スタートアップが出資を受けようとしたら、知人などのコネをたどるのが普通だった。しかし、それもクラウド時代において変わるかもしない。M&Aのマッチングプラットフォームを運営するM&Aクラウド(東京都新宿区)は11月1日、スタートアップ向けに資金調達を支援する「資金調達Cloud」の提供を開始した。

 スタートアップに出資したい大手IT企業などが情報を掲載し、それらを見てスタートアップが出資を依頼する仕組み。スタートアップ側の手数料は完全無料とし、大手IT企業から情報掲載料を取るモデルだ。単に資金調達をアレンジするだけでなく、事業シナジーを生み出すマッチングを特徴とする。

 「バリュエーション重視のモデルからシナジーありきのモデルへと変わってきている」。M&Aクラウドの及川厚博CEOは、スタートアップへの出資状況の変化をこう話す。株式市場の低迷により、IPOを前提とする企業評価額は現在低くなりがちだ。そのため、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資は非常に厳しい状況にある。

 一方で事業会社では、外部にイノベーションの種を求めるオープンイノベーションが活発化している。スタートアップへの協業や出資を目的としたアクセラレータープログラムも花盛りだ。さらに事業会社が自己資金でファンドを組成し、スタートアップに投資するコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)も増加している。

 しかし「アクセラレータープログラムなどでは、時間も費用もかかるが、なかなか投資につながらない」と及川氏は言う。事業提携ニーズは満たせるものの、出資へのハードルは高いのが実情だ。他方、CVCについても、事業会社の組織の本流とは離れたところで運営されている場合が多く、出資は行うものの提携など事業シナジーを生み出す部分に難があった。

 資金調達Cloudでは、CFOなど事業会社の役員などが登録しており、事業提携を前提とした出資の両方を満たすアレンジが行えるのが特徴だ。

●“買収したい”側が情報を掲載する「M&Aクラウド」

 こうした構造になったのは、もともとM&Aをマッチングする同社のサービス「M&Aクラウド」から独立する形で始まったため。M&Aクラウドは企業を買収したい大手IT企業が「こんな企業を探しています」という形で情報を掲載。自社を売却してもいいと考える企業が、それに応募する形だ。

 2018年のサービス開始から4年で、買い手として登録した企業数は約1600社。日本のIT上場企業の約3割が利用するサービスに成長した。

 サービスを提供する中で増えてきたニーズが、完全買収ではなく出資だった。VCからの出資が厳しくなる中で、売却ではなく資金調達を希望してM&Aクラウドに登録する企業が急増。特に、会社設立前後であるシードステージからの出資希望が増加した。

 これは市況だけでなく、起業領域の変化も関係している。ITやWebの世界で完結できた以前の起業とは違い、昨今はリアルビジネスのDX化など既存事業との結びつきの強い起業が増えた。「プロダクト作りのタイミングから事業会社を活用しないと立ち上がらない。そういう業態が増えてきている」と及川氏は言う。

 そのため、製品やサービスが市場に投入された「プロダクトマーケットフィット」が済み、組織もできあがったタイミングである、シリーズBラウンドあたりの出資ニーズが大きいという。出資の規模感としては3〜5%程度、持分法未満での投資が多い。事業提携を行いシナジーを出せる前提での出資となるため、VCなどからの純粋投資に比べ「バリュエーション(企業価値評価額)1.5倍くらいが肌感覚」(及川氏)だという。

 M&Aクラウド内で提供してきた資金調達サービスの段階で、2021年には15件の資金調達をアレンジした。資金調達Cloudとして本格稼働したあとは、3年後100件を目指す。