VRを仕事の場に、という話が、ここ1年ほどで現実味を増してきている。

 「なぜわざわざVR空間で仕事を?」

 そこにVRがあるからだ……というのは半分冗談だが、ちゃんと使ってみないといけない。折に触れてテストもしてきたが、ようやく「ちゃんと数時間仕事ができる環境になってきたな」という段階にきた。

 今回は、2つのソリューションを使って実際に仕事をしてみたい。

 なおこの原稿の執筆はテストの意味合いも込めて、画像整理の一部を除き、全てVR内で行っている。

●「HMDの重さ」以外は実用域に

 今VRで仕事をする限界は、あえて先に伝えておくべきかと思う。

 課題は実にシンプルだ。VR用のHMDの重さや不快感だ。

 HMDを装着して仕事をするわけで、どうしても頭・顔に負担がかかる。今回は「Oculus Quest 2」を使っているが、503gの本体に321gの「Quest 2 Eliteストラップ バッテリー」を付けているので、やっぱり重い。Eliteバッテリーストラップをつけなければその分軽くなるのだが、重量バランスが前に来るので長時間作業するとない方が疲れる感じがする。

 同じことを「今日、皆がすぐにやるべき」とは思わない。

 しかし、である。課題として私はHMDを付けていることの不快さ「しか」挙げていない点に注目していただきたい。

 実は、これは大変なことなのだ。

 キーボードはどうするのか? 普段と同じように作業するためのアプリ環境は? 画面の見やすさは? お茶を飲みながらリラックスして仕事できるのか? スマホの通知が来たら分かるのか?

 視界を覆ってしまうVRには多くの課題があるのだが、上に挙げたような一般的な問題は「取りあえず、それなりに大丈夫」といえるレベルになってきた。

 別の言い方をすれば「軽くて快適なHMDがあれば何とでもなる、というレベルになってしまった」……ということでもあるのだ。

 われわれはすでに、HMDをかぶるだけで「自分1人しかいない広大な空間」で「巨大なディスプレイを表示しながら」仕事ができるようになっている。

●Quest 2+Horizon Workrooms+MacBook Proの破壊力

 こうした変化の中核にあるのは、Meta(Facebook)のVR用デバイスである「Oculus Quest 2」のシステムソフトウェアおよびサービスが、着実に進化してきたという事実だ。

 Oculus Questの主軸はゲームであり、ビジネスとしてもそこが中心に動いている。一方でMetaは「Infinite Office」という構想を軸に、Oculus QuestをPCのようなワークツールとして使う整備も進めている。

 中でも大きいのは「ハンドトラッキング」が可能になったこと、バーチャル空間内に「机」を持ち込めるようになったこと、そして、会議用サービス「Horizon Workrooms」の登場だ。

 現実の机をなぞって認識させることで、VR空間内でも「そこが机である」という扱いにできるし、近くの様子をモノクロで見ることできる。そうすることで、「ノートPCやキーボードを卓上に置いて作業に使う」ことができるようになったわけである。

 そのことを最大限に活用したのが「Horizon Workrooms」である。基本的には会議・コミュニケーションツールであり、今は誰でも無料で使える。いわゆるアバターベースのコミュニケーションサービスなのだが、ホワイトボードがあったりPCからも入れたりと、現状のこの手のツールとしては突出した完成度になっている。

 特に注目しておきたいのは、Horizon Workroomsが「PCやMacをVR空間内に持ち込める」ところだ。PC/Macに「Oculus Remote Desktop」というアプリを入れておくと、PC/Macの画面をHorizon Workrooms内に表示できる。もちろん接続はワイヤレスでいい。こうすることで、どこでも大きな画面でPC/MacをVR会議室に持ち込める。別に会議をしなくても、1人で作業してもいいのだ。

 この機能、MacBook Proとは異常に相性がいい。なぜなら、「VR内でキーボードの認識」ができてしまうからだ。

 以下の画面は、接続設定をしてMacBook ProのキーボードをHorizon Workrooms内に持ち込んだときのものだ。黒くぼんやり見えているのは、実際にタイプしている自分の手だ。別に決められた場所にMacBook Proを置いたわけではないし、特別なマーカーをつけたわけでもない。Oculus Quest 2がちゃんと「認識してくれている」のだ。

 これによって、タイプも操作もまったく不便なく行える。画面サイズを大きく設定すると、イメージとしてだが、30インチくらいのディスプレイを正面に置いた印象に近い。表示解像度はそこまで高くないのだが、実用性は十分だ。この原稿を書くのに、普段と変わらない時間で進められたことからも、それはよく分かった。HMDを外して普段のようにMacBook Proの画面を見た時「ちっちゃい」と思ってしまったほど普通に作業ができた。

 大きい画面だけなら本物のディスプレイを置いたほうがいい。だがこのやり方のいいところは、MacBook ProとOculus Quest 2さえあればどこでもできること、そして、周囲の環境から隔絶して仕事ができることだ。椅子に座ってMacBook Proを広げられるスペースさえあれば、そこが「広い個人オフィス」に早変わりする。

 実は先日まで、Oculus Remote DesktopがM1搭載版Macに対応していなかった関係から、M1版MacBook ProではHorizon Workroomsの価値を生かし切れなかった。だが、9月末頃にM1版が公開になり、晴れて「M1版MacBook Proが、Horizon Workroomsに最適なMac」になったので、この記事を書いた……という部分がある。

 MetaにはAppleファンがいるのか、それともハード環境が統一されていてやりやすいからなのか(おそらくこちらだろう)、現状のOculus QuestとHorizon Workroomsは、妙にAppleに優しい。キーボードをVR内でトラッキングできるノートPCは、現状MacBook Proに限られるため、現状、最も快適でミニマムな「大画面がVR内で使える環境」は、MacBook Pro+Oculus Quest 2といっていい。

 なお、単体の物理キーボードとしてはLogitech(日本ではロジクールだが、国内扱いのない製品なのでこちらの表記とする)の「K830」と、アップルの「Magic Keyboard」が使える。前者は日本で入手するのは困難なので、Windows PCを含む他のPCで使いたい場合には、BluetoothでMagic Keyboardをつなぐのが近道だ。ただ、この「Magic Keyboard」は先日リニューアルされたものではなく、その前に販売されていたモデルのことなのでお間違いのないように。

 また、iPhoneとOculus Questを連携させた場合のみ、iPhoneで受信した通知がOculus Quest内にも表示される。メールの着信などもすぐに分かるのだ。もともとOculus Quest内ではFacebook Messengerがそのまま利用できるのだが、それ以外にも通知が必要なものは多く、意外と便利だった。

 おそらくだが、今はある意味テスト的な環境であり、サポートしやすいところからやっているのだろう。認識するPCやキーボードの種類拡大やAndroidでの通知転送の対応なども、順次進むと思われる。

●もっと自由度が高い「Immersed」

 と、このように、MacBook Pro+Oculus Quest 2+Horizon Workroomsでの「VR仕事環境」はかなりの完成度なのだが、不満点もある。

 せっかくの仮想空間なのに、画面サイズが2段階固定で、出せる画面数も「1つ」に限定されているからだ。慣れてくるとぜいたくなもので、マルチディスプレイかつもっと自由な位置に配置したい……と考えるのも必然だ。

 でも、Horizon Workroomsと同様、「キーボードが快適にタイプできる」機能は必須。Quest 2の下の隙間からキーをチラ見して打つのでは使いづらすぎる。

 そういう環境はないものか……といえば、ある。それが「Immersed」というアプリだ。

 基本的な機能の利用は無料だが、3つ以上のバーチャルモニターサポートや、チームベースでのコラボレーション機能などの付加機能を使う場合には有料のサブスクリプション制になる、という形である。今回は2つまでの画面で我慢しておくことにして、無料版を利用する。

 こちらも、PC/Macに専用アプリを入れ、それで画像出力をVR空間内に表示する形式だ。M1版Macももちろん対応している。両者の接続もワイヤレスでよく、特別な設定もなくすんなりつながった。

 こちらでの動作画面が以下のような感じになる。画面サイズは自由に変えられるし、バーチャルな「2画面目」を追加することもできる。画質・動作ともに問題なく、実に快適に作業できた。2画面目の解像度・サイズも自由なので、Webを表示する方は縦長にしてスクロールの回数を減らす……なんてこともできるわけだ。これはなかなかいい。

 こちらも「PCに付けられたキーボードをVR内に持ち込んで快適に作業する」機能を持っているのだが、Oculus純正のHorizon Workroomsとは考え方が異なる。

 Horizon Workroomsと違い、物理キーボードやMacの位置を認識して表示することはない。しかし、腕を認識し、自分のキータイプとソフト上のキータイプ表示を「キャリブレーション」することで、画面上のソフトウェアキーボードの「タイプした」という表示と実際の動作を「合わせる」ことができるのだ。

 タイプ中に実際の空間やPCのキーボードは見えていないのだが、意外なほど違和感なくタイプできる。これはそれなりにタッチタイピングができているから、という事情はあるのだろうが、ソフトウェアキーボードで「今どこをタイプしたのか」が見えるため、意識的な位置合わせがしやすいためだろう。キャリブレーションも「PとQとBを長押しする」というとてもシンプルなもの。PCの種類やOSを問わない、という意味でも、とても良くできている。

●自室がそのまま会議室にもなる

 Horizon WorkroomsとImmersed、どちらがいいかはちょっと判断に困る。機能としてはImmersedの方が良いし、環境も選ばず使いやすい。一方、MacBook Proとの相性でいえば、Horizon Workroomsも悪くない。会議環境としての未来感もある。

 どちらにしろ、実用性は意外なほど高い。どちらもコミュニケーション機能を重視していて、外部からビデオで参加してもらいつつ自分はVRのアバターで会議をする……といった感じだ。自分一人の作業部屋が必要に応じて会議室にもなる、といえば分かりやすいだろうか。

 冒頭で述べたように、この種のソリューションは、まじめに「ヘッドセットの重さと快適さの維持」が最大の課題だ。ここは現状いかんともしがたく、それゆえに「常にこれで仕事をする」には至らない。だが逆にいえば、デバイスの進化さえ待てば十分に「アリ」な世界なのである。

※この記事は、毎週月曜日に配信されているメールマガジン『小寺・西田の「マンデーランチビュッフェ」』から、西田宗千佳さんのコラムを転載したものです。