IT業界では常にエンジニア不足が叫ばれています。昨今のAIやデータサイエンス領域も例外ではなく、人材育成が課題となっています。新型コロナウイルスによる影響はあれど、高いスキルを持つITエンジニアへの高い需要は変わりません。一方で企業の新卒採用では他業種との競合があり、中途採用にも限界があります。

 そこで人材採用の視点を広げてみましょう。日本の歴史を振りかえると、大陸から技術や制度を学ぶ遣唐使や遣隋使に始まり、戦国時代の鉄砲伝来、明治の文明開化や戦後の経済復興において、重要な役割を果たした人々がいます。

 われわれは外国人の助力により、新しいものを取り込んで普及させてきました。これはAIやデータサイエンスを始めとする、IT分野においても同様です。

●外国人エンジニア採用を考える

 日本企業が外国人エンジニアを採用する背景には、日本国内だけでは採用できる人材が限られる点があります。一方で母国以外で働く場所を求める理系学生やITエンジニアも多く、米Googleや米Microsoftではインド出身のエンジニアがCEOを務めています。

 IT企業は、日本人学生に入社してもらう方法を考えるばかりでなく、外国の人材を採用する方法を考えるのも有効です。しかしながら、日本で活躍する外国人エンジニアはまだ少なく、彼らに活躍してもらうためのノウハウも不足しています。

 そこで、現代日本において助っ人の外国人が活躍する他業種の事例を参考にしましょう。身近でありながら長い歴史を持つ、外国人が活躍する分野といえばプロ野球しかありません。プロ野球の助っ人外国人を振り返りながら、IT業界における外国人エンジニアの採用と育成を考えましょう。

 本記事では昨今の球界事情に詳しくない方に配慮して、漫画「かっとばせ!キヨハラくん」(小学館)が連載されていた1990年前後のパシフィック・リーグ(パ・リーグ)をベースとします。当時のパ・リーグは人気がなく、球団はドラフトで指名した新人選手に入団拒否されていた他、払える年俸にも限界があるため他球団から実績のある選手を獲得できませんでした。

 そこで大活躍したのが、助っ人外国人です。「カリブの怪人」「AKD砲」として恐れられたオレステス・デストラーデ、外国人選手初の三冠王を獲得し場外ホームランを連発する姿をテレビで見たお年寄りが心臓発作を起こしたブーマー・ウェルズ、リーグ優勝の立役者で東京ドームの天井スピーカーにホームランボールを直撃させたラルフ・ブライアントなど、往年の名選手が挙がります。

 助っ人外国人の活躍に思いをはせながら、まずは採用について考えます。

●どうやって探すか? 

 外国人エンジニアが日本を知るきっかけとして、漫画やアニメなどのサブカルチャーや、豊かな文化、治安の良さ、安定した物価などの生活様式などがあります。京都にオフィスを構えるIT企業では、外国人に対して「京都で働ける」が口説き文句になるそうです。

 まずは英語による情報発信として、コーポレートサイトに日本の生活文化や、外国人が働く際の注意点など掲載するのもいいでしょう。英語圏の人材紹介会社や求人媒体の利用、SNSからのオファー、留学生や外国の大学との関係構築、リファラル(紹介)活動、外国のカンファレンス登壇やイベントのスポンサー出展などで、接点を作る方法もあります。

 ここで経営陣と人事担当と社内のエンジニアが一体となって、会社全体で採用に取り組むことが重要です。

 プロ野球の助っ人外国人でも、球団によるスカウトばかりでなく、もともと日本の野球に関心があった選手や、他選手からの紹介で入団した選手がいます。ここで重要なのは、当時の球団は既にメジャーリーグで実績のある選手でなく、マイナーリーグの選手や他球団で成績が振るわなかった選手に注目したことです。球団は高額な年俸を提示できないため、可能性のある選手を育成することを選びました。

 IT業界でも「シリコンバレーやGAFAのエンジニアは年収数千万円が当たり前」といわれますが、金額で対抗する採用では限界があります。企業は日本で活躍できそうな見込みのある人材を選び、適切な年収を提示しながら採用を進めていきましょう。

 その上で日本で活躍できる環境を準備しましょう。プロ野球選手もITエンジニアも、日本での仕事や生活に順応する必要があるからです。

●日本に順応するために

 日本に順応する事が求められる以上、技術力だけでなく人柄や資質も採用段階で注視する必要があります。プロ野球の助っ人外国人も、「ベースボール」から「野球」に慣れるまで時間がかかり、すぐに活躍できませんでした。前述の名選手たちも球団が即戦力としてプレッシャーをかけず、時間をかけて育成したことが後の成功につながりました。

 また、外国人エンジニアでも語学力が求められますが、流ちょうな日本語を求めるのは現実的ではありません。特に人事評価では、マネジャーや経営陣は英語によるコミュニケーションが求められるので、社内人材の英語力を高めておきましょう。

 そして仕事の進め方や商習慣、顧客との関係なども理解が必要です。日本のIT開発では一般的に顧客側の権限が強く、急な仕様変更があっても納期を順守するという文化がありますが、外国では開発側と顧客が対等な関係だったり、SIerのような外注による開発が少ない国もあります。

 外国ではささいな不具合や個別の改修で即時対応することはありませんが、画面上で文字位置がずれたら営業は土下座して始末書を提出し、エンジニアは原因究明と再発防止策を求められます。

 プログラムは世界共通でも、仕事の進め方は異なるのです。かといって、日本のシステム開発における商習慣を外国人エンジニアに強いることは、大きなストレスになります。プロ野球でも「地球(アメリカダイリーグ)のウラ側にもうひとつの違う野球(ベースボール)があった」(ボブ・ホーナー著)という著書があるように、ベースボールと野球は似て非なるものです。外国のプログラミングに、日本のシステム開発を押し付けてはいけません。無理に日本のIT業界に順応させるよりも、本人の強みを生かす仕事づくりを進める方がずっと建設的です。

 野球とシステム開発においては、チームメイトやファン、開発者やユーザーといった周囲の人々との関係構築が重要です。成績だけでなくファン人気があってのプロ野球であり、この点でもIT業界が学ぶ点は多々あります。

 遠征先のカラオケで日本の歌を熱唱するデストラーデ、ファンからのサインに常に応じるブーマー、ブライアントに至っては事実上の退団である自由契約になってもファンイベントに飛び入り参加するなど、いずれも他選手やファンに愛される存在でした。特に1987年に近鉄バファローズに入団したベン・オグリビーは、メジャーリーグの実績がありながら謙虚に全力プレーで試合に臨む姿勢などから、周囲の信頼が厚い選手でした。球場の大浴場でチームメイトと風呂に入り「白人と黒人が一緒にシャワーを浴びることなど無かった」と感動したエピソードは、多様性の先駆けといえるでしょう。

 日本のIT企業であれば、仕事が終わってから外国人エンジニアを交えて、ゲーム大会やアニメ鑑賞を開催するのも良いでしょう。間違っても居酒屋に連れ出して人生訓を押し付けたり、社員全員で踊る動画をYouTubeにアップロードするために踊るのを強要したりするのはやめましょう。

●外国人採用に関する不安

 しかしながら外国人エンジニア採用における失敗もあります。

 前述した日本の環境に順応できない場合がある他、採用段階でポートフォリオや学歴を詐称する事例もあるので身元調査は大きな課題といえます。また、本人の資質に起因する失敗も見受けられます。プロ野球では乱闘騒ぎを繰り返したトニー・バナザード、東尾修投手(当時)殴打事件に加えて大麻所持が発覚したリチャード・デービスなどの事例があります。特にデービスの大麻所持はメジャーリーグ在籍時から疑惑があり、来日後に常用していても発覚しなかった点を含めて、球団側の調査不備を指摘される問題となりました。

 選手やエンジニア自身ではなく、採用する企業側の問題もあります。

 外国人社員の採用に失敗する企業の背景には、形だけの外国人採用枠を作り強引に日本式の仕事を押し付けてしまう価値観などがありますが、それでは退職されてしまいます。新卒一括採用と画一的な社員研修、ジョブローテーションと下積みを前提とする適性を無視した配属では、外国人エンジニアも辞めたくなるでしょう。

 また、外国人をコスト削減の手段とする意識や、「日本流の仕事を教える」という上から目線は捨てましょう。一昔前のIT業界における外国人エンジニアの仕事は、「オフショア」という開発業務の一部を委託されたものでした。設計などの上流工程を日本で行い、プログラミングなどの下流工程を外国に委託してコスト削減を目指しましたが、コミュニケーション不足や指示の不備などで失敗に至ることも多くありました。

 プログラミングを「下流工程」と文字通り下に見て、あいまいな設計から「行間を読む」「察する」という日本人特有の文化を求めるのは無理があります。外国人エンジニアは労働力でも下請けでもなく、チームメイトであり仲間として迎え入れるべきです。

 プロ野球における同様の事例として、上田利治監督時代の阪急ブレーブス(現・オリックス・バファローズ)で活躍したブーマーも、後任の土井正三監督には「敬意を払わなかった」とコメントして、福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)に移籍しました。分野は異なれどプロとしてのリスペクトが重要だと分かるエピソードです。

 こうした外国人エンジニアのキャリアプランに関する不安を解消するには、外国人がマネジャー以上の職務についていると効果的です。将来のキャリアアップへの不安を解消できるだけでなく、日本人以外のメンバーの声も聞いてもらえるという安心感につながります。一例としてはトヨタ自動車のギル・プラット氏(Executive Fellow)、楽天のタリア・マルティヌッセン氏(CTO)、マネックス証券のピーテル・フランケン氏(元CTO)などが要職を務めていました。

 また、マネジャーに日本人しかいないと、どうしてもコミュニケーションにギャップが生まれます。マネジャー以上の役職に外国人を据えるのが難しい場合は、海外で働いた経験やブリッジSEとしてオフショア開発に関わった経験がある人、英語を話せる日本人を招き入れても良いでしょう。

●国籍ではなくコードを見る

 外国人エンジニアに活躍してもらうには、時間も手間もかかります。しかし活躍できれば、プロ野球における助っ人外国人以上の成果を出してくれるでしょう。プロ野球で外国人選手は2人しか出場できませんが、企業における外国人エンジニアの採用に制限はありません。そしてプログラミングは個人の能力差が顕著に現れるので、生産性に10倍、100倍の差があることも珍しくありません。日本のスタートアップでも、積極的に外国人を採用する企業や、外国の大学と連携を深めて現地採用を行う企業があります。

 一方で過去に外国人エンジニアとの仕事でひどい目にあった経験があると、安易に信用できないでしょう。しかし「〇〇人のエンジニアはダメ」と国籍で判断するのは偏見であり、日本人でもダメなエンジニアは存在します。見るべきは国籍ではなくコードであるべきです。

 現在は新型コロナウイルスの影響で渡航制限などありますが、採用面接や業務委託はリモートでも可能です。いま行える施策を準備しながら、将来に向けて外国人エンジニアと働く環境づくりを進めてはいかがでしょうか。プロ野球を見習って、IT企業における人材採用のストライクゾーンを広げていきましょう。みなさんの会社でも、未来のデストラーデやブーマーやブライアントが活躍するのを願っております。