7月21日、国民的ゲームとして知られる「ポケットモンスター」シリーズに新たなタイトルが登場した。中国Tencent子会社の中国Timi Studiosとポケモン社が手掛けるNintendo Switch向けゲーム「Pokemon UNITE」(ポケモンユナイト)だ。プレイヤーは自分が操作するポケモンを選び、5対5のチームに分かれて対戦。制限時間内にどれだけ多くポイントを獲得したか競う。基本無料で、9月にはiOS/Android向けにも配信予定だ。

 ゲームには、10人のプレイヤーが5対5の2チームに分かれて参加する。プレイヤーはマップ内で野生のポケモンを倒してポイントを溜め、5カ所ずつある相手のゴールに入れることで、チームの得点を稼ぐ。ゴールではプレイヤー同士の攻防が予想されるため、チームでどのように連携を取るかが勝負のカギとなる。

 こうしたチームバトル形式は、「MOBA」(マルチプレイヤー・オンライン・バトル・アリーナ)と呼ばれている。日本だとあまり聞きなじみのないジャンルだが、海外では「League of Legends」(LoL)や「Dota 2」(ドータ・ツー)などヒット作も多い。

 特にLoLは「世界で最もプレイヤー数の多いPCゲーム」とも呼ばれており、そのプレイヤー数は全世界で約1億人。賞金総額約7億円の大会が毎年開催されるほどの人気ぶりだ

 一方で、日本におけるこうしたゲームタイトルの知名度は低い。日本のeスポーツのプロ選手というと、やはり「ストリートファイター」シリーズなど1対1で戦う対戦型格闘ゲームの選手を思い浮かべる人が多いだろう。日本では知る人ぞ知るゲームジャンルにすぎないMOBAだが、「ポケモンユナイト」はそんな現状を打ち破る可能性がある。

●1億の視聴者や43億円の賞金集めるゲームジャンル「MOBA」

 そもそもMOBAとはどんなゲームなのか。細かいルールはゲームごとに異なるが、多くは2つのチームに分かれ、性能の異なるキャラクターを各プレイヤーがそれぞれ操作する。プレイヤーはゲーム中に自分のキャラを育成し、時には相手チームを妨害しながら、決められた目標をより早く達成した方が勝利──というのが基本的な流れだ。

 具体的に世界ではどの程度人気があるのか。例えばLoLの場合、「World Championship」という世界大会が毎年10月から11月にかけて開催されている。近年は米国や韓国、中国、欧州などから20程度のチームが毎年参加している。

 試合のオンライン配信も行っており、2018年の大会では約9960万人の視聴者を集めた。日本のプロチームもこれに毎年出場しており、日本のプロリーグ「League of Legends Japan League」の優勝チームが参加する仕組みだ。

 賞金総額ではDota 2が頭一つ以上抜けている。Dota 2は世界大会「The International」が毎年8月に開かれており、21年8月には「The International 10」が開催予定。賞金総額は約43億円を見込んでいる。これはテニスの4大大会の一つである「全仏オープン」の賞金総額(約46億円)に近い数字で、今やeスポーツがリアルスポーツの大会にひけをとらない人気を集めていることがうかがえる。

●ポケモンの知名度が盛り上がりのカギに?

 世界では人気ゲームジャンルとして確立しているMOBAだが、日本ではそこまで浸透していない。その理由は、やはりメジャーな国産タイトルが少なく、日本人になじみのあるキャラが登場する作品が少ないためだろう。LoLもDota 2も海外メーカーが開発しており、登場するのはオリジナルのキャラばかりだ。

 一方で、ポケモンユナイトはポケモン社が制作に携わっている。1996年からシリーズ累計で3億8000万本以上を売り上げるシリーズの看板を使ったタイトルでもあるため、日本のプレイヤーからすれば他のMOBAよりとっつきやすい作品だろう。

 実はポケモンシリーズは過去にも、マイナーなゲームジャンルの知名度を引き上げた実績がある。その一つが「ポケモンGO」だ。

 ポケモンGO以前の位置情報ゲームには「Ingress」(イングレス)などがあったが、これもやはり“知る人ぞ知る”タイトルだった。「ポケモンユナイト」がもしヒットすれば、ポケモンGOに対する「ドラゴンクエストウォーク」のように、他のキャラクターコンテンツも「MOBA」に身を乗り出す可能性も考えられる。

●高額な賞金を出すためには「基本無料」も重要

 「ポケモンユナイト」が基本無料のゲームであるという点も、同作がeスポーツとして盛り上がる理由の一つになり得る。実は日本のeスポーツにおいて、ゲームが無料というのは大会を開く上で重要なポイントになっているためだ。

 日本でゲームを使った賞金制の大会を開こうとした場合、景品表示法によってソフトの金額が5000円未満であれば価格の20倍まで、5000円以上であれば10万円まで、または「懸賞に係る売上予定総額の2%まで」に制限される。

 しかし、無料で配布する形の場合はこの制約から外れるため、国内でも高額な賞金の大会が開ける。例えばスマートフォンゲーム「モンスターストライク」は、対戦に特化したゲームアプリ「モンスターストライク スタジアム」を無料でリリースすることで、国内でも優勝賞金5000万円の大会を実施している。

 LoLやDota 2、「Fortnite」(フォートナイト)や「Apex Legends」など、eスポーツとして人気のタイトルも多くは基本無料だ。つまり、ポケモンユナイトは知名度のあるIPを活用しつつ、eスポーツとして大会を開きやすい条件も満たしているといえる。

 今のところ公式サイトなどでは明確に打ち出していないが、任天堂は過去に「スプラトゥーン2」の大会などを開催しているため、オフィシャルな大会が開催される可能性は十分に考えられる。任天堂などの開発側が大会を主催せずとも、第三者が主導する展開もあるかもしれない。

●団体競技の浸透=プロプレイヤーの雇用増に?

 ポケモンユナイトが日本でどこまでヒットするかは未知数だが、すでにSNS上で同じチームとしてプレイするメンバーを募る投稿などが相次いでいる。このまま勢いを伸ばせば、日本でMOBAというゲームジャンルを新たに根付かせるきっかけになるかもしれない。

 世界のeスポーツ大会の賞金総額をみると、MOBAやチーム制のシューティングゲームなどの団体競技が上位の多くを占める。チーム制のゲームではLoLのようにプロリーグ戦が年中行われているゲームも多く、プロプレイヤーの雇用源にもなっている。

 こうしたプロリーグはゲームごとに規模が拡大傾向にあり、プロプレイヤーの受け皿も広がりつつある。ポケモンユナイトをきっかけに、チーム制のeスポーツの普及が加速すれば、日本でも多くの若者がプロプレイヤーを目指しやすくなり、eスポーツのさらなる盛り上がりにつながるかもしれない。