自治体の業務を共通化し、システムもそれに沿ったものに移行する“自治体システム標準化”。国は原則として2025年度末までの対応を自治体に求めており、各自治体への補助金として1825億円を確保している。中には期限に先行して移行する自治体も出る一方、スケジュールや補助金の不足による負担増といった問題を抱える自治体も少なくない。

 例えば茨城県水戸市や福島県福島市など人口20万人以上の市町村の市長からなる中核市市長会は10月、全額国費による事業推進と期限の見直しを求める要望書を提出した他、京都市・横浜市などの市長からなる指定都市20市市長会も補助金の上限や対象となる経費の拡充などを求めている。

 このうち補助金の上限については、11月10日に閣議決定した23年度補正予算案で約5163億円の積み増しが決まった。デジタル庁の河野太郎大臣も「移行費用は全額負担するから安心してやってほしい」と呼び掛けている。一方でスケジュールについては、移行の難易度が高い場合のみ例外が認められたものの、原則は当初の想定通りの移行と定められている。

 厳しいスケジュールと二転三転する状況を、現場はどう受け止めているのか。本連載ではさまざまな自治体の担当者に取材し、システム標準化に取り組む人の“生の声”を探る。第2回となる今回は、茨城県水戸市の北條佳孝さん(市長公室デジタルイノベーション課課長)と板橋佳広さん(同課システム係長)に話を聞いた。自治体システム標準化やガバメントクラウドに関する概要は第1回の記事を参照のこと。

●水戸市のシステム標準化、現場に聞いてみた 課題と現状は

 ──水戸市のシステム標準化について、進捗を教えてください

板橋さん(以下敬称略) コンサルタントなどをはさまず、以前から契約を結んでいたSIerと協力して進めており、25年度末までの移行を完了できる見込みです。23年度中か24年度の早いうちに、既存業務と標準化した後のシステムをすり合わせ、整合性を検討する作業「フィット&ギャップ」を始めていく考えです。実際にシステムを導入したり、稼働したりするのは25年4月以降になると考えています。

 ──水戸市では、どれくらいの規模の組織で標準化に取り組んでいるのでしょうか

板橋 関係課には標準化について伝えており、水戸市全体で意識できるようにしています。主管しているのは20人前後が所属するデジタルイノベーション課で、うち数人が庁内システムの担当者と連携しながら進めています。

 ──ガバメントクラウドのうち、どのクラウドサービスを使うかすでに決まっていますか

板橋 SIerの方向性に合わせ、Oracle Cloud Infrastructureを使うことになると認識しています。一部にAWSを使う可能性もありますが。

 ──システム標準化にかかる予算を教えてください

板橋 費用は5億数千万円程度を見込んでいます。当初の補助金の上限は2億数千万円程度で、このままだと差額は一般財源として自治体の負担になります。積み増しによって、全額を補助してもらう形で対応できればいいなと期待していますが、まだ正式な通知がきているわけではないので、その辺りは情報収集しながら進められれば。

北條さん(以下敬称略) とはいえ、不安な点は多いです。積み増しの話は導入経費について触れていますが、運用経費は言及がありません。

 標準化後の運用費が現状のシステム運用費より上がってくる可能性もあります。標準化の必要性は理解していますが、これまでより高くなる場合、費用面だけでいえば「これで本当に良かったんだろうか」という形になるかもしれない。

 そもそも、運用経費を含めシステムにかかる費用は、さまざまな手を尽くしながら精査し、費用対効果が最大化できるよう、ベンダーと緊張感を持って進めてきました。しかし、それが全部(積み増しによって)スタートに戻ってしまった。またイチから考えなければいけません。

 ──政府はシステム標準化とガバメントクラウドへの移行により、18年度比で運用経費3割削減を見込んでいるとしています。水戸市から見て、この指標は実現可能なものでしょうか

板橋 水戸市の場合、他の市町村とまとめてSIerと契約し、データセンターや回線を安く利用しています。そこからガバメントクラウドに移行して、果たして水戸市で3割安くなるかは、まだ不透明です。そもそも、(政府の指す指針が)全自治体の合計費用を3割減らすことを示すのか、各自治体が3割減を達成することを示すのか、明らかになっていません。

北條 今回、システム経費が注目を浴びていますが、自治体によって経費やベンダーとの契約体制はバラバラ。そんな中で一概に3割減という言葉だけが広がっており、市民からも期待されています。私たちが本当にそれに応えられるかというと、不安でしかない。

●「不安かどうかと聞かれれば間違いなく不安」 現場のホンネ

 ──「不安」というお話がありましたが、二転三転する状況を現場としてどう受け止めていますか

板橋 情報収集を積極的にしながら対応しなければいけないと思っています。ただ、国の方から急なスケジュール変更もあります。中には自分たちだけで対応し切れないものもあるので、ベンダーなどと協力しながら代替案も含めて検討していくしかありません。現場としては、各所に協力を仰ぎながらやっていくしかないと考えています。

北條 逃げるわけにはいかないので、板橋の言うように頑張っています。とはいえそれだけではどうしようもないこともあるので、不安かどうかと聞かれれば間違いなく不安です。

 ──実際に標準化を進める中で、壁になりそうな点があれば教えてください

板橋 仕様書にシステムと業務を合わせるということは、(20業務に関して言えば)そこから外れる業務は何かしらのオプションをつけない限りできなくなることになります。一方で、今後も新しい取り組みを考える必要は当然ある。

 できないことがあるなりに、新しい取り組みをどう進めるのかを、「デジタルイノベーション課に任せればいいや」ではなく、担当課が自分たちで考えて行動できるように意識付けしたいと考えています。

北條 システム的なガバナンス(統制)という視点で、私たちのような部署が全く関わらなくなることはありませんが、課題に密着した現場からの問題提起もまた必要だと思います。

 ──逆に、標準化に期待するプラスの効果を教えてください

板橋 これまで、システムについては市独自の改修を繰り返していたので、システムベンダーを変えにくい点は確かにありました。水戸市自体はベンダーを変更してはいませんが、自治体の中には標準化のメリットの一つである「ベンダーロックインの抑制」にはつながるところもあるのではないでしょうか。

北條 標準化が落ち着いた何年後か(業務用アプリが出そろったタイミング)には、板橋の言うように変わってくるかもしれません。現状、ベンダーからは「今は人材不足で、とてもじゃないが提案を受けても対応できる状況ではない」「今抱えている標準化案件の対応に手いっぱい」という声も聞いています。水戸市としても、必ずやれるかは現時点ではなんとも言えません。

 とはいえ、標準化自体は現場の仕事を見直すいい機会と考えています。今まで続けてきたものを変えるのは難しいですが、いや応なしの見直しが必要な状況でもある。当課においても、本当に職員がやるべきことを見出すチャンスだと捉えています。

 ──標準化をビジネスチャンスと捉えるベンダーが多いものだと思っており、少々意外です

北條 ベンダーの中からは、標準化が自分たちの今後をどう左右するのか、という不安の声も聞きます。先ほど運用経費3割減に対する不安の話もありましたが、そこを巡って何かあったら──という危機感があるようです。

 ──ガバメントクラウドとして認められているのは外資の4クラウドだけですが、日本企業が認定を得る可能性も出てきています。この動向についてどうお考えでしょうか (注:取材時点ではさくらインターネットの採択は未発表)

板橋 水戸市としては、ベンダーと協力してクラウドを選定しています。ベンダー側が新たな国産クラウドの採用を検討するということであれば、一緒に考えていく余地はあるかと。

北條 個人的には、これまで国産クラウドに動きがなかったことを残念に思っていたので、期待しています。

【編集履歴:11月29日午後3時48分 追加の取材に基づき、組織名など一部表記を変更しました】