SaaSビジネスの先駆者、米Salesforce。同社の成長を支えてきたのが、営業活動を細分化・分業化した仕組み「The Model」だ。SaaSやサブスクリプションビジネスが台頭する中、The Modelは営業・マーケティング組織の効率的な形として注目を集めており、日本でも取り入れる企業が増えてきている。

 一方で、The Modelを導入したからといって、必ずしも成果が出るとは限らない。うまく機能せず、以前のやり方に戻ってしまうケースも少なくない。しかしSalesforceでは、細分化した組織を横断して支援する「セールスストラテジー部門」を設置し、The Modelの失敗を防いでいるという。

 セールスストラテジー部門はThe Modelを円滑に機能させるために、どんな活動をしているのか。Salesforce日本法人のセールスフォース・ジャパンでセールスストラテジー部門のトップを務める田中遼太常務執行役員に詳細を聞く。

●営業活動を4プロセスに分ける「The Model」

 The Modelは、営業活動における分業体制のモデルとして知られている。営業活動のプロセスを、マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの4つに分割。それぞれが専門業務に注力し、求められるKPIを達成していく考え方だ。田中常務は「マーケティングで獲得した潜在顧客を商談化・受注し、契約継続していくというサブスクリプションモデルのなかで、成果を最大化していくための手法」と説明する。

 このThe Modelには、従来の営業組織にはないメリットがある。例えば、分野ごとにKPIを設定し、それにひもづくデータを基に営業活動を研究できる点だ。営業プロセスの再現性および効率性が高められたり、顧客の購買行動の変化に柔軟に対応しやすくなったりするという。

 一方で落とし穴もある。ありがちな失敗例としては、分業そのものが目的化してしまい、部門間での対立につながってしまうパターンが挙げられる。

 データの扱い方に失敗する例もある。各分野でデータ化していない案件が発生し、情報のやりとりが難しくなる“サイロ化”の状態に陥り、成果につながらないケースなどだ。

●情報源の統一と俯瞰 “ありがちな失敗”を独自部門が防げるワケ

 セールスストラテジー部門は、こうした課題の克服を目指す組織だ。データドリブンな組織活動の実現に向け、データ分析やその結果を基にした意思決定をサポートする役割を担う。

 一般的な営業企画部門と違い、営業部門内ではなく独立した部門として存在している。営業部門外の利害関係者としての視点を持ち、客観的な立場から営業戦略を提案できるよう、独立した組織になったという。

 担当する業務は、営業組織の戦略立案や、営業活動のオペレーションとその改善、営業人材のKPI管理などだ。The Model型組織の中でも、主にマーケティング〜営業部門間の支援を担うが、場合によっては間接的にカスタマ―サクセスを支援することもあるという。

 重視しているのは、データ活用における情報源の統一だ。The Model型の組織は営業活動を通して得た情報を活用しやすいのが強みだが、データの解釈や参照するデータがバラバラでは部門間での意思疎通に問題が出る。営業活動が順調でないときの原因究明がしにくくなる可能性もある。そこで各部門が見るべきデータを統一し、共通の考え方で営業活動を進められるようにしているわけだ。

 セールスフォース・ジャパンでは、CRM(顧客関係管理ツール)「Sales Cloud」「Service Cloud」やドキュメント管理ツール「Salesforce Anywhere」、BI(ビジネスインテリジェンス)ツール「Tableau」、チャットツール「Slack」を各部門の共通ツールに設定。情報を同一のプラットフォームに集約し、共通の情報を基にコミュニケーションできるようにしている。

 セールスストラテジー部門は各種ツールに集まったデータを基に、信頼できる情報源とすべきデータを決定。これを営業活動の改善や、個人のKPIに落とし込んでいる。これにより、各関連部門間の連携がスムーズに進むという。

 The Model型の組織によくある失敗として、商談化につながらない原因が、見込客をつくるマーケティングプロセスにあるのか、それを受け取るインサイドセールスにあるのか分からず、責任を押し付けあってしまうケースがある。

 一方、セールスフォースでは、セールスストラテジー部門主導の下「パイプライン・カウンシル・ミーティング」という組織横断の会議を実施。セールスストラテジー部門が定めたデータを基に現状を議論し、課題の所在を明確化しているという。「そもそも見ているデータが正しいのかどうかといったところから確認する必要がなく、建設的な議論に時間を割きやすくなる」(田中常務)

●先手を打つデータ分析の必要性 セールスストラテジー部門の試行錯誤

 一方、セールスストラテジー部門が直面した課題もあったと田中常務。営業組織の活動をどこまで数値化して細かく見ていく必要があるのか、試行錯誤したという。

 「営業活動のデータを蓄積していくと、過去のデータに依存するようになってしまう。例えば受注数の目標値に対して必要な案件数の規模感は、過去のデータから把握できる。ただ実際には、案件ごとの状況にはさまざまなパターンがあり、分析は複雑」と田中常務。

 例えば案件の量が足りていたとしても、それぞれが受注につながるかどうかの“質”や、提案の時期などは異なる。受注数の目標値に対して必要な案件数の規模感を確認するとき、こういった特徴まで分析していくべきか、トライアンドエラーを重ねて確かめたという。

 「受注の確度をより高められるよう、複雑な事象を一つ一つひもとき、未来の商談を分析する方向に重きを置いた。ここで得られた結果を、商談を作るプロセスの改善につなげるなど、より先手を打っていく方向にシフトした」(田中常務)

 田中常務によればこうした方針は、変化の激しい環境において効果を発揮したという。その一例がコロナ禍への対応だ。セールスフォース・ジャパンでも営業活動を取り巻く環境が一変したが、すでに試行錯誤の結果で方針が固まっていたことから、先手を打つ方向性での議論に入りやすかったという。

●データドリブン×社内連携の重要性 The Modelの好循環を生むカギは

 営業組織を支援する独立部門を設置し、The Modelの円滑な運用に取り組むセールスフォース・ジャパン。ただ、セールスストラテジー部門のような組織がなければ、The Modelを取り入れられないわけではない。

 「サブスクリプションモデルを採用し、営業活動のプロセスを分業して進める体制がビジネスに合っているのであれば、規模・業種問わずどの企業でも取り入れられるのでは」(田中常務)

 The Modelをうまく運用できれば、商談がどういう経緯で契約に至ったのか、どのような商談が増えているのかといった営業活動の状況が明らかにしやすくなる。そうすると、データを踏まえた顧客のサポートが可能になり、顧客の成功につながる。こうしたカスタマーサクセスの活動記録は、マーケティングや営業の新たな施策にフィードバックできる。

 セールスフォース・ジャパンのやり方に限らず、データドリブンな形で社内連携を図り、こうした好循環を生み出せるかどうかが、顧客満足度向上のポイントになるのかもしれない。顧客満足度の向上が売上に直結するSaaSにおいては、ビジネス拡大の成否を握るカギになるはずだ。