音楽系クリエイティブワークにおけるM1 Macのパフォーマンスを紹介する連載の第4回目は、Apple純正のDAWである「Logic Pro」やAvid「Pro Tools」における、プラグイン絡みの高負荷の話題について触れてみたい。筆者のApple Siliconマシンは、Mac miniの8GBメモリ、256GB SSDという最安値構成モデルだ。

 前回の「M1 Mac、まさかの敗北 Apple純正Logic ProでIntel Macに勝てないとは」では、M1 Mac mini(8GBメモリ)とIntel MacBook Pro 2020(32GBメモリ)上で、Logic Proを起動しリバーブプラグインを設定したトラックの再生可能限界数を比較した。「比較するならメモリをそろえろ」という貴重な意見も多数いただいたが、前々回の「最安M1 Mac mini、まだApple Silicon最適化されていないPro Toolsの性能に脱帽」では、8GBメモリのM1 Mac miniが圧勝したことから、検証条件の連続性を担保する意味で、あえて「8GB対32GB」での検証を実施した。

 しかし、Apple純正の「Space Designer」では、Intel MacBook Pro 2020が勝利し、サードパーティー製の「Fabfilter Pro-R」では、反対にM1 Mac miniが勝利するという、まったく正反対の結果が出たことから、「謎が謎を呼ぶテスト結果」と締めくくった。

 今回は、その謎を解明するためにリバーブプラグインにおけるプログラミング方式の差異(後に詳述)に着目してテストした。結論から言うと、前回のFabfilter Pro-R対決において、搭載メモリが4分の1しかないM1 Mac miniが勝利したのは、Fabfilter Pro-Rというプラグインがユニバーサル化され、かつ、秀でた能力を保持していることが大きく影響した、としか考えられない結果となった。つまり、「Fabfilter Pro-RだからM1 Mac miniが勝った」というわけだ。

 そこで、今回は、Fabfilter Pro-Rと同等のプログラミング方式の、なおかつ、ユニバーサル化されているApple純正の「ChromaVerb」(Logic Proに内包)で同等のテストを実施した。前回同様、M1 Mac mini(8GBメモリ)とIntel MacBook Pro 2020(32GBメモリ)で、Logic Proを起動し、192KHz/24bitのPCMファイルを読み込んだトラックに、ChromaVerbを設定してトラック数を順次増やしていった。

●今回もM1 Mac miniが苦汁をなめる結果に

 今回の検証の焦点となる、リバーブのプログラミング方式の差異について説明しておこう。リバーブプラグインは、大きく分けて2種類ある。(1)アルゴリズム型と(2)コンボリューション(サンプリング)型だ。アルゴリズム型は、その名が示す通り、さまざまなアルゴリズムを元にアンビエント音響をモデリングすることで、残響効果を生み出している。

 その一方で、コンボリューション型は、音響空間におけるインパルス応答のサンプリングデータを記録し、そのデータを基にして残響効果をモデル化する。実際、ホールなどで、インパルス(継続時間が非常に短い音)を発生させ、その空間の残響の特徴をマイクで収録しておき、そのサンプリングデータと信号を「コンボリューション=畳み込み演算」処理することで残響効果を再現する。

 Fabfilter Pro-Rはアルゴリズム型で、Space Designerは、コンボリューション型である。一般論として、アルゴリズム型に比較して、コンボリューション型の方がメモリを多く消費するといわれている。前回のSpace Designer対決において、32GBメモリのIntel MacBook Proが勝利したのは、搭載メモリの差異が影響したとの仮説を立てたわけだ。

 ならば、形式が異なるSpace Designerではなく、Fabfilter Pro-Rと同じアルゴリズム型のChromaVerb(Apple純正)でテストして、前回同様メモリの少ないM1 Mac miniが勝利したら、前回の謎を呼ぶ結果は、プログラミング方式の差異によるものだと考えることができる。

 しかし、結果はその仮説を裏切るものだった。ChromaVerbによる対決でも、M1 Mac miniが負けてしまったのだ。Intel MacBook Proでは、15トラック前後で「システムが過負荷です」アラートが出るのに対し、M1 Mac miniでは、8トラック前後で、同様のアラートが出てしまう。場合によっては、8トラックでの再生中でもアラートが出ることがあった。

 それにしても、Logic Proに付属のChromaVerbにおいても、M1 Mac miniが負けてしまったのは、ちょっとばかりショックだった。アクティビティモニタを眺めてもその原因が分からない。そのようなわけで、最初に結論づけたように、前回のFabfilter Pro-R対決でM1 Mac miniが勝利したのは、Fabfilter Pro-R自体が秀でた能力を保持していることが大きく影響していると判断したわけだ。価格もプラグイン単体で2万8600円と、Logic Pro本体の2万4000円より高額なので、さもありなんとも言えるのだが……。

●Logic Proは、個々のプラグインでパフォーマンスに差異が出る

 上記のことから考えられるのは、プラグインが絡んだ場合のLogic Proにおけるパフォーマンスは、個別プラグインの効率性や性能差により左右され、「プログラミング方式の種類」「ユニバーサル化されているから」「Apple純正だから」「メモリの多寡」といったくくりでは単純に比較できないということではないだろうか。

 加えて言うなら、前々回の「最安M1 Mac mini、まだApple Silicon最適化されていないPro Toolsの性能に脱帽」では、非ユニバーサルでありながら、Avidの「Pro Tools」が高いパフォーマンスを示したように、プラットフォームとしての、DAWの性能差も影響しており、M1 MacとIntel Macのパフォーマンス評価は、さまざまな要素が複雑に絡み合い、ケース・バイ・ケースで差が出るということであろう。

 ただ、このような結論を導いた上で、あえて訴えたいのは、音楽制作においては、「M1 Macを使え」という点だ。理由は、「ファンの音が静かだから」、これに尽きる。

 上記のような単純なトラックの再生数競争であれば、メモリを多く搭載できるIntel Macに軍配が上がる場面も多かった。しかし、Intel MacBook Proの方はトラックが増えていくに従い、CPUの温度上昇に伴うファンノイズが気になって、興ざめすることもしばしばだった。一方のM1 Mac miniの方は、再生可能トラック数上限まで高負荷をかけても、終始静かなものだった。

 ファンが高速回転する音は、音楽の録音や再生に悪影響を及ぼすのはもちろんだが、精神衛生上も甚だよろしくない。Intel MacBook Proが「シャーッ!」という音をたて始めると、録音していても、いつ止まるのではないかと気が気でない。

●M1 Mac非対応のPro Toolsの優秀さが際立った

 上記とは別に、M1 Mac miniにおける、Pro Toolsの限界パフォーマンスの検証も実施した。1月中旬時点でのPro Toolsのバージョンは「2020.12」で、Avidのリリース情報を見ると、「macOS Catalina (10.15.7)、macOS Mojave (10.14.6)および High Sierra (10.13.6) がサポートされます」とだけ記載されており、Apple Siliconはもちろん、macOS Big Surについても、一言も触れられていない。つまり、双方ともに正式には非対応ということだ。

 それでも、Pro Toolsは、M1 Mac mini上で驚くべきパフォーマンスを示した。96kHz/24bitのPCMファイルを読み込んだトラックに、「D-Verb」(Avid純正、アルゴリズム型)や「Space」(Avid純正、コンボリューション型)を設定してトラック数を増やしたが、上限の64トラックに達しても、何の問題もなく、連続再生が可能だった。

 「上限64トラック」というのは、筆者が導入している、“素"のPro Toolsの場合、96kHzの音源ファイルだと64トラックまでしか再生ができないからだ。さらに、前出のLogic Proのテストの様に、192kHzの音源も使用していない。これは、Avid純正の「Space」が96kHzまでしか対応していないためだ。一方の、Intel MacBook Proの方は、D-Verb(アルゴリズム型)は比較的静かだったが、Space(コンボリューション型)において、ファンがやかましいくらいに高速回転して、使っていて萎えてしまった。

 ちなみに、Pro Toolsは、DSPをたくさん搭載したHD系のアクセラレター等を別途導入することで最大192チャンネルをサポートし、プラグインもてんこ盛りで利用可能だが、それを実現するためには、数百万円の投資が必要であることは申し添えておく。

 Pro Toolsに限らず、現状、Apple Siliconに正式対応していないDAWやプラグインは多い。だが、順次対応が進むことで、M1 Macのパフォーマンスをフルに引き出す環境が整っていくことだろう。加えて、現状では、メモリを最大で16GBしか搭載できないが、メモリのさらなる増設が可能になった暁には、音楽制作におけるM1 Macのポジションは、信頼に足るものになるのではないか。そして何度でも言うが、「ファンの音が静か」というのは、DTMユーザーにとっては、何にも代えがたい「正義」ではないだろうか。