スマートフォンの料金プランは、データ容量別が一般的だ。毎月、どの程度データ通信するかの総量で金額が決まる。これは、大手キャリアだけでなく、そのサブブランドやMVNOも同じだ。ドコモの「ギガライト」や楽天モバイルの「UN-LIMIT VII」も、その変種といえる。こうした状況に対し、速度別の料金プラン「マイそく」を打ち出したのが、オプテージのmineoだ。

 マイそくは、2022年3月にスタートした料金プラン。開始当初は、1.5Mbpsの「スタンダード」と3Mbpsの「プレミアム」の2択だったが、同年8月に300kbpsに速度を抑え、料金を990円に設定した「ライト」を導入した。正午から午後1時の間は速度が32kbpsに絞られる制約はあるものの、データ容量に上限は設けられていない。こうした新しさが評価され、2022年12月に回線数は8万を突破した。

 そんなmineoがマイそくに新たに導入したのが、速度が32kbpsの「スーパーライト」だ。同プランの料金はわずか250円。また、この料金プランに合わせ、KDDI回線のAプランに加え、ドコモ回線のDプランでもeSIMを導入する。とはいえ、32kbpsでは日常の使用に耐えないのも事実だ。速度が遅すぎるため、Webサイトの閲覧ですらタイムアウトしてしまう恐れがある。では、同社がマイそくスーパーライトを導入した狙いはどこにあるのか。

 オプテージでmineoを率いるモバイル事業戦略部長の福留康和氏と、チームマネージャーの田村慎吾氏に、導入の経緯やその狙いを聞いた。

●バックアップ回線を求めるユーザーが増えている

―― まずは、マイそくの現状と、スーパーライトを導入するに至った経緯を教えてください。

福留氏 昨今の通信障害やさまざまな自然災害で、バックアップ回線をお求めの方が増えています。mineoは、新規契約者のうち、約3割が複数SIMをご利用になっているというデータもあります。これは、割合としてかなり多いと思います。また、3Gが順次停波していくことにより、音声専用でご利用の方の乗り換えも、一定程度見込めます。その需要に応え、音声主体のサービスとして提供を開始するのが、新たに投入するマイそくスーパーライトです。

 月額250円(税込み、以下同)のため、「10分かけ放題」をつけても800円、「時間無制限かけ放題」をつけても1460円ということで、これは業界最安水準です。音声専用の方にとっては、魅力的ではないでしょうか。

―― 音声専用といっても、まったくデータ通信できないわけではないですよね。

福留氏 テキストメッセージのやりとりは可能ですが、それ以外のデータ通信に関しては事実上困難です。しかしながら、マイそくには「24時間データ使い放題」のサービスも提供されています。こちらをご利用いただければ32kbpsは解除され、通常の「マイピタ」(データ容量別料金プラン)と同様の速度になります。

田村氏 独自調査にはなりますが、「できる」「できない」は表で出しています。LINEも、テキストのやりとりはできますが、スタンプは遅れてしまい、通話は難しい。そのため、テキストメールのやりとりとメッセージはできるという言い方をしています。

―― だからこその250円だとは思うのですが、ライトの300kbpsとスーパーライトの32kbpsだと、結構な開きがあります。例えば、スーパーライトを128kbpsにするというのは難しかったのでしょうか。

福留氏 できるだけお得な料金で提供したいということで32kbpsにしています。お昼の12時(正午)から午後1時の、通信が最も混雑する時間の通信量をベースに帯域の借り入れを行っているので、32kbpsを緩和するとなると、その分だけ新たな借り入れが必要になってしまい、今のような料金での提供が難しくなります。

―― 完全にデータ通信できないようにして、維持費として250円取るという手もあったと思います。

田村氏 そこまで踏み込まず、原価とのバランスも含めて(速度や料金を)決定しています。

●子どもや両親に持たせたい、待受け電話として使いたいという反響

―― 冒頭でバックアップ回線としてというお話がありましたが、ちょうど同じタイミングでKDDIとソフトバンクが予備回線サービスを提供することを発表しました。こちらと比べたときの魅力はどこにありますか。

福留氏 (KDDIとソフトバンクのサービスは)ユーザーがより安心して利用するため(に特化した)の取り組みだと認識しています。われわれとしても、トリプルキャリアの強みを生かし、eSIMを通じてさまざまなキャリアの回線を提供することでニーズにしっかりお応えしていきたいと考えています。

―― バックアップがあった方がいいのではないかという考え方は、KDDIの通信障害で強く認識された印象があります。スーパーライトのサービスを検討し始めたのは、その後でしょうか。

福留氏 いえ。その前からですね。昨年3月にマイそくスタンダードとプレミアムを出しましたが、その時点で既に検討はしていました。当時から、スタンダード、プレミアム、ライトに加え、今回のスーパーライトの4つは案として出ていました。ただ、ファンの皆さんと会話をする中で、(4つも速度があると)分かりづらいという声もいただいていました。そこで、まずはシンプルに、スタンダードとプレミアムから開始しています。

田村氏 マイそくという考え方自体、それまでになかったものです。サービスを通信速度で選ぶこともありませんでした。いきなり4つもあると混乱してしまうので、ニーズがはっきり見えている1.5Mbpsと3Mbpsからスタートすることにしました。ただ、ライトを出したあたりで、この際だから(もっと低速で安いサービスも)というニーズが強くなっていきました。

福留氏 サービスを発表して以降ですが、自分の子どもに持たせたい、両親に持たせたい、単身赴任先の待受け電話として利用したいといったお声をいただいています。反響は大きかったですね。

●昼間は32kbpsでもマイそくが想定以上に支持されている理由

―― サービス開始から1年たたずに8万契約というのは、MVNOのサービスとして大成功と言っていいと思います。やはりニーズが強かったということですね。

福留氏 4万契約の獲得目標に対し、1年たっていない昨年末時点で8万契約を達成でき、ご好評をいただいています。マイそくシリーズはご案内の通り、お昼は最大32kbpsと速度がかなり制限されます。そのため、利用される方はかなり限定されるのではないかと想定していましたが、想定を超える獲得に正直われわれも驚いています。

―― やはり契約者は、お昼休みをズラして取れるような方が多いのでしょうか。

福留氏 他にも、Wi-Fiがあるからお昼は使わないでいいと割り切れる方や、この時間帯を抑えてもっとお得にしたいという方がいます。

田村氏 複数回線お持ちの方は、お昼だけ他社回線という方もいると思います。

―― 先ほどの、3割が複数回線を使っているというお話ともつながりますね。

福留氏 そうだと思います。

―― ちなみに、複数回線を使い分けるユーザーは、mineoがメイン回線なのでしょうか。

福留氏 データとしてそこまでのことが取れていないので、どちらかは分からないです。ただ、われわれとしてはメインでもサブでも構わない。ライフスタイルに合わせて最適な組み合わせをしていただければいいと思っています。

―― (取材時点で)スーパーライトが投入される前ですが、現時点で、料金プランの比率はどんな状況でしょうか。

福留氏 スタンダードが約8割、ライトが1割強、プレミアムが1割弱になっています。mineoのお客さまは全体的に節約志向の方が多い。スタンダードの1.5Mbpsあれば、全てのアプリをほぼ問題なくご利用いただけるので、こういった比率になっているのではないでしょうか。ファンと会話していても、まずはスタンダードを使い、足りなければプレミアムに変える、逆だったらライトにするという声をいただいています。

―― その意味だと、スーパーライトは少し層が違ってきそうですね。

福留氏 やはり、音声主体の方にご利用されるのではないでしょうか。

●かけ放題ではない「10分通話パック」を提供する狙い

―― 同時に「10分通話パック」も発表しました。やはりこういった音声系のオプションとセットで使ってもらいたいという思いはあるのでしょうか。

福留氏 セットでご利用いただいてもいいですし、そうでなくてもいいと思っています。

 ただ、10分通話パックもお客さまの声に応えたものです。昨年3月に、10分かけ放題や時間無制限のかけ放題を業界最安水準で開始しましたが、「かけ放題に入るほどではないが、そこまで長くない通話が月に数回ある」というお客さまもいらっしゃいました。仕方なく従量課金で使ってはいるが、もっと安くならないかという声を多数いただいていたこともあり、新たに10分通話パックを開始することになりました。

―― 確かに、微妙な長さの電話が少しだけあると、かけ放題に入るかどうかは悩みますね。

福留氏 例えば病院の予約や居酒屋の予約、幼稚園・保育園への連絡など、かけ放題に入るまでではないものの、かけなければいけない電話がある――そういった方がターゲットになります。具体的な金額で言うと、月々の通話料が110円以上550円未満の方は、10分通話パックに入った方がお得になります。

―― 550円以上だと10分かけ放題の方がいいということですね。

福留氏 そうですね。また、通話の頻度が高く、1回あたりの通話が10分を超えるような方は時間無制限のかけ放題をご利用いただければと思います。逆に、電話をかけることがほとんどないという方には、(通話料が30秒10円の)「mineoでんわ」があります。

―― ちなみに、他社だと音声接続を使って通常の従量課金を30秒11円前後にしているところもありますが、こちらの料金は据え置きですか。

福留氏 通話アプリをご利用いただければ30秒10円になるので、通常の通話料の従量部分は据え置きになっています。お客さまと会話する中で、料金を気にせずに安心して使いたいという声を多数いただいていたからです。そこで、まずは従量通話ではなく、定額制を優先しました。

田村氏 戦略的にかけ放題を業界最安水準で提供し、今回は10分通話パックを導入します。皆さんのライフスタイルに合わせて選択できるような形で提供しています。

●eSIMは新規獲得に寄与するサービス

―― スーパーライトと同日にドコモ回線のeSIMもスタートします。これは、あえてタイミングを合わせたのでしょうか。

福留氏 いや、同時期になったのはたまたまです。ただ、日付まで合わせたのはあえてですね。昨年提供を開始したAプランのeSIMは、新規契約時における割合が約2割にまでなっています。新規獲得に寄与するサービスということで、Dプランもできるだけ早く提供しようと考えました。

―― ちなみに、ドコモ回線の場合、MVNOも端末のEID登録が必要になっていたかと思います。これはmineoも同じでしょうか。

田村氏 はい。必要になります。

福留氏 EIDが必要なので、お客さまに丁寧に説明していくことを心掛けています。

―― 残すはソフトバンク回線のSプランだけですが、こちらはいかがですか。

福留氏 現時点では未定です。

●広告で消費するパケットを抑えるために「広告フリー」を提供

―― もう1つ、新サービスとして「広告フリー」も導入します。これは、どのような狙いがあるのでしょうか。

福留氏 自社調査結果ですが、データ通信に占める広告の割合は4割程度と大きく、知らず知らずのうちにパケットが消費されてしまう実態があります。mineoは、フリータンクやパケットギフト、パケットシェアといったコミュニケーションを通じてパケット不足を解消するサービスの導入を進めてきましたが、それと同様、広告で消費するパケットを抑制することで、少しでもパケット不足で困らないようにする狙いがあります。

―― どのような広告が対象になりますか。

福留氏 われわれが認識した広告サーバのIPアドレスが対象になりますが、逆に言えば認識できていないものは対象外です。また、SNSの広告やYouTube上の広告など、技術仕様上、判別が難しいものも対象外になります。

―― 実際、どのくらいカットできるものでしょうか。

福留氏 使い方が人によって異なるため、一概には難しいのですが、データ使用量に占める割合は4割で、一部が技術仕様上対象外になっていることも踏まえると、おしなべて言えば2割程度ではないでしょうか。ただ、ユーザーごとの振れ幅はかなり大きいと思っています。

―― 広告のIPアドレスはどうやって集めたのですか。

田村氏 トビラシステムズと提携し、そこからリストをいただいています。

福留氏 その制度に由来するので、どのコンテンツがというところまでは特定できない部分があります。ただし、トータルでどれだけパケットを節約できたかは、翌日マイページで参照できるようにします。

―― 全体として、どのぐらいフリーになったかが分かるとインパクトがありそうですね。

田村氏 タイミングはまだ検討していますが、公表することは考えています。

―― ただ、広告分のデータ消費が減ってしまうと、ユーザーに料金プランを下げられてしまうおそれはないでしょうか。

福留氏 パケット不足による解約の抑止や、付加価値が上がることでの獲得が見込めます。おっしゃっているように一部ダウンセルは発生すると思いますが、売り上げが増加するので、収支上の影響は特段ないという認識です。

―― ちなみに、アプリでは広告をブロックするものもありますが、あくまでデータ通信量をカウントしない方向にしたのはなぜでしょうか。

田村氏 広告配信というスキーム自体は、引き続き促進していくべきものだからです。広告があるからこそ、生まれているコンテンツもあります。そういった観点で、通信事業者らしく、通信量に着目しました。

●取材を終えて:競合サービスとどう差別化を図っていくかがカギ

 マイそくスーパーライトは32kbpsと低速だが、料金は250円と安い。音声通話中心のユーザーやバックアップ回線を求めるユーザーを取り込むのが、このプランの狙いだ。その意味では、これまで投入してきたマイそくとは、位置付けが変わってくる可能性もある。節約志向ながら普通に使うというより、やや特殊な使い方が中心になるからだ。バックアップ回線へのニーズが高まるなか、3キャリアから選べるのも強みになる。

 一方で、大手3キャリアが提供する予備回線サービスの料金や仕様によっては、サービスがバッティングしてしまう恐れもある。また、3Gの停波が徐々に迫る中、音声通話に特化したサービスは他のMVNOも強化している。価格のインパクトは強く、仕組みもおもろいマイそくスーパーライトだが、意外とライバルが多いのも事実だ。こうした競合他社のサービスとどう差別化を図っていくかは今後の課題といえる。いち早く速度別料金を打ち出したmineoが打ち出す、次の一手にも期待したい。