M1 Macと音楽系クリエイティブワーク周辺の話題を紹介する連載の第5回目は、ソフトウェア音源にフォーカスした話をお届けする。筆者のApple Siliconマシンは、Mac miniの8GBメモリ、256GB SSDという最安値構成モデルだ。M1 Mac miniの導入を機に、サンプリング型の音源からモデリング型に切り替えた、という内容だ。ただし、ドラム音源の切り替えは見事に失敗に終わってしまった。

●M1 Macにモデリング型音源は、最適なのか?

 ピアノ音源を、これまで利用していたサンプリング型からモデリング型に移行した。これまでピアノ音源は、主にサンプリング型であるSynthogyの「Ivory II」を利用していた。Ivory IIは、音源をフルインストールすると80GB以上、DVD-Rにして11枚という、暴力的ともいえるストレージ容量を要求される。とてもではないが、内蔵SSDが256GBの我がM1 Mac miniには、荷が重すぎる。

 Ivory IIは、ディスクのアクセス速度にシビアだ。同時発音数が多かったり、リアルさを追求してピアノ内部の共鳴パラメーターを調整していると、外付けディスクの場合、音源ファイルへのアクセスが追い付かずノイズが出る場合が多々ある。外付けのストレージへの音源インストールは避けたい。

 一方のモデリング型であれば、サンプリング型と比較して、ストレージ容量の節約が可能だ。リアルタイムの物理演算パワーで音を奏でるモデリング型の場合、それなりのCPUパワーを必要とするが、M1 Macであれば、余裕をもって駆動できる可能性がある。

 そこで、モデリング型ピアノ音源として定評のあるMODARTTの「Pianoteq 7 Pro」に全面的に移行する決断をした。Pianoteq 7 Proのインストールに必要な容量は、50MBとIvory IIの1600分の1で事足りるし、M1 Macのパワーであれば、高いサンプリング周波数で鳴らすこともできると考えたのだ。狙いは見事的中。次に説明するように、気持ちよく鳴らすことができた。

 筆者は、これまで上記のIvory II以外にも、Pianoteqの1つ前のバージョンをiMac 2017 (4.2GHzクアッドコアIntel Core i7、32GBメモリ)にインストールしたLogic Proで鳴らしていた。しかし、遅延を嫌って少なめのバッファサイズ、192KHz/24bitのハイレゾ音質で鳴らすと、CPUの処理が追い付かず、ブチッブチッブチッと醜いノイズが連続的に出ていた。仕方がないので、48〜96KHz/24bitでの録音・再生を行っていた。

 しかし、M1 Mac miniにおける、Logic Pro+Pianoteq 7 Proの組み合わせだと192KHz/24bitで鳴らしてもノイズが乗ることはないのだ。少なめのバッファサイズ設定でも大丈夫であった。もちろん、演奏内容により同時発音数が増えれば、問題が健在化する可能性も否定はできないが、リアルタイム演算で楽器の音を鳴らすモデリング音源においても、M1 Macの強みが存分に発揮されるということではないだろうか。

 ちなみに、Pianoteq 7 ProがApple Siliconに対応しているという情報は、メーカーサイトのどこにも記載されていないのでRosetta 2翻訳で動作していると推測している。macOS 11(Big Sur)には、対応済みだ。ただ、この音源は、以前よりLinux駆動のRaspberry PiのようなArmベースのシングルボードコンピュータとも互換性があるので、「Armつながり」ということで、Apple Siliconにもいずれ対応してくれるだろう。また、公式MODARTTのユーザーフォーラムでも「中の人」っぽい人物が、Apple Siliconのサポートを明言している。

 Pianoteq に限らずモデリング音源は、CPUリソースの不足によるノイズ発生というリスクを意識しながら使う必要があるので、CPUがパワフルであれば、それだけ安心できるというもの。モデリング音源とM1 Macの組み合わせは、机上で音楽を作るものとして福音の一つになるのではないか。

●MODO DRUMは、M1 Macでインストール不可

 ピアノ音源で気を良くした筆者は、ドラム音源も乗り換えてやろうと考えた。それまで利用していた、サンプリング型のFXpansion「BFD2」からIK Multimediaの「MODO DRUM」へと移行を試みた。BFD2は、DVD-Rが5枚で約50GBの容量が必要だ。一方のモデリング型のMODO DRUMは約20GB。モデリング音源としては大容量だが、BFDの半分以下ということで、ここは手を打つとしよう。

 そこで、意気揚々とIK MultimediaのサイトからMODO DRUMをダウンロード購入したのだが、ここで、大問題が勃発。MODO DRUMのインストールができない。インストーラーを起動すると、「CPUがAVXをサポートしてない」と拒否られる。で、よくよく、IK Multimediaのサイトを読むと、MODO DRUMは「64 bit、AVX命令セット対応のCPU、オペレーション・システムが必要です」と明記されている。

 AVX(Advanced Vector Extensions)とは何か。同社のサイトには、「2011年にIntelとAMDによって導入されたCPU用の命令セットの拡張仕様」と記載されている。MODO DRUMの場合、Rosetta 2ウンヌンという次元ではなく、Intel系のCPUでないと、全くお話にならないということを購入後に知るというお粗末さ。仕方ないので、当面は、前出のIntel iMacにインストールして利用することにした。

 ちなみに、Appleが公開しているRosetta翻訳に関する情報「About the Rosetta Translation Environment」にも「Rosetta は全ての x86_64 命令を翻訳するが、AVX、AVX2、AVX512 ベクトル命令など、いくつかの新しい命令セットやプロセッサ機能の実行はサポートしない」と明記されている。

 IK Multimediaの日本オフィスに同社製品のApple Siliconへの対応予定を聞いたところ、「現時点でBig Sur対応とともに検証中」との返答。ただ、Big Surについては、別の筋から、ほぼ全てのアプリが動作しているという情報を得ているし、Apple Siliconについても、鋭意検証を実施し、MODO DRUMや専用ドライバが必要なオーディオインタフェースを除いては、基本的にRosetta 2で動作しているといううわさは伝え聞く。

 実際、筆者お気に入りのAmpliTube 4(最新の「5」は未導入)や、Lurssen Mastering Consoleは、何の問題もなくRosetta 2経由で動作している。MODO DRUMも早期の対応を期待したいところだ。

(山崎潤一郎)