脱ハンコで行政改革を進める現内閣だが、法相が婚姻及び離婚届でも押印の廃止を検討しているというニュースが流れた。ネットでも既にいろいろな意見があるところだが、ここは近年婚姻届と離婚届の両方を出した筆者も何か言っておくかなと思う。

 婚姻届というと、まずは役所に行って書類をもらい、それに記入して出すと思っている方も多いと思うが、実は婚姻届は、書式さえ同じであれば、自分で作っても構わない。実際に各市町村では、オリジナルデザインの婚姻届をダウンロードできるようにしているところも多い。ここでは東京都の例を見ていただこう。

 中にはオリジナルの婚姻届を作ろうなんていうサイトもあるぐらいで、一生の記念になる紙なだけに、いろいろこだわりたい人もいるようだ。だがこの婚姻届、役所に提出してしまうものなので、手元には残らない。残しておきたいのであれば、提出前に自分でコピーをとっておく必要がある。役所ではコピーは原則、してくれないのである。

 婚姻届は受理されたときに効力を発揮する。許可ではないので、審査などもないのである。もちろん民法上は、本人双方の合意があるときに成立するとあるので、騙したり同姓同名の人違いで提出された場合の解消は、離婚ではなく「取り消し」となる。

 さてこの婚姻届の押印だが、届をご覧いただければお分かりのように、左側の一番下に婚姻する両名の署名および押印欄がある。また婚姻には2名の証人が必要なので、その2名の署名と押印も必要になる。

 現在の手続きは書式としてこうなっているので、押印がなければ受理されないのだが、押印が本人確認の証拠になるわけではない。この場合の本人確認は、窓口で行われる。婚姻する両名で提出しにくる場合は簡単で、免許証やマイナンバーカードなど、写真付きの身分証明書で確認する。

 もし都合でどちらかの本人が来られなかった場合は、後日郵送で市町村のほうから、住民票記載の住所に「婚姻届が出されましたが間違いありませんか」的な通知書が届く。もし知らない間に婚姻届が出された場合は、そこで気が付くわけだ。だがこの方法は、いかにも古臭い。例えば相手が郵便物を見張っていて、市町村からの通知書を横取りしてしまえば、本人が分からないままになる可能性もある。

 いずれにしても、婚姻届の押印は認印なので、実印のように法的効力があるわけではない。本人確認は別の証明書を提出するわけだし、本人の意志確認は実務上は窓口で確認することになる。押印はあってもなくても、実務上はあんまり関係ないともいえる。

 一方証人は、届け出時に本人と一緒にくっついていくことはあんまりない。証人は本人たちの結婚の意思を担保するという意味であり、そもそも本人確認が必要なのは婚姻する2名だけである。従って押印も、あくまでも儀礼的なものでしかない。

 ただ祝い事なので、自署や押印が面倒だという人はいないだろう。

●よりオンライン化が望まれる離婚届

 一方で離婚届の方を見てみよう。よくドラマなどで登場する離婚届は、緑色の薄っぺらい紙だが、あれは市町村役場に行けばもらえるヤツである。こちらも婚姻届同様、全国の市町村のサイトからダウンロードできる。

 ただ婚姻届のようにバリエーションがあるわけではなく、どこでダウンロードしても同じ書式のようだ。おそらく書式さえ合致していれば自分で作ってもいいのだろうが、この書類を書くときはそんな気分じゃないと思われるので、各役所もそこはそれほどがんばっていない。

 そもそも婚姻届と違い、喜んで役所に取りに行く書類でもないので、ダウンロードのほうが気が楽である。筆者も離婚時はダウンロードした書式をプリントアウトした。

 書式としては、ほとんど婚姻届と同じである。左の一番下に本人の自署と押印、右側には証人2名の自署と押印欄がある。これも婚姻と同じく、窓口で本人確認が行われる。だが離婚届の場合は夫婦揃って提出に行くケースはほとんど考えられず、多くはどちらが片方か、郵送での提出となる。よって通知書で本人の意志確認が行われることになる。

 離婚も基本的には当事者2名の合意だけで成立するが、そこに至るプロセスにはいくつかのパターンがある。本人2名の合意だけで成立するのは協議離婚で、この場合は2名の証人がいる。だがお互いの条件が折り合わず、家庭裁判所に調停を申し立てた場合は、調停離婚となる。調停でも条件が整わなければ裁判となり、それで成立すれば裁判離婚となる。裁判所が間に入った場合は、裁判所が本人たちの意思を担保するので、2名の証人は不要になる。

 離婚の場合は、事情も複雑だ。例えばどちらかのDVが原因で離婚する場合は、すでに別居しており、相手方に現在の住所を知らせていないケース、さらには会うだけで危険を伴うケースもある。その場合、弁護士などの仲介者を通して相手方に印鑑をもらうなどしなければならず、コストがかかる。

 婚姻も離婚も、あちこちから印鑑をもらうという実にレガシーな方法で、本人の意志を確認しているのが実情だ。だがこれまでこの運用で、ほとんどのケースでうまく回っているという実績がある。押印廃止は、最終的にはオンライン化を目指す第一歩だろう。だがそれにより新しく「穴」ができるのであれば、人生を左右する重要な届け出なだけに、偽りの申請が通るとダメージが大きい。取り消しできるからOKというものでもないだろう。

 婚姻・離婚と似た手続きに、養子縁組がある。そこはまだ押印廃止の議論には入ってきていないが、「未成年者の親を変える」という手続きはともすれば人身売買にも繋がりかねず、慎重にならなければならない。

 再婚に伴う養子縁組の場合、どちらかの実子であれば届け出だけで済むが、それにはもう一方の元親の押印が必要になる。親権がなくなるというのも大きな権利の喪失になるので、意思確認を明確に行う必要がある(夫婦どちらの実子でもない子供を養子にする場合は家庭裁判所の許可が必要なので、そこで意思は明確になる)。

 押印が意思確認の代わりにはならないのは言うまでもないが、証人も含めその押印をもらうプロセスで、本人たちの意思の確認が行われる可能性が高いとはいえる。今は押印によってとりあえず回っている手続きではあるが、複数人の大人の意思によって、第三者である子供の人生が変わる手続きであるだけに、そこに手を入れる際はかなり慎重になるべきだ。

 少なくとも今、紙でやっている手続きで押印を廃止しただけというのは、通用しないだろう。戸籍の変更を伴う届け出全般は、手続自体の再構築が求められる部分だと思う。

※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、小寺信良さんのコラムを転載したものです。