ネットの巨人Amazonのサービスがある日突然終わることは考えにくい。ところが中国ではKindleのサービスの終了が発表された。ECサイトに続くサービスの終了で、中国でAmazonの存在感はより小さなものになっていく。Amazonから発表があったのは6月2日の午後のこと。1年後の2023年6月30日に中国でのKindle電子書籍ストアの運営を停止する。

 Amazonは決して中国市場に手を抜いたわけではない。現Xiaomiの雷軍CEOが当時運営していたECサイト「卓越網」を2004年に買収し「卓越亜馬遜」(Joyo Amazon)として中国展開を開始。中国人は横文字に弱いので、分かりやすい「z.cn」というドメインを取得するなどして利用者を増やそうとするも、アリババのECサイトの勢いに押され、業務を縮小し越境ECサイトやKindleに注力した。その一方で2015年からはAmazonは遠隔地や貧困地域の学生にKindleを無料で贈る慈善事業を行い市場にアピールしていた。

 Kindleなんて中国で利用されていたのか、という意見もあるかもしれない。雷軍氏も、バイトダンスの張一鳴前CEOも、美団の王興CEOをはじめ、主に高学歴高収入の男性に愛されていた。Kindleファンはそれなりの人数がいるので、今後は2023年6月末までストアが運営され、2024年6月末までダウンロードが可能といった「Kindleが『カップラーメンの重し』にならないための情報」がニュースサイトで発表された。日本語では使えなくなるガジェットを漬物石や文鎮などとというが、中国語ではカップラーメンの重しというらしい。

 Amazonが中国市場にKindleを投入したのが2012年のこと。売れなかったわけではなく、むしろ2016年には中国はAmazonのKindleデバイス販売市場として世界最大となったと報じられている。

 また「書伴(旧名:Kindle伴侶)」という中国のKindleユーザーの間では定番のファンサイトがある。このサイトのトラフィック的なピークは2017年で、毎日何万人もの人々がKindle関連のコンテンツを検索していた。最も読まれたコンテンツはハッキング関係関連のコンテンツで、Kindle向けフォーマット変換のコンテンツやサービスがそれに続いた。6月初頭現在、このサービスのアクセス数はピーク時の3分の1未満となっている。ちなみに過去6カ月間にアクセスしたユーザーは、大学生以上が66%、男性が75%を占めている。

 ではなぜ中国でKindleは2017年にピークに人気がしぼんでいったのか。それには日本も他人事とは思えない理由があった。

●日本も他人事とは思えない理由

 大手ECサイトの京東の劉強東CEOは、当時 「海賊版問題により、Kindleが中国で成功することは決してない」と、Kindleの失敗を予測していた。「Kindleを購入したときに人々が最初にしたことはKindleをクラックすることだった」と語り、今に至るまで多くのユーザーが、インターネットから電子書籍のリソースをダウンロードし、それらをKindleにインポートして読むことに慣れている。しかもAmazonが中国に進出前から輸入されたKindleがヘビーユーザーによって愛用されていた。

 ハードは使われるのに有料正規版コンテンツを買ってもらえない。そうした中でWeChat(微信)を擁するテンセント(騰訊)の「微信読書」が登場する。広告モデルによるコンテンツの無料配信を実現。おまけに中国ではWeChatを柱とするエコシステムができ上がっていた。

 WeChatひとつでインスタントメッセンジャーだけでなく、各種支払いやコンテンツ視聴ほか、他社のサービスまで利用できる。2019年には2億人を超える中国人ユーザーを獲得した。テンセント以外のネット企業各社も自社アカウントを活用した無料コンテンツ提供を行いはじめた。それに比べてAmazonは中国においてアカウントを持っていてもメリットはほとんどなく、面倒くささが残った。

 さらにハードウェアでは、当初はKindleを真似ようとした粗悪な製品ばかりでKindleの販売に影響は大きく与えなかったが、2019年にはXiaomiの電子ブックリーダー「小米多看電子書」が当時599元、当時のレートで日本円で1万円でお釣りがくる値段でリリースされた。それはKindleを明らかに意識した製品だった。またさらにディスプレイサイズの大きな製品や、カラーE-Inkを採用した製品、それにAndroid搭載製品も登場した。BOOXなどがそうだ。これにより、単に電子ブックを読むだけでなく、ニュースアプリを入れるなど、できることを増やしていった。

 Kindleも新製品が出るたび改良されていて、数世代のモデル差があると 動作の軽快さが大きく異なる。しかしほぼ一貫して小さいサイズだったのも、中国人には好まれなかったという。もっと技術的に意欲的なモデルを投下していれば、中国のユーザーの心をつかみ続けた可能性はある。

●日本製品のいつか来た道

 その様子はまさに中国でのPSP(プレイステーションポータブル)や、カシオのフリースタイルデジカメ「EX-TR」シリーズとかぶる。

 中国でスマートフォンが普及する前の話だが、中国で公式に発売されていないPSPが大量に海外から中国に運ばれて、多くの人が海賊版ゲームをプレイしてたり、音楽を聞いたりしていたときがあった。地下鉄の一車両に数人はPSPに夢中になる人がいるくらい普及していた、そんなときがあった。

 それでも現在中国の公式ゲーム機市場は日本に比べてずっと小さく、スマートフォン向けゲームが人気だ。カシオの「EX-TR」シリーズは中国では自撮り神器と呼ばれ、トレンドに敏感な都市部の女性に人気を得ていた。ただマイナーバージョンアップを繰り返す中で、利用者の関心は失われ、話題を見ることはなくなっていった。

 中国でヒットし続けるには、ハードウェアにおいては新製品への新技術の積極的な導入を行い、ソフトウェアではAndroidなどの導入で多機能に、他のサービスも利用できるエコシステムの上にあり、さらに海賊版問題に直面しつつ無料で利用できる仕組みづくりが必要だったというわけだ。

(山谷剛史)