2020年は、子どもの教育環境がドラスティックに変化する年となる。ほぼ10年に1回の頻度で改訂されている「学習指導要領」が小学校において完全実施される他、「GIGAスクール構想」に基づいて、小中学校へ学習用端末を“1人1台”導入する取り組みが始まる。

 そんな状況下で、「新型コロナウイルス」への感染防止の観点から、学校への登校が制限されることになった。それに伴い、「授業のオンライン化」へのニーズが高まり、3年間かけて行われる予定だった学習用端末の配備を1年間で完了させるのを始めとして、教育のICT化にまつわる施策が前倒しで行われている。

 この短期集中連載「プログラミング教育とGIGAスクール構想」では、子どもの教育に起こっている変化を数回に分けて追いかけていく。第1回では、プログラミング教育が必修化された背景とGIGAスクール構想について解説した。

 今回は、第1回の内容を踏まえて、教育のICT化にまつわる教育現場の事例や、学習用端末、通信ネットワーク、デジタル教材やサービスなどの整備に関する現状と課題、今後について解説する。

 本連載の執筆に当たり、NECの田畑太嗣氏からさまざまな話を伺った。田畑氏はNECの第一官公ソリューション事業部の初中等・教育産業グループで部長を務め、日本教育情報化振興会 政策検討委員会の委員、学習ソフトウェア情報研究センターの理事や、文部科学省の「2020年代における教育の情報化に関する懇談会」のメンバーなどを歴任してきた。日本の情報教育に関する第一人者である。

●以前からあった「プログラミング教育」「ICT機器」を取り入れる動き

 新しい学習指導要領の実施前から、独自にプログラミング教育やICT機器を取り入れた教育を積極的に行っている学校は幾つもある。

 とりわけ私立小中学校では、「教育にICT機器をいち早く取り入れている」ことをアピールする学校も多いが、公立小中学校でも、ICTに理解のある先生の熱意によって、プログラミング教育を積極的に取り入れている学校もある。

 こうした先進的な事例は、これからプログラミング教育を取り入れようとしている教育関係者にも参考となるだろう。

東京都小金井市立前原小学校の取り組み

 小学校におけるプログラミング教育やICT機器活用に関して、先進的な事例としてよく挙げられるのが、東京都小金井市立前原小学校だ。前原小学校は公立小学校であるが、松田孝校長(当時)が2016年に赴任して以来、松田校長の“肝いり”でプログラミングを活用した授業が行われるようになった。

 赴任直後の2016年度には、3年生から6年生を対象としたプログラミング授業を年間20コマ実施。2016年11月には、全ての学年の全クラスを対象とした“公開”プログラミング授業も行われた。

 さらに2017年度からの3年間、総務省による「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」の指定校となり、低学年(1〜3年生)ではiPad、高学年(4〜6年生)ではChromebookまたはWindows PCを1人1台ずつ使える環境が整備された。

 これらの取り組みの他、「Raspberry Pi 3」を使った授業なども実施している。例えば、3年生では「Minecraft Pi」と「Scratch2MCPI」を活用し、マインクラフトの世界をScratchによるプログラミングで自由に操る、という実習が行われた。この実習では、「X座標とY座標」や「ループ」といった概念を理解する必要があるが、筆者が見学した際は、課題とそのヒントを与えられただけで、児童たちがスイスイと自分たちでプログラミングを進めていく姿があった。

 なお、「とにかくいろいろなところからかき集めた」(松田校長談)こともあり、高学年における1人1台環境はクラスによって端末メーカーやOSが異なっていた。

 前原小学校ではプログラミングだけではなく、クラス運営にもICT機器を活用している。

 例えば、6年生は毎日「朝の会」の代わりに授業支援ツール「schoolTakt」を使った「朝ノート」と呼ばれる活動を行っている。これは、生徒全員が自分の端末(PC)から“朝のひと言”を入力するもので、書き込まれたひと言はその場でお互いに読み合い、先生も全員の声に目を通して全体に声かけをする。

 朝ノート活動によって、同級生がお互いのことをより理解できるようになり、クラスの雰囲気もよくなったという。

立命館小学校の取り組み

 京都の立命館小学校の取り組みも興味深い。立命館小学校の正頭英和教諭(英語担当)は、小学生の英語授業の中で、マインクラフトを活用した「PBL(Problem Based Learning)授業」を実施している。

 PBLは直訳すると「問題解決型学習」という意味。児童・生徒が自分で問題を発見し、解決する能力を養う教育法で、新しい学習指導要領でも重視されている「アクティブラーニング」の手法の1つだ。具体的には、テーマを決め、児童・生徒が互いに話し合いながら、「どうしたらその問題を解決できるのか」を考え、自主的に学習していくというものである。

 正頭教諭のマインクラフトを用いたPBL授業は、国内外から高い評価を得ており、世界中から優れた教師を選出する「Global Teacher Prize 2019」のトップ10に選ばれている。正頭氏のPBL授業では、マインクラフトの操作方法は一切解説しない。分かる児童が他の児童を教える形で進んでいくことが特徴だ。その詳細は、Global Teacher PrizeがYouTubeにアップロードした動画を見てほしい。

●端末だけではなく「ネットワーク」も課題の1つ

 プログラミング教育やICT機器を活用した教育を実現するには、生徒に十分な数の学習用端末を行き渡らせるだけではなく、インターネット接続を含むネットワーク環境の整備も重要な課題となる。

 昨今の教育向けICTサービスは、Webブラウザベースで稼働するものや、クラウド(遠隔サーバ)を利用するものが多く、インターネットへの接続は欠かせない。GIGAスクール構想でも、「1人1台の学習用端末」と「高速大容量の通信」を合わせて整備することが盛り込まれている。

 学習用端末からインターネットへの接続は、Wi-Fi(無線LAN)を利用することが一般的だ。しかし、1つの教室で数十人が同時に接続することになるため、家庭用のWi-Fiルーター(アクセスポイント)を流用するとスペック的に厳しい恐れもある。この点で参考になるのが、埼玉県飯能市にある聖望学園中学校・高等学校(以下「聖望学園」)の事例だ。

 聖望学園では、2016年から中学校の全生徒に自宅に持ち帰れるiPadを貸与し、校舎にはWi-Fi環境を構築している。しかし導入当初、学校でのWi-Fi通信が頻繁に途切れてしまうという現象が生じたのだ。

 調査の結果、この通信途絶の原因はWi-Fiアクセスポイントが備える「DFS(動的電波周波数選択)スキャン」によるものと判明した。

 5GHz帯のWi-Fi(IEEE 802.11ax/11ac/11a/11n)の一部チャンネル(帯域)は、気象レーダーや航空レーダーが利用する帯域と重複する。当然、レーダー用途の通信が優先されるので、利用中のチャンネルがレーダーと干渉する場合は、それを回避する必要がある。

 DFSスキャンは、通信に用いるチャンネル(帯域)がレーダー通信と干渉しないかどうかをチェックする仕組みで、5GHz帯に対応する現行のアクセスポイント(ルーター)には標準でこの機能が備わっている。一般的なアクセスポイントでは、通信用のアンテナでDFSスキャンを行うため、スキャンが実行される約1分間は、5GHz帯のWi-Fiが利用できなくなる。

 「あれ、5GHz帯のWi-Fiだけ通信できないぞ……」という現象が発生した場合、ほとんどはDFSスキャンが原因だ。

 DFSスキャンはアクセスポイントの電源投入時だけではなく、レーダー通信を検知した時にも行われる。スキャンが頻発する状況は「DFS障害」と呼ばれる立派な“通信障害”である。

 聖望学園でDFS障害が発生した原因は、その立地にある。同学園から少し離れた場所には、航空自衛隊入間基地(埼玉県狭山市、入間市)や陸上自衛隊朝霞駐屯地(東京都練馬区、埼玉県朝霞市、和光市、新座市)がある。これらの基地や駐屯地、その周辺には航空レーダーが配備されている。航空レーダーが出す電波が、DFS障害を引き起こしたと考えられるのだ。

 そこで聖望学園は、DFS障害回避機能を標準で備えるバッファロー製Wi-Fiアクセスポイント「AirStation Pro WAPM-2133TR」を導入した。

 先述の通り、一般的な5GHz帯対応Wi-Fiアクセスポイントでは、通信用アンテナでDFSスキャンを実施する。それに対し、WAPM-2133TRはDFSスキャン用アンテナを別途装備し、常時DFSスキャンを実施している。通信用アンテナとDFSスキャン用アンテナを分けることによって、レーダー通信を検知した際のチャンネル切り替え時間は大幅に短縮される。結果、通信が「切断」されるトラブルも減る。

 なお、WAPM-2133TRは2.4GHz帯×1チャンネルと5GHz帯×2チャンネルの計3チャンネルで同時通信できる「トライバンド通信」と、それぞれのチャンネルに接続端末を均等に割り振る「バンドステアリング」にも対応している。そのため、40人程度の大人数クラスでも安定した通信が可能だ。

 このアクセスポイントを設置した教室では、DFS障害が原因と思われる通信トラブルは一切起きなくなったという。

 聖望学園では、多くの授業でリアルタイム授業支援アプリ「MetaMoji ClassRoom」を活用している。ICT担当の永澤勇気教諭は、教育のICT化で重視していることとして「インタラクティブ(双方向性)」と「リアルタイム」の2点を挙げる。

 筆者は、同学園の中学2年生の数学の授業を見学したことがある。生徒は全員、学校から貸与されているiPadを持参しており、5〜6名ずつのグループに分かれて授業を受けていた。

 担当教師がプロジェクターで投影している問題の上に、電子黒板システム用のペンを使って手で書き込みながら、問題のポイントを解説していく。生徒のiPadにもその画面が共有され、紙のノートや教科書は使わずに、手慣れた様子でiPadに指でメモなどを書き込んでいた。

 それぞれの生徒の画面は、プロジェクター画面にもサムネイルといて表示されており、生徒は自己申告で「正解」「不正解」を選ぶと、画面の背景の色に反映される仕組みとなっている。

 生徒にタブレット授業の感想を聞いた所、「紙の教科書やノート、鉛筆を使うよりも分かりやすい」とのことであった。もちろん、全ての授業でタブレットを使っているわけではないが、数学と理科ではタブレットを使うことが多いそうだ。

●端末のシェアはWindowsが圧倒的だがChromebookにもチャンスあり

 小中学校でプログラミング教育やICT機器を活用した学習を行うには、当然ながら学習用端末が必要になる。

 前回紹介した通り、GIGAスクール構想では「Windows 10 Pro」「Chrome OS」「iPadOS」の3つのOSについて「標準端末」が定義されている。日本における主要なPCメーカーは、この定義に適合するノートPCや2in1 PCを相次いでリリースしている。

 レノボ・ジャパン、NECや日本エイサーなど、一部のメーカーでは、学習用端末のラインアップにWindows 10 ProモデルとChromebook(Chrome OSモデル)の両方を取りそろえている。これは、教育ICTサービスにWebブラウザベースで稼働するものやクラウド(遠隔サーバ)を利用するものが多く、特定のOSに依存せずに済むことが背景にある。

 特定のOSに依存しないということは、サービスが利用できる限りにおいて端末のOSによって学習環境に大きな差は出ないということでもある。そう考えると、その時々においてコストパフォーマンスに優れるOS(と端末)を選ぶことが合理的……なのだが、実際は既に導入されているOSを搭載する端末を追加導入するケースが多い。

 海外の教育市場では、Chrome OSのシェアが高い。特に米国では、K-12市場(幼稚園から高校までの市場)における同OSのシェアが2015年に約50%に達し、2016年には約58%まで上昇した。一方、日本では圧倒的にWindowsのシェアが高く、NECによると国内文教市場におけるシェアは95%程度と推定されるという。これは、Windowsになじみのある教員が多いためだと思われる。

 NTTコミュニケーションズのスマートエデュケーション推進室の稲田友担当課長は、レノボと共同提供する「GIGAスクールパック」の発表会において、「学校の教師の多くは基本的に慎重な、イノベーター理論でいう『アーリーマジョリティー』タイプ。実用性をじっくり検討してから採用するというスタンスである」と語っている。同じOSの端末を買い足す傾向を端的に示した格好だ。

 しかしGIGAスクール構想を受けて、Googleは3月18日、Chromebookとクラウド型教育プラットフォームの「G Suite for Education」を中核とした教育機関向けソリューション「Google GIGA School Package」を発表している。

 Google GIGA School Packageには、導入を支援する教員や管理者向けの研修プログラム「Kickstart Program」も含まれている。端末の管理がしやすいというChromebookのメリットが周知されれば、今後は国内教育市場でもChrome OSのシェアが増加する可能性がある。

●ICT活用の鍵を握る「デジタル教科書」の課題

 GIGAスクール構想という強力な後押しもあり、学習用端末は“1人1台”に向けて着々と導入が進んでいる。しかし、端末だけがそろっても、学習教材や学習に使えるアプリケーションがないと「ただの箱」だ。ICT機器における学習用教材やアプリケーションはどのような状況なのだろうか。現状を紹介しよう。

 ICT機器で活用できる学習用教材は、「デジタル教科書」とそれ以外の「デジタル教材」に大別できる。デジタル教科書はさらに、教師が用いる「指導者用」と児童や生徒が用いる「学習者用」に細分されるのだが、2019年4月に施行された改正学校教育法によって、学習者用デジタル教科書が“正式な”教科書として紙の代わりに使えるようになった(それまでは「補助教材」としての利用のみ認められていた)。

 法的には、学習者用デジタル教科書は「紙の教科書の内容の全部をそのまま記録した電磁的記録である教材」と定義されている。ただし、その導入は段階的に進められるため、現時点において有効な文部科学省の告示では、主に以下のような基準(見方によっては制約)が設けられている。

・学習者用デジタル教科書を用いる授業は、各教科の授業時数の2分の1未満とする

・学習者用デジタル教科書は紙の教科書との併用を基本とする(≒いつでも紙の教科書を使えるようにしておく)

・学習用デジタル教科書は児童や生徒が自らの端末で利用する

・「特別な配慮を必要とする児童生徒等」(※)は、紙の教科書の完全代用として学習用デジタル教科書を使っても構わない

(※)障害(視覚障害、発達障害など)によって紙の教科書を使った授業が困難である児童や生徒、日本語の理解に困難がある児童や生徒、色覚特性や化学物質過敏症などの理由から紙の教科書などを使うことが困難な児童や生徒など

 教師が大型ディスプレイやスクリーンなどに表示して利用する指導者用デジタル教科書は、2005年の登場以来、着実に普及が進んでいる。文部科学省の調査によると、2018年度における指導者用デジタル教科書の普及率は小学校で56.6%、中学校では61.4%に達している。

 学習者用デジタル教科書の発行比率も急速に伸びている。デジタル版も存在する小学校の教科書は、学習指導要領の完全移行前の2019年度版では全体の20%だったのに対し、完全移行後の2020年度版では実に全体の94%に達した。

 指導者用デジタル教科書の利点は、学習情報を共有化したり、選択や拡大、書き込みによる学習内容の焦点化により、分かりやすい授業ができることである。学年や教科を超えた学習もしやすくなり、授業の自由度も高くなる。

 一方、学習者用デジタル教科書の利点は、学習者1人1人に合わせて教科書をカスタマイズする「My教科書」化をしやすいことにある。紙の教科書だけでは学習が困難な生徒に向けた学習の支援が行えることもメリットだ。

 その他のデジタル教材についても、ここ数年多くの新規事業者が参入しており、拡充が進んでいる。中でも、AI(人工知能)を活用することで児童や生徒1人1人に個別最適化したドリル教材が増加傾向にある。

 例えば、すららネットが提供しているクラウド型アダプティブラーニング教材「ピタドリ」は、小学1年生から高校3年生までの全学年に対応した個別最適化ドリル教材で、自分の学力に応じた演習問題に取り組めるため、児童や生徒の成績を効率良く向上できる。こうした“きめ細かな対応”を行えることは、デジタル教材ならではの利点といえる。

 学校でのICT機器活用に関しては、生徒の学習状況の分析や採点支援、共同学習支援など、教室運営や教師の働き方をサポートするサービスも重要だが、そちらについては次回取り上げることにしたい。