サントリーは10月27日、グループ全体のITインフラにAmazon Web Services(AWS)を採用し、2020年7月までに国内にあった受発注、売上予測、顧客データ管理などのサーバ1000台超をオンプレミスからAWSに移行したと明らかにした。これに伴って日本とシンガポールのデータセンターを解約し、インフラの運用コストを25%削減したという。今後は海外のグループ企業でもAWSへの移行を進め、ITインフラを統合管理する方針だ。

 サントリーグループの企業数は世界各国で計300社。日本をはじめ、アジア・オセアニア、米国、欧州にそれぞれ約50〜90社を展開している。従来は国や地域によってITインフラと運営組織が異なっており、一体的な運用やセキュリティ対策が難しく、運用管理のコストもかさんでいた。この状況の改善に向けて、まずは日本でAWSを導入したという。

●資産管理などから解放されて「身軽になった」

 国内でのAWS移行の手応えについて「ハードウェア・ソフトウェアの資産管理、サポート期限の管理、バージョンアップ対応から解放されて本当に身軽になりました」と、サントリーシステムテクノロジーの加藤芳彦取締役(基盤サービス部長)は話す。「今後はグローバルの運用を統合し、全体的にレベルアップします」という。

 サントリーシステムテクノロジーは、国内外のグループ企業向けにITインフラの運用管理やアプリケーション開発を行っている。加藤取締役によると、サントリーが日本国内でAWSを使い始めたのは15年。AWSの日本市場への参入が早く、15年の時点で大手企業での導入実績があったことから選定したという。その後はトライアルや技術調査を進めつつ、AWSのサポートを受けながら、グローバルでのクラウド移行の構想やスケジュールを策定した。

●国内でのAWS移行の流れは?

 同社は翌16年にかけて海外のグループ企業のCIOと交渉し、AWS移行への合意を得た。移行を支援してもらうAWSのパートナー企業の比較検討も行い、最終的にクラスメソッドに依頼。グループ内では、各国のIT人材を集めて移行の専任チームを結成し、17年7月から日本でのAWS移行を本格化した。

 移行に当たっては、オンプレミス上で動かしていたアプリケーションの一部を、クラウドでの稼働に適した仕組みに再構成。残りのアプリは仕様を変えずにAWS上に移し、それから徐々に最適化を進める「リフト・アンド・シフト」方式を採用した。

 この方針のもと、まずは2019年7〜11月、売り上げデータを収集するシステムをクラウドに移行。不具合が起きると業務に影響を及ぼすことから時間をかけて慎重に作業したという。そこで得たノウハウを踏まえてプロセスを改善し、20年1〜4月と5〜7月に残るシステムをAWS上に移した。オンプレミスのデータセンターを解約したのは20年8月だ。

●AWS移行の思わぬ課題とは

 これらの作業によって全サーバをクラウド化し、前述の手応えを得ているものの、課題もあったと加藤取締役は話す。

 「不要なサーバの棚卸しにも手間取りましたが、データの移行には想定以上の時間を要しました。最初はデータ転送サービスの『AWS Snowball』を試したものの、ダウンタイム(稼働停止時間)が長くなり、有線の『AWS Direct Connect』をオンプレミスに接続してデータを送る方針に切り替えました」

 また、移行した当初のITインフラは、以前のオンプレミス環境よりもパフォーマンスが落ちることがあった。そこで専任チームは、AWSのサポートを得ながら、ストレージへのI/O(入出力)のチューニングなどを行って対処したという。

 現在はパフォーマンスを改善できており、今後はコンテナやサーバレスといった最新技術を取り入れてインフラをさらに強化する方針だ。データ分析も本格化し、小売店で売り上げがアップしやすい商品の並べ方などを検討するとしている。

●国内での経験を生かし、海外での移行プロセスを洗練

 日本でのAWS移行で得たノウハウを生かして、サントリーグループでは20年夏から米国と欧州の企業でAWS移行を始めている。アジアやオセアニアでは21年から移行する予定だ。クラウド化が難しい一部のシステムの基盤にはプライベートクラウドを採用するが、22年にはサントリーグループのシステムの大半がAWS上で稼働する見込みだ。

 「チームに海外メンバーを組み込んだことで(国内の)現場では一体感が出ました。グローバルでの移行プロセスはかなり洗練されています。これにより、セキュリティやネットワーク接続性、コスト面などをさらに改善していきます」と、グループ全体の持ち株会社・サントリーホールディングスの城後匠氏(経営企画・財経本部 BPR・IT推進部 部長)は話している。