キヤノンの「EOS R」シリーズ用RFレンズが面白い。普通のレンズを出しつつ、しれっと普通じゃないレンズを紛れ込ませてるのだ。
普通のレンズってのは、一眼レフ時代からの定番レンズのミラーレス一眼バージョン。
「大三元」といわれる、開放F値がF2.8通しの広角ズーム(15-35mm F2.8)、標準ズーム(24-70mm F2.8)、望遠ズーム(70-200mm F2.8)。
さらに400mm F2.8などのキヤノンらしい超望遠レンズ。ハイエンドユーザーやプロの基本のレンズだ。
現代の標準ズームといえる24-105mm F4や、古くからの高倍率便利ズーム24-240mm F4-6.3あたりも定番といっていいだろう。
でもそれ以外のレンズがちょっとずつ普通じゃないのである。
例えば単焦点レンズ。
最初に出たのが35mmと50mm。実に昔からある基本の単焦点レンズなのだけど、35mmはなんとマクロレンズ。50mmはF1.2の超大口径でお値段も35万円コースで重さも950gと1kg近い。これは標準レンズどころじゃない。
さらに28-70mmという一見普通のズームレンズは開放F値がF2通し。めちゃ大口径でめちゃ高価でめちゃ重い。
ああ、高価でハイクオリティなレンズを充実させる方針なのか、と思いきや、その真逆の輪を掛けて普通じゃないレンズも出してきて驚かせてくれたりもするのだ。
「え、そんなんあり?」とびっくりしたのが「EOS R5/R6」と同時に登場した2本の超望遠レンズ。
なんと絞り値固定で手動沈胴式で、その代わり安くて軽い「RF 600mm F11 IS STM」と「RF 800mm F11 IS STM」である。軽くて誰でも扱える超望遠レンズ、でもF値は固定だよという斬新なレンズだ。
望遠レンズは手ブレしやすいし、動体を撮りたいことが多いのでシャッタースピードを上げたい、でもF11だとシャッタースピードを上げづらい。
「シャッタースピードを上げたいならISO感度を上げればいいじゃない」「え?」。
ああ、確かに昔と違ってISO6400くらいまで平気で上げられる時代だ。それを見越した小型軽量低価格な超望遠レンズってアリじゃん、と思ったのである。
おもしろいよね。
さらにこれ。デュアルフィッシュアイレンズ「RF5.2mm F2.8L DUSL FISHEYE」。魚眼レンズが2個ついた双眼鏡かいって感じのレンズだ。
これ、180度の3D VR映像撮影用。まあ、これを必要としてるのは一部の人だけだし、解像度の関係で「EOS R55/R5C」専用なのだけど、普通じゃない。
●100-400mmでこの軽さは普通じゃない
そして今回注目したいのが「RF 100-400mm F5.6-8 IS USM」だ。
600mmや800mmでお馴染みの「安い・軽い・暗い」の三拍子(?)そろった、いや「安い・軽い・小さい」の三拍子そろったレンズといっておくべきか。
そもそも、EOS R5/R6と同時に登場した「RF 24-105mm F4-7.1 IS STM」が先だ。すでに「RF 24-105mm F4 L IS USM」という優れた標準ズームレンズがすでにあるのになぜあえてスペックが劣るレンズを出したのかというと、これがめちゃ安くてコンパクトで軽いのである。
多少暗い分はISO感度を上げて対処しちゃえ、と。クオリティー最優先じゃない、気軽に携帯する機動力重視のレンズがあってもいいじゃないか、と。
実際、RF 24-105mm F4が700gなのに対し、RF 24-105mm F4-7.1は約395g。全然違う。
エントリーユーザー向けの標準望遠ズームとしては完璧だ。
そしてそれとペアで使うと似合うのが「RF 100-400mm F5.6-8 IS USM」なのである。
キヤノンのメディア向け製品説明会でEOS Rシリーズ用のRFレンズをいろいろと触る機会があったのだが、「え、こんなんあり??」「なにこれ軽い!」と言っちゃったのだ。
いわば、ダブルズームキットの2本に似合うレンズなのだけど、それで「24mmから400mm」までサポートしちゃうのだから、将来「EOS Kiss R」なんてのが出たら、この2本がキットになりそうである。
そしてこの「RF 100-400mm F5.6-8 IS USM」はめっちゃ軽いのである。同じRFマウントレンズに「RF 100-500mm F4.5-7.1 L IS USM」という望遠側がちょっと長いハイエンドな望遠ズームがあるのだが、これの重さは約1.37kg。
対して「RF 100-400mm F5.6-8 IS USM」は約635gと半分以下なのだ。そして価格は3分の1くらい。いつでも気軽に持ち出せる400mmなのである。
この100-400mmという望遠ズームはソニーもニコンもラインアップしてるのだけど、どれも1.3kgを超える本格的なもの。
このクラスのレンズを買う人はある程度「ガチの望遠撮影ユーザー」であり、どうしてもクオリティが追求され、ある程度の頑丈さや防水も大事になり、結果として大きくて重くて高価なレンズになっちゃうのである。そして価格は30万円コースとなる。
その点「RF 100-400mm F5.6-8.0 IS USM」は重さは半分、価格は3分の1である。
なぜそんなに軽くて安いかというと、当然1つ1つのレンズの質や鏡筒の材質、さらに防塵防滴構造ではないということ。そして開放F値が広角端でF5.6、望遠端ではF8と暗いこと。
望遠端で開放がF8ってのはネックにならないのか。
答えは簡単。「ISO感度を上げればいいじゃん」。
昼間ならシャッタースピードを1/2000秒とかに上げてもISO3200もあればいける。
ああ、これは日常的に持ち歩ける望遠ズームレンズとしてめちゃ秀逸だわと思ったのである。
クオリティー最優先!という人は高価で重くて高性能なレンズを使えばいいし、機動力重視ならこの軽くて扱いやすいレンズがいいのだ。重いレンズばかり持ち歩いてると体力的につらいし。
気軽に持ち歩き、撮りたいものがあったらさっと撮る。EOS R5/R6なら被写体検出のAFも優れてるので、ぶらぶら歩きながら鳥をさっと撮るとかできちゃうし。
そしてもう1つ楽しいのは100-400mmというかなりの望遠である上に、かなり寄れること。
望遠時の最大撮影倍率が0.41倍(1.05mまで寄れる)。つまりぐぐっと寄ってアップで撮れるのである。
今までエントリー向けの望遠ズームって70-300mmが定番だったけど、標準ズームレンズが24-105mmに移行した今、望遠レンズも100mmスタートなのである。
●165gの16mm F2.8も登場
「安くて小さくて軽い」シリーズとして単焦点レンズもちょっと紹介したい。1つは一眼レフ時代からの定番中の定番である標準レンズの「RF 50mm F1.8 STM」。これはもう3万円台で重さは約160gという超軽量の標準レンズだ。
もう1つは定番どころかか「え、こんなんあり?」と思っちゃうユニークなレンズである「RF 16mm F2.8 STM」。
なんと16mmという超広角の小型軽量レンズなのだ。重さは約165gとめちゃ軽いのである。
しかも価格は4万1800円。
一眼レフ時代、20mmより広角な超広角レンズって大きくて価格もそれないに高くて、スナップ用として気軽に買うようなものじゃなかった。
でもこの「RF1 16mm F2.8 STM」は誰でも気軽に使える超軽量な超広角レンズなのである。超広角レンズをこの価格とサイズで楽しめるのはすごい。
しかも最短撮影距離は13cmとぐっと寄れるので、超広角ならではの遠近感の強い撮影も楽しめる。
確かに高価で大きいハイエンドのレンズに比べると性能面で劣るところはあるので、ガチで撮る人はガチのレンズを選べばいいのだけど、気軽に撮影を楽みたい、体力的にガチのシステムは無理、って人にミラーレス時代ならではのレンズとしておすすめしたいのだ。
キヤノンの一連の安くて軽いレンズたちは、長年一眼レフを手がけてきたメーカーなのに、あるいは手がけてきたメーカーならではの「一眼レフの時代とは違うのだよ」という声が聞こえてきそうで今後も注目なのである。