世界がコロナ禍に見舞われてから1年半が経過しようとしている。残念ながらまだ「終息」というにはほど遠く、また終息間近と思われていた国で、変異株や人々の油断などから感染が再拡大するといった事例も生まれている。ただ、ワクチン接種が進んでいる地域の中には、条件付きではあるもののマスク着用義務の緩和、イベント開催などを認める国も出てきており、遠いトンネルの先にかすかな光が見えてきたといったところだろう。

 そのため、いよいよ「コロナ後の世界」を模索する動きが加速している。もちろん新型コロナウイルスが消えてなくなる状況がすぐに到来するわけではなく、本連載のタイトルのように、当面はその存在を前提として行動しなければならないだろう。その一方で、いわゆる「ニューノーマル」(新しい常態)を本格的に実現するために、早い段階から議論を深めることが求められている。

 その象徴ともいえるテーマのひとつが、コロナ後にテレワークをどこまで残すかというものだ。感染症対策という観点からは極めて有効なテレワークだが、当然ながらあらゆる業種・業態で導入できるわけではなく、メリットと同時にさまざまなデメリットも存在する。果たして現時点で、企業はどの程度テレワークを定着させようとしているのだろうか。

●テレワーク導入が進まない日本企業

 まずは現時点で、テレワークの導入はどの程度進んでいるのだろうか。既に多くの方々が実感として持たれているだろうが、日本は諸外国に比べ、テレワークがあまり導入されていないという結果が各種調査から出ている。

 公益財団法人の日本生産性本部は、「働く人の意識調査」というタイトルで、新型コロナウイルスが組織で働く人の意識に及ぼす影響の継続調査を行っている。これは20歳以上の日本の企業・団体に雇用されている人を対象に、インターネットを通じて行われるアンケート調査で、文字通り日本で働く人々の現状を把握しようというものだ。その第5回調査結果が4月22日に発表されたのだが、それによると、テレワークを実施している人の割合は2割弱にとどまっている。過去の推移を見ても、1回目の緊急事態宣言中だった2020年5月の31.5%が最高で、その後は2割前後という数字が続いている(図1参照)。

 繰り返しになるが、あらゆる業種・業態でテレワークが導入できるわけではなく、完全な在宅勤務以外にも、さまざまな形で感染症に配慮した働き方が導入されている(先ほどの調査では、テレワークに「自宅での勤務」だけでなく、「サテライトオフィス、テレワークセンター等の特定の施設での勤務」「モバイルワーク(特定の施設ではなく、カフェ、公園など、一般的な場所を利用した勤務)」を含めている)。ただ海外で行われた類似の調査と比較すると、海外企業の方がテレワークを採用している率が高いという結果が見えてくる。

 例えば調査会社Global Workplace Analyticsが実施したアンケート調査Global Work From Home Experience Surveyでは、金融や医療、教育など約20の業種・業界で働く人々を対象に、2020年3月〜4月にかけて在宅勤務に関する質問を行っている。その結果、「定期的に在宅勤務(WFH)を行っている」と答えたのは、全体の88%だった(ただし「パンデミック以前から定期的にWFHしていた」と答えた人も31%存在している)。これはグローバルな調査だが、回答者の69%が米国在住、17%が欧州・中東・アフリカ(EMEA)地域在住であり、ほぼ欧米の状況を反映しているといえるだろう。

 また世界経済フォーラムが公開している、2021年1月〜2月に英国で実施された、20〜65歳の働く人々を対象に行われたオンライン調査では、回答者の52%が在宅勤務(WFH、Work From Home)を実施しているという結果が出ている。

 欧米では新型コロナウイルスが流行を始める以前から、多様な働き方や勤務の効率化を進める取り組みが進んでおり、テレワークについても同様の観点から導入が検討されてきた。テレワークは単に、関連システムやハードウェア、ソフトウェアを導入すれば明日から開始できるというものではなく、人事制度や在宅勤務者のメンタルケアなど、さまざまな補足的施策が必要になる。

 そのためこうした準備を先に進めてきた欧米の方が、テレワーク率が高くなるという現状は致し方ない面もあるだろう。また欧米の方が、ロックダウンなどより強力に人々の移動を抑制する対策を行ってきたことも、こうした違いの背景にあるだろう。

 それでは「今後」テレワークを続ける・拡大するという意欲を、日本企業はどのくらい持っているのだろうか?

●日本企業のテレワークに対する意欲

 2020年11月、厚生労働省の「これからのテレワークでの働き方に関する検討会」において、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが「テレワークの労務管理等に関する実態調査」という資料を発表している。これは企業を対象としたアンケートだが、それによると、テレワーク未導入企業の83.2%が「導入・実施する予定はない」と回答している。またテレワーク導入企業においても、「新型コロナウイルス流行時よりも、テレワークの利用を拡大したい」と回答したのは14.9%にとどまり、「緊急時の臨時的な運用に限ってテレワークを認めたい(23.0%)」および「新型コロナウイルス流行時よりもテレワークの利用を縮小したい(7.2%)」を合わせたおよそ3割の企業が、テレワークを恒常的な働き方とすることに消極的な姿勢を示している。良しあしは別にして、テレワークはあくまでパンデミック中の緊急措置であり、コロナが終息すれば当然縮小する、というのが一般的な日本企業の姿勢だろう。

 一方、海外企業についてはこんな調査結果がある。調査会社のIDCは、2020年9月に発表したレポートの中で、2024年までに米国の労働者の60%が「モバイルワーカー」になるだろうとの見通しを発表している。彼らの言うモバイルワーカーとは、「割り当てられたタスクとワークフローを完了するために、会社がモバイルデバイス(スマートフォン、タブレットなど)を利用できるようにしている労働者」と定義されており、外回りをする営業員のような働き方もこの中に含まれているが、COVID-19をきっかけとした在宅勤務の拡大が、モバイルワーカーが増加する一因とされている。

 それではなぜ、欧米企業はテレワークを続ける姿勢を見せているのだろうか。

●具現化するテレワークのメリット

 先ほど「テレワークは単に、関連システムやハードウェア、ソフトウェアを導入すれば明日から開始できるというものではない」と書いたが、そうしたIT技術の面だけでも、さまざまなマイナス面がある。単純にこれらを用意する予算がかかり、そのお守や、従業員からの問い合わせやトラブルに対応するスタッフも配置しなければならない。またテレワークのシステムを対象とした犯罪行為も増加しており、多くの組織や専門家が、テレワーク推進によって、サイバーセキュリティに関するリスクが上昇中であると警告している。

 それでも企業がテレワークに取り組むのは、それが具体的なメリットを生み出しているからだ。中でも多くのテレワーク実施企業が認めているのが、生産性の向上である。

 生産性とテレワークの関係については、逆にマイナス面が大きいと考えるのが一般的だろう。例えば先ほど紹介したレポート「テレワークの労務管理等に関する実態調査」においても、「テレワークを導入・実施していない理由」としてテレワーク非実施企業が挙げている理由の中、「オフィス勤務と比べて、時間当たり生産性の低下が懸念されるから(6.1%)」「業務の進捗確認が難しいから(6.1%)」、あるいは「コミュニケーションが取りづらくなることが懸念されるから(6.6%)」などが存在している。

 もちろん業務の進捗確認やコミュニケーションなどは、非対面になればそれだけ難しさは増す。しかしそれらはさまざまな工夫によって乗り越えられるものであり、テレワークを実際に行っている労働者からは、それ以外の要因によってテレワークが生産性の向上に役立っているとの声が上がっている。

 例えばこれも先ほど紹介したレポート「Global Work From Home Experience Survey」では、実際にテレワークしている人々に対して、仕事中に「気が散ったり、邪魔が入ったりするのを防ぐ」ことについて尋ねたところ、オフィスにいたとき満足にできていたと回答したのは40%、一方で在宅勤務において満足にできていると回答したのは72%だった。また「長時間集中力を保つ」ことについても、オフィスでできていたのは51%だったのに対し、在宅では80%となっている。さらに、多くの人々が「オフィスで多くの人々と交流した方が良い」理由として挙げている、「クリエイティブな、あるいは創造的な思考をする」ことについても、オフィスでできていたのは63%、在宅でできていると答えたのは80%となっている。

 アンケート調査であるだけに主観的な評価になっている可能性も否めないが、仮に回答通りであるとすれば、テレワークは一般的な作業における生産性を上げるだけでなく、新たなアイデアや意見を生むという点でもメリットが期待できるといえるだろう。

●日本と海外のギャップが広がる懸念

 一方、コンサルティング会社のマッキンゼーは、コロナ後の働き方を予測したレポート「The future of work after COVID-19」の中で、テレワークは「パンデミックの発生前、家族やその他の理由から、人材や資本、チャンスが集中する“スーパースター都市”に転居できなかった労働者を企業が利用し、多様性を拡大する機会を提供する」と指摘している。

 実際にテレワークの浸透によって、介護などの理由から特定の場所でしか働けなかった人材が、物理的な制約を超えて働けるようになったり、プライベートの生活が大きく変化しても仕事を続けられるようになったりすることが期待されている。

 また日本のパーソルキャリアが行ったアンケート調査では、転職先を検討する際の条件として、テレワークが重要と回答した人が5割を超えるという結果が出ており、今後優秀な人材を確保するためにテレワークの存在が重要になる可能性が高い。

 さらにマッキンゼーのレポートでは、企業がテレワークの導入を進める中で、1つのポジション全体をリモート化するのではなく、タスク単位で「どれがリモート化できるのか」という細かい分析を行うようになることを指摘している。これまで1人の人間が担当していた仕事だからといって、コロナ後の新しい環境において、そのまま切り出して誰かに担当してもらう必要はない。例えばリモート会議の議事録を(その会議にオンライン参加する、あるいは音声データを受け取るなどして)作成するといった作業は、セキュリティ面の問題がクリアされれば、在宅勤務者に任せることが可能だろう。

 そうした見直しは、一種のBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング、既存業務の抜本的な見直し)として機能して、単なる業務のリモート化を超えた改善効果を企業にもたらすと期待される。

 さらにリモート用にタスク単位で切り出された作業を、RPAやAIが担当するという可能性も考えられるだろう。実際に先ほどの議事録作成などは、人間並みの文字起こしや要約を行うAIが研究・商用化されつつある。テレワークは感染症対策という枠を大きく超えて、業務のデジタル化、流行(はや)りの言葉で言えば「デジタル・トランスフォーメーション」(DX)の観点からも検討すべきテーマというわけだ。

 今回は各種調査を基に、テレワークに対する企業の姿勢を確認してきたが、懸念されるのは日本と海外のギャップが広がることだ。もちろん外国企業の取り組みが全て正しいわけではなく、日本企業の中で優れた施策を進めているところも多い。しかし海外の企業がテレワークを前提とした業務の在り方を設計・実現し、それによって優秀な人材の確保や、新たな業務形態の導入を進めるのであれば、それは明確な優位性として彼らにリターンをもたらすだろう。

 コロナ対策という観点だけでなく、企業の競争力という本来の理由からも、テレワーク定着の議論が行われることを願いたい。

(小林啓倫)