iPhone 12が発売になり、その前にはGoogleのPixel 4 (5G) 、Pixel 5が発売になったこともあり、改めて5Gに注目が集まっている。

 特に話題になることが多いのが、iPhone 12において、アメリカ版ではサポートしたにもかかわらず、日本を含む他国ではサポートしなかった「ミリ波」の存在だ。

 日本のiPhone 12でミリ波がサポートされていなかったことから、「日本版iPhoneは偽物の5Gだ」という極論まで聞こえてくる。

 もちろん実際には、そうではない。現実問題として、今年発売されるスマートフォンのほとんどは、まだミリ波に対応していない。「今年(2020年)発売される5Gスマートフォンの場合、ミリ波対応が必須というわけではない」と筆者は考えている。

 今回は改めて、ミリ波の事情から「5Gとは何なのか」を考えてみたい。

●4Gと5Gの違いは「周波数帯」活用の考え方

 まず、現状の5G規格とはどういうものかを振り返っておこう。

 言うまでもなく携帯電話の通信規格なのだが、3G・4Gとの大きな違いが2つある。

 1つは、高周波帯域を活用する、ということだ。

 電波は「公衆材」「不動産」に例えられることが多い。周波数ごとに用途や使う企業・団体が定められているが、その様子は公有地の区画割のようだ。一般論として、周波数が低いほど遠くまで飛び、建物や地形を回り込みやすく、周波数が高いと性質が光に近くなり、直進性が高くなる。また、周波数が高いほど伝送容量(通信路の中で伝えられる情報の量)が多くなる。

 4Gまでは、比較的低い(700MHz〜900MHz)電波も使っているので、広く・あまねく通信が届く。一方で、周波数帯が低いため、伝送容量は多くない。

 速度を上げるため、結果的に、低い周波数帯から順に割り当てて使っていき、複数の周波数帯の通信を組み合わせることで速度を高めている。いわゆる「キャリアアグリゲーション」(CA)がこれだ。

 高周波帯は直進性の高さと減衰性の高さから、利用が限定的だった。4GでCAの利用を前提に高い周波数が使われていく一方で、「もっと高い、まだあまり使われていない周波数帯を活用しよう」ということになる。電波を土地に例えるなら、高周波帯は「ちょっと使いにくいし駅前からは離れているけれど、大規模開発が可能な場所」のようなものだ。帯域が空いている分、幅広い帯域を使って通信することが可能になる。幅広い帯域が割り当てられていれば、より多くの人が同時に使っても速度は落ちづらい。

 というわけで5Gでは、まず高い周波数帯を使うことが前提となった。

 具体的には、3.6GHzから6GHzまでと、30GHzから300GHz帯の2つの領域だ。前者を6GHz帯以下ということで「Sub 6」、後者を波長が1cmから1mmであることから「ミリ波」(英語ではmmWave)と呼ぶ。厳密には、現在日本で5Gが使うミリ波は27〜30GHzなのだが、まあそこはそういうもの、と理解していただきたい。ちなみに、6GHzまでを「FR1」、24.25GHzから52.6GHzまでを「FR2」と呼ぶこともある。

●「飛びづらい」電波を活用して高速で高効率なネットワークを実現

 そして、高周波を使うということは、次のもう1つの特性に大きく影響してくる。

 5Gは4Gとの共存を前提に作られているが、4Gとは現状(あくまで「現状」だ。詳細は後述する)帯域が異なる。すでに述べたように、周波数帯が高くなるほど電波は直進性が高くなる。そして、ミリ波ともなると、空気中の水分での減衰も無視できない。結果として「本当に遠くまで飛ばない」のだ。

 4Gで最も大きな基地局は半径数キロメートルのエリアをカバーするが、5Gの基地局は半径数百メートル、といったレベルだ。ミリ波はさらに飛ばず、数十メートルがせいぜい。極論すればWi-Fiと大差ない。

 遠くまで飛ばないとすればどうするのか? 小さな基地局を多数置き、連携してエリアを埋めることでカバーする。

 基地局が大きいことにはデメリットもある。1つの基地局がカバーする周波数帯の中に多数の人が入るので、多くの人が使った場合の通信速度が下がる。だが基地局を小さくし、多数の基地局でカバーするなら、速度維持がより容易になる。

 この「スモールセル」という考え方は昔からあるもの。1990年代のPHSがまさにスモールセルであり、3Gでも4Gでも、主に都市部で活用されてきた。5Gではスモールセルが基本になることに加え「Massive MIMO」も使われる。

 MIMOとは、送受信に複数のアンテナを使って通信品質を向上させる技術の総称。今ではWi-Fiから携帯電話まで、あらゆる場面で使われている当たり前のものだ。それを5Gでは、基地局に128素子・256素子といった超多数のアンテナを配置し、実現する。

 さらに、電波をピンポイントに絞り込んで届ける「ビームフォーミング技術」も前提となる。届きにくいミリ波の到達距離を広げるにも必要だ。これにはMassive MIMOで使うような多素子アンテナが必要となる。

 スモールセル同様、Massive MIMOも5Gだけのもの、というわけではないのだが、4Gで効率をあげるために使われた技術が5Gでは「前提」となる。基地局同士の連携もさらに高度な技術が必要になる。それによって、同じエリアに多くの人がいても、速度を維持して通信がしやすくなる。

 というわけで、「高速通信ができるものの電波が届かない」というデメリットを、新しい世代の技術を積極的に使うことでカバーするのが5Gの本質なのである。

●飛ばないミリ波

 ここで話を冒頭に戻そう。

 現状、iPhone 12を含め、日本ではほとんどの5G端末がミリ波に対応していない。

 「あまり使われていない高い周波数帯をぜいたくに使って高速通信を実現する」という意味では、Sub 6よりもミリ波の方が理想に近い。「だから、ミリ波に対応していない5G端末はニセモノだ」という気持ちも分かる。

 しかし、である。

 現実問題として、ミリ波の運用はとても難しい。本当に、シャレにならないくらい電波が飛ばないのだ。アンテナと端末の間に人が立っただけで通信品質が悪くなるくらいである。

 スタジアムや建物の中などにミリ波のアンテナが設置され始めているが、そうした場所での利用実績が積み重ならないと、街中でミリ波がガンガン使われる状況にはなりにくい。

 海外でもそれは同様だ。ミリ波が「広くあまねく使えている」地域はほとんどない。

 アメリカ版iPhone 12でミリ波が採用されたのは、アメリカ最大手のVerizonがミリ波を積極利用しているからだ。だが、そのVerizonでも、ミリ波でのエリアカバーには苦戦しており、入る場所は限られている。

 携帯電話はラフに使われるものだ。家庭で使われるWi-Fiと比較しても、アンテナの位置や電波強度を意識して使うことはまれである。現状世界的に見ても、そして日本でも、当面スマートフォンで使えるのはSub 6での5Gが中心と考えていい。それでもエリア展開には苦戦しており、4Gで当たり前になった「どこでも電波が入って通信ができる」という状況には程遠い。4Gでのエリアカバーが充実している日本の場合、特にギャップが大きく感じることだろう。

 「ならばそもそも5Gが今はまだ不要なのでは」

 その考え方も分かる。高い通信費を払う必要はまだない、と考える人もいるだろう。

 だが、その点は今後、多少変化がある。周波数帯活用の考え方に変化があるからだ。

 KDDI(au)とソフトバンクは、4Gに使っている電波の一部を5Gに転用する。具体的には、auがまず700MHz帯と1.7GHz帯を、ソフトバンクが700MHz帯と3.4GHz帯を5Gに使う。

 届きやすい周波数帯を使うことで、5Gのエリア展開は劇的に改善するだろう。要は、スマホの電波ピクトグラムで「5G」と表示されるエリアが広がるのだ。

 だが、NTTドコモはこのやり方に批判的だ。4Gで使っている帯域を転用しても、通信に使える帯域幅は広くならないからである。5Gとはいうものの、数Gbpsといった通信はできず、数百Mbpsという4G+α程度の速度にとどまる。また、4Gの帯域を5Gで使うということは、それだけ4G利用者の速度が落ちる可能性もある。ドコモは他社と異なり、4.5GHz帯にも5Gの帯域を100MHz分持っているため、こちらを積極活用する。

 ドコモの手法は通信速度的にはプラスだが、エリア拡大的には他社に比べ不利になる可能性がある。4G+αとはいえ、技術が進化した分多少速度は上がり、5Gのネットワーク側には4Gより余裕があるので、快適さでは勝る可能性も高い。

 この辺も含め、5Gの快適さや利用状況については、年末から来年にかけてで大きな変化が起き、1年ほどで「5Gがかなり使える」と感じられるようになる可能性は高い。「使い放題に近くなる」という料金体系を考えても、5Gにしておくことに意味がないわけではない。今日5Gに変えて変化を待つのも、変化してから5Gに切り替えるのも、そこはユーザー次第だ。

●「ミリ波は未来」だが「今」ではない

 ではミリ波はどうなるのか?

 もちろん、スポット的な利用は進むだろう。スタジアムや駅などでの利用に加え、現在はWi-Fiでオフロードしているカフェなどをミリ波でカバー……という発想もあるだろう。ただこちらは、効率の良いWi-Fi 6とどちらで置き換えるべきか、という議論はある。

 もちろん、各所での動作検証と低コスト化が進めば、スマートフォンやPCにSub 6とミリ波が両方搭載される未来がやってくるだろう。今の「Sub 6だけの5Gスマホ」が一時的な存在なのは間違いないのだが、当面「ミリ波がないからものすごく苦労する」か、というとそんなこともない。筆者の予想では、「2年くらいはミリ波がなくても困らない」のではないかと思っている。

 スマートフォンを4年使うなら、今、ミリ波のないスマホを買うべきではない。だが、今からミリ波のことを考えている人は、同じ機種を4年使うことは少ないのではないか。2年後に、消費電力が下がって使いやすくなった5Gスマートフォンに改めて買い換えるときにミリ波対応をでもいいのではと思う。

 一方、ミリ波については、活用の可能性が高いといわれているのが、「FWA」(Fixed Wireless Access)と呼ばれる固定回線代わりの利用だ。

 例えばVerizonは携帯電話だけでなく、まさにFWAとして、電柱から家の中へ「ブロードバンド回線として5Gを引き込む」サービスも提供しており、ここでは「窓にミリ波の受信端末をつける」ことで、家の中へ電波が入りづらいことへの対策を講じている。

 FWAはエリア展開の計算も、携帯電話での利用に比べて容易だ。そのためこちらでの利用に期待をかけている事業者もいる。特にケーブルTV局は、携帯電話事業者の5Gでなく、局所的に免許を取得して5Gを利用する「ローカル5G」を使い、このFWAでのアクセス網整備を検討している。今でいう、家庭用モバイルルーター向けに5Gを……という話はもっと出てくるだろう。そちらではミリ波の話は重要になりそうだ。ただ、こちらも今日明日の話ではなく、まだ1年・2年という単位での時間が必要だ。

 5Gにおいて、より帯域を伸ばしていくにはミリ波の領域を広げていくしかない。それこそ、300GHzまではまだまだ「空き地」がある。だが、その空き地を使うのはもっと先の話だ。ミリ波は「とても可能性が高く、5Gの将来を支えるもの」なのだが、今日の話ではないし、来年の話でもない。「今年発売される5Gスマートフォンの場合、ミリ波対応が必須というわけではない」と筆者が考えるのは、そんな事情があるからだ。

※●この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、西田宗千佳さんのコラムを転載したものです。