人間がAI(人工知能)と違うのは創造力=クリエイティビティがあることだ、とよく言われるが、AIの急速な進化によってその考え方は変わりつつある。

 AIを創作に生かそうという研究開発はあらゆるジャンルで進んでいる。作画の分野では文章から画像を自動生成するAIが次々に登場し、画力の高さが話題となっている。Googleの「Parti」や「Imagen」をはじめ、非営利団体のOpenAIは「DALL-E 2」のベータ版をリリースし、公開されたばかりの「Midjourney」はAIが作成した作品をCreative Commons 4.0 by-ncライセンスで利用できるサービスとしても注目されている。

 日本語版のAIも登場するようになり、日本マイクロソフトから独立したAIキャラクター「りんな」は、著名な絵画をモデルにGANを応用してテキストから画像を描く創作活動を始めている。作品はアニメ「BEASTERS ビースターズ」でYOASOBIが唄うオープニングの背景画に採用され、現代イラストレーションを紹介する作品集にも掲載されている。

 小説の分野では日本経済新聞が主催する星新一賞が、AIを使用した作品を募集の対象にしていることがSNSで話題になった。星新一氏の作品を解析してAIにショートショートを書かせようというプロジェクトは、星新一賞が始まる前年の2012年にはこだて未来大学が始動しており、それから10年の年月を経た今年2月に、AIを使用した作品が初めて入選したと発表されたところだ。

 さらに、文章の書き出しを入力すると小説の続きをAIが書いてくれる「AIのべりすと」、あらすじや設定などを元にAIとリレー形式で小説をゲーム感覚で書くことができる「AI BunCho」なども登場している。

 また、東京大学AIセンターの松原仁教授を中心に研究開発を行うAlesは、あらすじを入力すると起承転結のあるストーリーを生成する「フルコト」をリリースし、出力されたシナリオを元に製作された短編映画も公開されている。

 英語圏ではそれより以前の2016年に、AIが書いた脚本を元にしたSFショートムービー「Sunspring」が公開され、ハリウッドやTV業界に大きなインパクトをもたらした。今やクリエイターがAIを活用するのは当たり前になり、新しいツールが次々と生み出されている。

 作曲の分野ではそれ以上に数多くの自動生成ソフトウェアやアプリが公開されており、写真や動画に自動でBGMを付ける機能も珍しくない。業界でも新しい試みをしており、メロディやコード進行を自動生成する楽曲作成アプリ「FIMMIGRM(フィミグラム)」で作曲した曲に、SNSで募集した歌詞付けてNFTで販売するという動きもある。

 売れる音楽のメソッドはある程度確立されているので、AI研究者の中にはGTTM(Generative Theory of Tonal Music)のような音楽構造分析理論を用いて誰でも名曲が作れるAIを開発するのは難しくない、という意見もある。

 現時点ではまだAIの創作活動に人が手助けしている状態だが、AIが完全に自律して作品を自動で生成するようになる日は遠くないだろう。だが、そうなった時に作品の所有権はどうなるのか、という悩ましい問題が生じる。アーティスト兼デザイナーのセバスチャン・エラズリッツ氏は、「注文通りの絵が描けるAIの登場でイラストレーターは真っ先に仕事を追われかねず、AIを活用するクリエイティブの価値をどう考えるかはとても重要だ」と述べている。

●人工知能学会で語られたこと

 6月に京都で開催された人工知能学会全国大会(JSAI 2022)の企画セッション「AIによるクリエイティビティと著作権」では、人工知能学会倫理委員会の委員およびAI研究者と技術者、ゲームAI開発者、法学者らが参加し、創造的なAIによる成果物の権利について、さまざまな立場からさまざまな意見が交わされた。

 100分間のセッションで、背景となるAIの研究開発の現状やどのような分野でどのようにAIのクリエイティビティが活用されているのか、あらためて紹介され、それだけでもすごい情報量になっている。

 興味深かったのは自動学習機能を持つ高度な自律型AIが互いに学習して進化し、生成されたコンテンツの著作権は、システム開発者もデータ提供者も関与が薄くなり、AI自身に著作権があると考えられるようになるかもしれない、という意見だ。もし、ボタンをクリックしただけで自動生成された絵画作品に億単位の値が付いたとしたら、ボタンを押した人に所有者は生じるのかという裁判が起きてもおかしくない。

 AI自身に所有権が生じるかという問題についても、ある特許出願でAIを共同発明者として認めるという裁判結果がオーストラリアで出ている。今のところはまだAI単独で権利が認められたわけではないが、AIがどれだけ関与すれば権利が認められ、人はどうやってその権利を管理するのかといった、時代を見据えた新しい知的財産権を”世界共通ルール”として作る必要があるというのはまちがいだろう。

 とはいえ、そんなルールづくりが簡単にできるわけではない。セッションに登壇した弁護士の福井健策氏は「法律は本質的に周回遅れなので、今のところはコンテンツに対して規約やガイドラインを設けて倫理的に解決する方法が望ましいだろう」としている。

 印象的だったのは、どんなルールや法律ができたとしても、クリエイティビティの健全な発展につながり、最後にがんばった人が報われるような方向であってほしいというという意見が出されていたことだ。そうした公正さの判断こそAIによって実現できそうなのだが、その議論はまた別の場所で行わることになりそうだ。

 「AIによるクリエイティビティと著作権」のセッションは下記で公開されている(1年間限定)

(野々下裕子)