マネーフォワードが金融サービスの組み込みを加速させる。3月3日、同社は「SaaS×Fintechサービス」の戦略について発表し、強みである会計などSaaS型ERPに、金融サービスを組み込む方針を明らかにした。数年後、SaaSに続く収益の基盤とすることを狙う。
具体的には、3つの打ち手を掲げた。プリペイド型のビジネスカードを使った「マネーフォワード Pay for Business」、クラウド会計の入出金データを活用したオンラインファクタリングの与信判断、そしてB2Bの送金プラットフォームだ。
●15万枚を超えた「マネーフォワードビジネスカード」
2021年9月に提供を開始した「マネーフォワードビジネスカード」は法人向けのプリペイドカード。クラウド会計を導入している企業であれば、そのデータを元に独自の与信を行い、後払いサービスも提供している。
すでに発行枚数は15万枚を超え、マーケティングコストをほぼ掛けることなく導入が増加しているという。
●オンラインファクタリング機能をクラウド会計に エンベデッドファイナンス
同社が三菱UFJ銀行と合弁で設立したBiz Forward社が提供するオンラインファクタリングサービス「SHIKIN+」と、クラウド会計のデータ連携を開始することも明らかにした。この春から実現する。同社自身が提供するオンラインファクタリング「マネーフォワードアーリーペイメント」に先行して連携を行う。
これまでは、紙の決算書類や入出金データを提出してもらい与信を行っていたが、今後はクラウド会計の入出金データ、仕訳データ、試算表データなどを使い、与信判断に生かす。ただし、別途、売掛債権証憑の提出は必要で、完全なオンライン化には至っていない。
「最終的には、オンラインでリアルタイムで与信判断ができるよう債権情報も連携していきたい」(マネーフォワードビジネスカンパニーCSOの山田一也執行役員)
ファクタリングサービスに与信のための情報を提供するだけでなく、ファクタリングサービスを会計SaaSに組み込むことも計画している。例えば、クラウド会計内の債権データや、クラウド請求書の請求データを用い、会計システム内でオンラインファクタリングを申し込めるようにする。金融サービスを別のサービスに埋め込む、いわゆる「エンベデッド・ファイナンス」への取り組みだ。
「会計だけでなく債権情報がSaaS上に増えていくことが予想される。マネーフォワードのデータを活用してオンラインファクタリングも推進していきたい」(山田氏)
●マネーフォワードクラウド内に送金機能を内包
3つ目として挙げたのが企業向けの送金プラットフォームだ。現在、債務や給与の支払いは、SaaSから出力したデータを銀行のネットバンキングサービスにアップロードすることで行われている。APIを使って振込が行える送金プラットフォームを開発することで、マネーフォワードのシステムから指示するだけで送金が完了する形を目指す。
23年中に、請求書データを保存する「クラウドBox」と給与データを持つ「クラウド給与」から、総合振込や給与振込を可能にする計画だ。
ただし、具体的な仕組みについては非公開とした。「銀行APIを使うかどうかは非公開だが、銀行送金網を使った送金を考えている」と山田氏。
銀行送金網を使った振込は全銀システムを通じて行われ、これまで銀行だけが接続できていた。22年10月には資金移動業者の接続が解禁されたほか、J-Debitを基盤とした小口決済サービス「ことら」も全銀システムに接続している。
その後、送金に対応するクラウドサービスを追加し、送金方法も多様化させる。売り手がカード決済に対応していなくても、買い手に対してクレジットカード決済機能を提供する「請求書カード払い」や、互いの電子マネー残高で決済を行うウォレット払いなどを計画している。また、給与デジタル払いへの対応も視野に入れる。