米フロリダ州立大学と米ラトガース大学の研究チームが開発した「ToothSonic: Earable Authentication via Acoustic Toothprint」は、ユーザーが歯のジェスチャーを行う際に発生する歯型による音波効果を利用したイヤフォンベースの認証システムだ。

 人によって歯の大きさや並びは違い、そのため歯を互いに噛んだり滑らせたりした際の音は固有のものであり、その音を着用するイヤフォンで捉え解析することで個人認証を行うのがこのアプローチになる。

 永久歯は通常32本で、16本が上顎、16本が下顎に生えている。歯は上下左右に対称であるため、4象限に分けることができる。各象限には切歯2本、犬歯1本、小臼歯2本、臼歯3本が存在する。

 当然、全部同じ歯の形状で同じ位置にある人はいない。そのため歯を互いに噛んだときや滑らしたときに発生する音波も、歯の組成、歯の形状、歯の表面の特徴によって変化する。言い換えると、歯のジェスチャー(スライドまたはタップ)から発生する音波は、歯形の個人情報を持っているともいえる。

 今回の手法は人によって異なる歯を利用して、かむ、滑らせるなどいくつかの歯のジェスチャーを行うことによって発生した音波を装着しているイヤフォンで捉え、分析することでユーザー認証を行う。

 音波は頭部組織や頭蓋骨を通って外耳道まで伝搬するため、著しく減衰する。この減衰した音波を確実に捉えるために、イヤフォンのさまざまなセンサーの中から、内向きマイクを選択した。内向きマイクを使用すると、イヤフォンと外耳道が咬合効果を形成し、音波、特に歯型の情報を効果的に伝える低周波部分が増幅されるという重要な利点がある。

 感知した音波は、ノイズ除去や各ジェスチャーのデータ分割などの前処理を経て、多階層の音波特徴量を抽出する。そしてこのシステムは、多次元の音波特徴量を抽出し、その特徴量とユーザーが登録したプロファイルを比較することで認証を行う。

 25人の被験者を対象とした実験では、1つのジェスチャーで最大95%の認証精度を達成することができた。

 今回の手法は、手や目がふさがっているときでもアイフリーでハンズフリーな認証が可能であり、また公共の場では歯のジェスチャーの音波は他人に気付かれにくく目立たないため、音声ベースの認証よりも社会的に受け入れられやすく、音声によるパスワードや言い換えとは異なり、ユーザーのプライバシーも保護する。

 摩擦や衝突で励起される音波は、口や頭蓋骨に隠されている歯型に依存するため、指紋や顔、声などの従来のバイオメトリクスと比較して、なりすまし攻撃に強いという特徴もある。

 Source and Image Credits: Zi Wang, Yili Ren, Yingying Chen, and Jie Yang. 2022. ToothSonic: Earable Authentication via Acoustic Toothprint. Proc. ACM Interact. Mob. Wearable Ubiquitous Technol. 6, 2, Article 78 (July 2022), 24 pages. https://doi.org/10.1145/3534606

 ※テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。