教員や保護者が学校に必要なシステムを自分で作る──長野県にそんな“新しい小学校”がある。

 同県佐久穂町にある大日向小学校は、児童数112人、教職員22人(2020年5月1日時点)で、自然豊かな場所に立地する学校だ。そんな同校では、チャットやクラウド、NASなどのITツールの活用はもちろんのこと、自作アプリを実際に運用して業務の効率化を図っているという。

 非エンジニアが課題解決のためにアプリを作成──実現の鍵は「ローコード開発」だった。

●情報はアプリで一元管理

 学校では、職員会議なども含め校内の情報共有に時間を割くことが多い。児童の情報は大抵分散しており、個人情報や面談の記録はもちろん、児童がどこでどんな行動を取っていたかという情報も各教師でバラバラに持っている。

 そこで大日向小学校は、「児童・生徒情報」という児童の情報共有のためのWebアプリを作った。アプリには、児童の名前や生年月日、出身幼稚園・保育園など基本的な情報が入っている。そして、そこにリンクさせる「観察記録」「面談記録」「保健室来室記録」というアプリを別途作成し、個人情報とひもづけた。各アプリの内容を更新すれば、全て児童・生徒情報アプリだけでチェックできる。

 このうち「保健室来室記録」のアプリは保健室の養護教諭も作成に加わった。記録のグラフ化や検索がやりやすくなったという。記録項目の追加やデータの並べ替えは養護教諭が自分で編集できる。現場で作られているからこそ生まれた仕様といえよう。

 同校で、アプリ作成や運用の中心になっている教諭・原田友美さんは効果として最適な形を自分たちで作っていける点を挙げた。原田さんらがアプリの作成で活用しているのは、サイボウズが提供する業務アプリ作成サービス「kintone」で、ドラッグ&ドロップ操作だけでアプリを作れるため教師たちが自分たちの欲しかったツールを作れるようになったという。

 桑原昌之校長は「教師たちが自分の持っている時間の大半を子供たちと向き合う時間に回せるようになった」と話す。

●保護者も一緒にアプリ作成

 学校が外部とつながることもできる。保護者が立ち上げた自主運営型の学童クラブ「こどもの居場所と遊びのサポート ひなたぼっこ」では、自作アプリで学校と連携している。

 大日向小学校には、スクールバスで帰宅する児童も多い。以前はバス乗車の有無と学童保育の出欠のデータベースが別々になっていたため、「学童保育に参加する」と連絡していたにもかかわらず、バスに乗って帰宅するなど児童が予定外の行動を取った場合、学童側と教員側が確認のために駆け回る事態が起きていた。

 そこで作ったのが「バスアプリ」だ。児童の学童へのチェックイン情報を学校側でも確認できるようにし、バスの乗車記録を学童側で把握できるようにした。これだけで確認の手間を無駄に取ることがなくなった。いずれは欠席連絡や成果物の提出もできそうだという。

●先生がずっとスマートフォンを見ている

 とはいえ、課題も見えてきた。アプリを扱えない教員はいないが、アプリの作り手が足りない。「簡単なものは5分くらいでできるが、まだ私以外が作れる状態にはなっていない」と原田さんは話す。作成者を増やすことが、より現場の可能性を広げるカギになるだろう。

 また、原田さんがよく外部の人に指摘されることは、「先生がスマホをずっと見ていることで子供たちに悪影響はないのか」という点だ。

 これについて、原田さんは「(スマホは)教師に連絡をするための『校内放送』のようなものです」と話す。

 例えば、児童が保健室に行きたいと言えば、教員がスマホで連絡するというように、日常の中に自然に使う。裏でこっそりと連絡を取り合うのではなく、児童の目の前で連絡を取り合う姿を見せることで「これは学校の活動として必要なこと」と伝えるのだ。

 「世の中にスマホは当たり前にあるものですから、それに制限を加えるのではなく、良い使い方をすることが大事です。子供たちもスマホやiPadを学校に持ってきますが、今のところ大きなトラブルにはなっていません」(桑原校長)

 大日向小学校では自作アプリの活用で情報共有が早くなった。現在長時間労働に悩む教師たちの仕事は、大半が情報共有と事務作業だ。大日向小学校のチャレンジでは、児童のための時間を大いに増やせた。これは、教育のIT化がもたらす大いなる可能性を感じさせるものだ。