいサービスといえる。中古スマートフォンの販売業者の中には、最大容量を記載していない店舗もある。
そんなバッテリーを保証するサービスを、ニューズドテックが開発した。「トリカエスマ保証」が、それだ。同サービスは、月額200円(税込み、以下同)の「ベーシックプラン」と、同500円の「プレミアムプラン」に分かれている。前者は、バッテリー容量が80%以上残っている場合に加入でき、79%以下になった際に端末ごと交換してもらうことができる。後者のプレミアムサービスでは、ユーザーがバッテリーの不調を感じただけで交換が可能。いずれも免責期間は3カ月。それ以降なら、端末の故障やヒビ割れなどがなければ交換に応じてもらえる。
交換で届く端末は、いずれも中古のスマートフォン。ベーシックプランは外装に傷が多いCランクの端末だが、プレミアムプランは比較的状態のいいAもしくはBランクの端末が交換品になる。これができるのは、ニューズドテックが中古スマホの流通やそのデータに基づく各種事業を手掛けているからだ。一方で、プレミアムプランは、ユーザーの自己申告に基づくため、交換のハードルが非常に低い。そんなサービスが本当に成り立つのか。同社の代表取締役社長CEO、粟津浜一氏に話を聞いた。
●単体でバッテリーを保証するサービスを求める声が多かった
―― バッテリーの劣化に着目した保証サービスは珍しいと思います。なぜ、このようなサービスを開発したのでしょうか。
粟津氏 2022年3月に、「スマホカルテ」というスマホの健康診断ができるアプリをリリースしました。これは、26個のパラメーターをチェックし、蓄積したデータを分析することで将来の故障予測につなげるというものです。バッテリーに関しては、最大容量のチェックや将来予測をしています。iPhoneに関してはバッテリーの最大容量が出るようになりましたが、Androidは出ない。そこで、疑似的に負荷をかけ、電圧降下をもとに最大容量を推定しています。予測については、電気通信大学の横川慎二教授と共同研究した「バッテリー劣化をもたらす9項目」をベースに、バランス型、節約型、浪費型の3パターンで出しています。
トリカエスマ保証は、当初、このスマホカルテを使ったサービスとして検討していました。バッテリーの最大容量が減ったり、故障してNGが出たりしたら交換するという形です。ただ、そうなるとスマホカルテを使っていなければならず、ユーザーにとっては面倒くさい。単体で保証できるモデルがないかという声もありました。一方で、使用感だけでは、本当に故障しているかどうかが分からない。であれば、バッテリーに特化し、スマホカルテを使わなければいいのではと考えました。
バッテリーの保証は、キャリアの保証サービスにはなく、隙間になっているので協業することもできます。アンケートを取ると、バッテリーが劣化したら端末を交換するという人が50%もいるので、ニーズはあります。スマホカルテを使わず、バッテリー容量が79%以下になったら交換するモデルを建てつけようと考え、このようなサービスになりました。これが、トリカエスマ保証を出した経緯です。
―― 交換で届く端末は中古のスマートフォンです。最初から中古ありきで考えたサービスだったのでしょうか。
粟津氏 保証会社と組んで保険のようにやるサービス展開と、僕ら自身の持っている中古端末を使う2通りのパターンを考えました。ただ、単純な保証サービスだと他社に簡単にまねされてしまいます。僕たちのノウハウを生かすのであれば、中古ならではのサービスとして建てつけた方がいい。その方が、より顧客にとってもいいんじゃないかと考え、この形になりました。
●入りやすい価格設定を考えて月額200円からに設定
―― ベーシックプラン、プレミアムプランはそれぞれ200円、500円ですが、この価格はどうやって決めていったのでしょうか。
粟津氏 まずは入りやすい価格設定を考えました。1000円だとさすがに高すぎる。LINEのスタンプが200円なので、それを買うぐらいの価格に使用ということでスタンダードは200円にしました。プレミアムは、その倍ぐらいということですが、400円だと中途半端なので、ワンコインということで500円にしています。また、キャリアの保証サービスも見つつ、値ごろ感が出るようにしました。仮説を立て、売買価格や継続期間をシミュレーションしています。
―― バッテリーの最大容量が低下するまでには、年単位で時間がかかります。新品も対象とのことですが、すぐにユーザーが入らないのではないでしょうか。中古端末だとニーズはありそうですが、どのような想定ですか。
粟津氏 2種類あると思っています。おっしゃるようにタイミングを見て入る方と、通常の保証サービスのように壊れるかもしれないから取りあえず入っておこうという方です。確かに、バッテリーの劣化は急に起こることはありませんが、不安感を持っている方もいます。この両方を顧客にできればという想定です。
―― 少しいやらしい聞き方かもしれませんが、ギリギリの状態になってから契約する人が多いと、もうからなくなってしまう……といったこともあるように思えましたが、いかがでしょうか。
粟津氏 あくまで“トリカエ”なので、僕らは顧客が使っていた端末を回収できます。僕らにとっては、仕入れと同じことです。交換用の端末は在庫からお出ししていますが、スタンダードだと(外装に傷が多い)Cランクなので、仕入れる際の買い取り価格は安い。一方で、僕たちは0円で端末を回収できます。価格設定は、仕入れと販売の相場を見てやっています。免責期間の3カ月を過ぎたら交換することを狙って契約する方が増えても仕方がないという前提で考えています。
―― なるほど。そこで回収した端末は、再度販売に回すのでしょうか。
粟津氏 基本的には売ることになります。また、(販売前に)バッテリー交換もできるものはやります。弊社は登録修理業者に登録しているので、一部のiPhoneは修理ができます。例えば、需要の大きいiPhone 8などは、バサッと買って再生する機能があります。こうした仕組みをそのまま当て込んでいます。もともと、エコシステムは持っていたのです。
ただし、iPhone XS、XR以降の端末は、バッテリー交換時に非純正だと、最大容量が表示されません。これができれば、iPhone XSやXRももっとモデルに組み込めるのですが……。アラートが出ると、知らない人はビックリしてしまうので(という理由で、XS、XR以降のiPhoneにはバッテリー交換品は組み込んでいない)。
●プレミアムプランは月額500円でもペイできる?
―― プレミアムプランに関しては、月額料金が500円と少し高い一方で、交換品が状態のいい端末です。それでもペイするということですか。
粟津氏 あちらは事務手数料として、交換時にお金をいただきます。そのお金でペイするようにできています。手数料は3000円、6000円、9000円の3プライスで、2万円まで、3万円まで、それ以上という形で分けています。
―― iPhoneだと、ほとんど9000円になってしまいそうですが……。
粟津氏 そうでもありません。例えば、iPhone 7やiPhone 8のような端末なら安い。iPhone Xでも、6000円で交換できます。ただ、iPhone SEでも第2世代は中古の価格が2万円台後半、第3世代だと3万円台後半なので、いずれも9000円の対象になります。
―― あくまでバッテリーの交換という建てつけですが、ユーザーの主観で交換の申し込みができるので、外装の傷を減らすためにプレミアムプランを使うといったこともありそうです。Cランクの端末をAないしはBにするといった使い方です。これは防げるのでしょうか。
粟津氏 防ぐというより、それでもいいと思っています。回収(した端末の販売)と事務手数料でプラスになるように設計されているからです。とはいえ、ユーザーにも良心の呵責(かしゃく)はある。日本は特にそれが強いので、100人いたら100人やるかというと、そんなことはないと思っています。
●中古だけでなく、新品のスマホを使っている人にもアプローチしたい
―― サービスは既に始まっています。出足はいかがでしたか。
粟津氏 出足は想定通りで、予想していたお客さまが来ています。バッテリーがダメだなと思った人ですね。(コロナ禍が落ち着き)外出が増えてくると、それを体感する人は増えてきます。出掛けるときには100%だったのに、夕方にはバッテリーのマークが赤くなってしまう。そんなときに、こういったサービスに入っていれば、楽に交換できる。そういった感じの人を想定していました。
―― iPhoneとAndroidでは、どちらが多いですか。
粟津氏 iPhoneの方が多いですね。一般的な比率より多いです。
―― 先ほどうかがったように、新品でも入ることはできますが、どちらかといえば中古端末の方が多くなるような想定でしょうか。
粟津氏 基本的には両方がターゲットですが、中古の方が多くなってくると思います。現時点でも、聞いている感じだと中古の方が多そうです。長く、ヘビーに使ってバッテリーの減りが早くなり始めた人なので、やはり中古は多い。一方で、新品の端末でも使っていると体感的に減りが早くなったと思う人はいます。将来的にはそういう人にアプローチしていきたいですね。僕の端末も、バッテリー容量は100%なのですが、「ドラゴンクエストウォーク」をやっていると、すぐにバッテリーがなくなってしまって……。
―― それは、バッテリーの劣化ではなく、使い方の問題だと思います(笑)。
粟津氏 そうですね(笑)。こういう場合は、交換したところで、すぐに電池がなくなってしまいます(笑)。
―― そもそも、バッテリーの容量が不安だという人はどのぐらいいるのでしょうか。
粟津氏 買い替えの理由として大きいですね。最初にお話ししたように、アンケートを取ると、バッテリーが劣化した、ダメだなと思ったときに買い替える人が半分以上います。すぐに買い替えるというわけではないのですが、このサービスはその動機づけにもなります。平均利用期間が4.3年で、それも期間も伸びていますからね。
●新しいスマホも古いスマホも在庫は十分にある
―― バッテリーが劣化した端末ということだと、比較的古い機種が多いようにも思えますが、在庫は十分あるのでしょうか。
粟津氏 あります。(他の中古業者とは)仕入れルートが違うからです。他社は店舗での買い取りが中心ですが、僕たちの代理店はさまざまな業種、業態で、買い取りショップもあればリサイクルショップもあります。その先に、全国津々浦々、いろいろな方が(顧客として)ついています。ラインアップが広く、古いものもたくさんあるのが強みです。例えば、普通の中古業者だと9割がたiPhoneですが、僕らにはAndroidもある。このモデルを組めたのも、きちんとAndroidがあるからです。
―― そうはいっても、ないものもありますよね。
粟津氏 ランクや色もあるので、ないことはあります。その場合は、同等品に交換します。こちらから、スペックや画面サイズなどを提案させていただく形になりますが、基本的にはアップグレードになるようにします。
―― 逆に、新しい端末も中古としてのストックがあまりなさそうですが。
粟津氏 あることはあります。ただ、(新しい端末は)いっぱい来ない想定です。僕らの事情ですが、新しい端末は買い取り価格が落ちていないので、回収することで対応はできます。
●オンライン以外のタッチポイントも検討中
―― 現状はオンラインでの契約になりますが、販路はどうしていくのでしょうか。
粟津氏 今は確かにオンライン限定(専用サイトのみ)ですが、近々自社のECでも展開していく予定です。そこから、取引先や提携先に広げていくのが第2フェーズです。
―― 提携先とは、どのようなところでしょうか。
粟津氏 今、アイデア出しをしているところですが、キーワードになるのはバッテリーが劣化している人や外出する人です。例えば、旅行先のレンタ―ショップや、空港のモバイルWi-Fiルーターをレンタルするところなどで契約してもらえないかを考えています。当然、スマートフォンショップやキャリアショップも候補です。ただ、大きな会社は実績やインセンティブによるところがあります。今はその設定(販売インセンティブなど)ができないので、もう少したってからになりそうです。
―― 他の中古販売業者はありそうですか。
粟津氏 可能性としてはありますね。今でも、他社で買った中古のスマホで入ることはできます。加入の条件に外装ランクを設けていないので、そこはやりやすいのではないでしょうか。
●取材を終えて:他にはない、中古スマホで重宝するサービス
バッテリー容量の保証というのは、他社にないサービスで面白い。新製品の購入直後に入る必要性は薄い一方で、3年目、4年目に入った端末に対し、保険のようにかけておくにはいいサービスといえる。中古端末の場合、その価値はさらに高まる。バッテリー容量が少ない端末を買ってしまった場合などは、特に重宝しそうだ。交換という形が取れるのは、同社が中古端末の流通を行っているからこそ。Androidまで含めたバリエーションが豊富な点も、同社の強みを生かしたビジネスモデルといえる。販路の拡大など、今後の展開にも注目したい。