新型コロナウイルスの感染拡大は、シェアサイクルにいい意味で大きな影響を及ぼしている。テレワークなどの普及による都心部への出勤減少や、訪日外国人客激減の影響で、シェアサイクルの利用者は減少傾向にあるのでは……と思いきや、実は「密を避けた移動手段」として、シェアサイクルの利用ニーズが高まり、利用回数が増えているのだ。

 東京都内11区などでシェアサイクルを運営するNTTドコモ傘下「ドコモ・バイクシェア」によると、2019年度には計1000万回だった利用回数が、20年度は9月末までの半年間で580万回に、12月末までに約900万回へと増加傾向に。季節や天候によって変動があるものの、2020年度については東京エリア単体で計1200万回に上りそうな勢いだ。

●シェアサイクルの使いすぎで優遇施策が終わってしまったUber Eats

 シェアサイクル事業にとっては“順風”ともいえそうなコロナ禍だが、ある施策の終了により逆風に立たされているシェアサイクルユーザーもいる。フードデリバリーサービス「Uber Eats」の配達パートナーだ。

 東京都心部などでは、Uber Eatsなどフードデリバリーサービスの配達パートナーがシェアサイクルを使っているシーンを見掛けることがある。

 フードデリバリーのパートナーがシェアサイクルをレンタルするのは、フードデリバリーの需要が高いエリアに電車で移動した後にそのエリアでの宅配にシェアサイクルを使う、あるいは電動アシスト自転車などを持っていないパートナーがレンタルするなど、さまざまな理由が考えられる。

 中でも、シェアサイクル事業者側がフードデリバリーサービスの配達パートナーを支援するプランを提供していたのは大きな理由の一つだろう。

 ドコモ・バイクシェアはUber Eatsの配達パートナー向けに、東京都内11区(千代田区、港区、中央区、新宿区、渋谷区、文京区、江東区、大田区、品川区、目黒区、中野区)でシェアサイクルが1回当たり4時間まで使い放題になる特別プランを月額4000円(税別)で提供していたが、これを2020年12月末に終了した。

 特別プラン提供終了の理由としては、新型コロナウイルスの感染拡大以降、同プランの会員数が急激に伸びたことでUber Eats以外の一般会員がシェアサイクルを借りにくくなっていたことなどを同社は挙げている。

 これは筆者個人の見解だが、従来の配達パートナーは体力がありそうな若い男性が多かったところ、最近では多国籍化や女性比率の上昇などが見受けられることから、今までよりも広い層が配達パートナーとして同プランに登録し、結果的に会員数が増えていたのではないかと考えている。

 シェアサイクル自体の運用についても課題があったように思えた。配達パートナーによる利用は一般的な会員に比べて利用時間や走行距離が長くなっていたことが推測できる。その結果として、自転車のメンテナンスが以前より行き届いていない状態が続いていると感じていた。

 筆者自身も各所でドコモ・バイクシェアを利用してきたが、ペダルを漕いだときにギコギコと油の差されていないような音が鳴ったり、借りようとしてもポートにある自転車の多くでバッテリー残量が無かったりという経験が複数回あった。

 そうした事情もあってか、最近ではドコモ・バイクシェア以外のシェアサイクルをレンタルしたフードデリバリーの配達パートナーを見掛ける機会も増えてきた。

●地方都市のシェアサイクルが全国区サービスに「くら替え」

 都心部以外の動きでは、地域密着型のシェアサイクルが全国区のサービスに「くら替え」する事例が相次いでいる。

 北海道札幌市では、NPO法人ポロクルが運営するシェアサイクルサービスを、2019年にドコモ・バイクシェアが提供するシステムにリニューアル。自転車も従来の非電動アシストタイプから、都内でもよく見るタイプの電動アシスト自転車に全台を入れ替えた。

 リニューアル後のポロクルは、ドコモ・バイクシェアの会員であれば地域ごとに会員登録をしなくても主要都市のシェアサイクルが利用できるようになる「ID連携」という仕組みにも対応している。

 普段からFeliCa搭載の交通系ICカードを使ってシェアレンタルを利用しているユーザーにとっては、特別な手続きやサービスの違いを意識せずに、各地でシェアサイクルを利用できるようになっている。

 ただし、この点についてはソフトバンクなどが出資するベンチャー、オープンストリート(東京都港区)が提供する「HELLO CYCLING」(ハローサイクリング)や、オーシャンブルースマート(東京都板橋区)のシェアサイクル「PiPPA」(ピッパ)が先行している。これらのサービスでも、サービス提供エリア内であればエリアごとに会員登録することなくサービスを利用できる。

 札幌市と同様に、石川県金沢市の「まちのり」もシステムリニューアルでドコモ・バイクシェア系のシステムを採用。まちのりのシンボルカラーであるライムグリーンに塗られた電動アシスト付き自転車が、20年3月から市内で利用可能になっている。

●「陣取り合戦」からポートをシェアする動きも

 シェアサイクルは、基本的に事業者ごとにレンタル・返却できるポート(またはステーション)が決まっている。

 このため、需要が高いエリアでは事業者同士の「陣取り合戦」のような現象が発生しているが、シェアサイクルを移動手段として考えると、事業者を問わずにシェアサイクルをレンタル・返却できる方が、利用者としては使いやすい。事業者としても独自にポートを開拓するよりも、他の事業者と相乗りした方が効率的にポートを拡大できる可能性もある。

 そんな中、複数のシェアサイクル事業者がサービスを展開する愛知県名古屋市では、市役所などに隣接して「公共コミュニティサイクルステーション」を設置し、認可された事業者のシェアサイクルを返却できる取り組みを進めている。

 名古屋市をモデルケースに、事業者同士の相乗りが他の都市でも進めばシェアサイクルをより身近に使えるようになりそうだ。

●電動キックボードシェアが一部で商用サービス開始 体験してみて課題も

 シェアサイクル以外の「シェア系」交通手段として、電動キックボードのシェアリングサービスも実証実験が始まっている他、一部エリアで商用サービスもスタートしている。

 日本国内で電動キックボードに乗り走行する場合は原動機付き自転車(いわゆる原付)の扱いとなり、原付免許の携帯やヘルメット着装が必要となる他、車道走行が原則となる。

 筆者も19年の夏に浦和美園駅やその周辺でサービスを展開していた電動キックボードのシェアサービス「WIND」を試してみたが、さまざまな道路環境が混在する日本の公道を走行する手段としては、電動キックボードには課題が多いと感じている。

 例えばWINDの場合、前述の通り公道(車道)を走る必要があるが、とにかくバランスを崩しやすい。車輪が小さいことから小さな段差で影響を受けるのはもちろん、バックミラーが無いため後方を目視しようと振り返るときもバランスを崩しやすい。ウインカーが搭載されていないため、右左折や停止などのサインを手信号で行う際にも車体がふらついてしまいやすい。「これで車道を走るのは怖い」というのが筆者の率直な印象だ。

 日本における道路交通法や道路事情を鑑みると、一般道での走行を前提にするのではなく、自動車が走行することのない私有地や、広い大学のキャンパス内の移動など、限られた地域やエリアで、走行可能な速度を制限した上で利用するのが無難な落とし所のように思う。

 そんな中、電動シェアバイクサービスを手掛けるLuup(東京都渋谷区)など3社が20年10月に認定された「新事業特例制度」では、東京の丸の内エリアなどで電動キックボードによる自転車専用通行帯の走行を可能とする特別措置が21年3月末まで認められるなど、行政と連携した実証実験も進んでいる。

 コロナ禍の“順風”で利用者が増えるシェアサイクル。ドコモ・シェアサイクルの場合はUber Eats向けプランが廃止されたことから利用者数にある程度の落ち着きも見られそうだが、コロナの収束が見えない中、ポートシェアなど使いやすい環境が整えば移動手段としての需要は引き続き伸びそうだ。電動キックボードも実証実験を踏まえ、法整備が進めば身近に見る機会もあるだろう。

 近未来の交通風景というと「空飛ぶクルマ」や無人ドローンなど空の交通網を思い浮かべがちだが、意外と地上では二輪車が増えているのかもしれない。