Samsung Electronicsから、クライアントPC向けSSDの最新モデル「870 QVO」が発表された。QLC 3D NANDフラッシュメモリを採用した「860 QVO」の後継にあたる製品で、新世代のNANDフラッシュメモリと、それに最適化した新型コントローラを導入することで、最大8TBの容量を実現した。さらに、ランダムアクセス性能や耐久性が向上したという。今回は2TBモデルを試用できたので、性能を中心に検証しよう。

●QLC 3D NANDフラッシュメモリを搭載したSSD

 870 QVOは、QLC 3D NANDフラッシュメモリを搭載したSSDだ。QLCとはQuad Level Cellの略で、メモリセル1つあたりに4bitのデータを記録する方式のことをいう。

 1セルあたりに3bitのデータを記録するTLC NANDフラッシュメモリに比べて、1セルあたりの情報量は1.33倍になる。つまり、低コスト化、大容量化がしやすい利点がある。一方、QLCでは電流制御が複雑になるため、メモリセルあたりの寿命はTLCの約3分の1、性能(特に書き込み)もTLCに比べて大きく落ちるデメリットがある。

 こうした耐久性や性能のデメリットを、DRAMキャッシュやSLCバッファ(後述するIntelligent TurboWrite)を利用してカバーし、大容量で買いやすいSSDとしてまとめたのが、870 QVOという製品だ。フォームファクターは、現在のところ2.5インチ(約6.8mm厚)のみ、インタフェースはSerial ATA 6Gb/sを採用している。

 なお、Samsung Electronicsでは、「QLC」のことを「4bit MLC」と呼ぶが、本稿では一般的な呼び方である「QLC」に統一する。また、同社は「3D NAND」についても、同社のブランディングネームである「V-NAND」と呼んでいるが、こちらも固有名詞として表す以外は「3D NANDフラッシュメモリ」に統一した。

●新世代QLC 3D NANDと新型コントローラを採用

 870 QVOは、従来の860 QVOの後継となる製品だ。構造的には、QLC 3D NANDフラッシュメモリが第2世代(9x層3D NAND)となったこと、コントローラーが新型のMKXとなったことが従来モデルからの進化点となる。

 これによって性能の公称値が向上しており、シーケンシャルリード/ライトが毎秒10MBずつ速くなった他、QD1のランダム4KリードのIOPSが1.47倍に高速化している。

 クライアントPCにおける実際のアプリケーションのワークロードは、オフィス、ゲーミング、クリエイティブまで含めてもほとんどがQD1かQD2、特にQD1が大半を占めているとされており、QD1の4Kランダムリードの強化はアプリケーションのパフォーマンス向上につながるという。

 また、長時間連続して書き込みを行った際の性能が最大21%改善され、SLCバッファの耐久性も3.8倍に向上したという。

●QD1のランダムアクセス性能が強化された

 以下の表に、870 QVOと860 QVOの2TBモデルの比較をまとめたが、性能の公称値については1つ注意点がある。公式発表の公称値だけを見るとランダム4Kのライト性能は従来より少し落ちているが、両者は公称値の基準としている測定環境が異なり、860 QVOではWindows 7ベースであったのに対し、870 QVOはWindows 10ベースであるという。

 Windows 10ではライト時のOSレイテンシが増加しているため、同じWindows 10ベースで評価すれば、870 QVOのライト性能は860 QVOと同等、あるいはそれ以上になっているという。

 1年半前当時にしてもまだWindows 7環境を公称値の基準にしていたことには驚くが、他社との競争力を数値で判断されてしまう事情を考えると、当時延長サポート期間中であったWindows 7環境の方がよい数値が出るならば、そちらを採用することは理解できる。

●Intelligent TurboWriteでQLCの弱点をカバー

 書き込み性能が低いQLC NANDフラッシュメモリの性能をカバーしているのが「Intelligent TurboWrite」だ。いわゆる「SLCバッファ」と呼ばれる技術である。

 QLC NANDの書き込み性能が低いのは、4bitを記録するための電圧制御が複雑なせいだ。そこで、Intelligent TurboWriteでは、QLCのメモリセルの一部をSLC相当で動作させることで制御をシンプルにして性能を改善し、それを書き込みバッファーとして利用することで、書き込みの遅さをカバーしている。

 Intelligent TurboWriteのバッファーは、SSDの空き容量から確保する。870 QVOの場合、固定で6GB、それ以上は空き容量や使用する容量に応じて可変し、最大で78GB(1TBモデルは42GB)をバッファーとして使うことができる。

 このバッファーに入らないデータでは、QLC NANDの素の性能になる。この性能はというと、1TBモデルで毎秒80MB、2TB以上のモデルで毎秒160MBと極端に低下する。ここはQLC特有の注意点だ。

 なお、Intelligent TurboWriteは空き容量を利用したバッファーなので、空き容量が十分にないときは機能しない。フル容量のバッファーを利用するためには、1TBで168GB(42GB×4)、2TB以上のモデルでは312GB(78GB×4)の空き容量が最低でも必要だ。

●CrystalDiskMark 7.0.0

 これから、ベンチマークテストで性能をチェックしていこう。今回テスト環境は別表の通りで、比較対象には上位のSamsung SSD 860 QVOの2TBモデルを用意した。OSはWindows 10 Pro 64bit(1909)だ。

 まずは、ひよひよ氏制作の定番ベンチマークテスト「CrystalDiskMark 7.0.0」で基本性能を見よう。テストデータのサイズは1GiBで実行した。データタイプは標準のRandomを利用している。

 シーケンシャルリード/ライトは公称値通りの数値だ。ランダム4KBリードも、公称値通り先代からの進化が伺える。Serial ATA 6Gb/sインタフェースのSSD全体としても上位のレベルに入る。

●HD Tune Pro 5.75

 HD Tune Pro 5.75のTransfer Benchmarkでテストサイズ200GBにおける転送速度の推移を見た。870 QVO、860 QVOともオレンジ色のシーケンシャルライトのグラフに注目。開始直後から500MB/s前後で推移しているが、転送容量がIntelligent Turbo WriteのSLCバッファ容量(78GB)を超えたあたりで転送速度が急落し、160MB/s前後まで落ち込んでいる。まさにIntelligent Turbo Writeの仕様通りの挙動が確認できる。

 また、QD1の4KBランダム(4KB Random Single)のリード、そしてQD32の4KBランダム(4KB Random Multi)のリードを比べて見ると、870 QVOの860 QVOに対しての優位が確認できる。

●FINAL FANTASY XIV:紅蓮のリベレーターベンチマーク

 FINAL FANTASY XIV:紅蓮のリベレーターベンチマークのローディングタイムを計測した。解像度などの設定は1920×1080ピクセル、フルスクリーン、最高品質を使用した。870 QVOと860 QVOの差は誤差程度で、これについては870 QVOの優位は確認できなかった。

●PCMark 10(Storage)

 PCMark 10では、システムドライブのアクセスパターンをトレースする「Quick System Drive Benchmark」、データドライブ向けのテストである「Data Drive Benchmark」の2種類を実行した。

 前者は細かいサイズのファイルアクセスが中心で、後者は多数のJPEGファイルをコピーする内容だが、いずれも870 QVOの方が良いスコアが出た。QD1のパフォーマンス強化を裏付ける結果だ。

●ファイルコピー時間

 ファイルコピー(書き込み)時間を比較した。コピーに利用したのはSteamのゲームフォルダーで、67GB、93GB、160GBの3種類を比較した。

 データのサイズがSLCバッファを超えると、そこから急に転送速度が落ちて時間がかかるのは870 QVO/860 QVOともに共通だ。両者のコピー時間は誤差程度で、はっきりした差は見えなかった。

 今回はHDD(Seagate IronWolf)も比較対象に加えてみたが、容量が少ないうちはHDDに対してはっきりとしたアドバンテージがあるが、160GBのコピーではかなりHDDに迫られている。

 単純なファイルコピーでは、SLCバッファ外のQLC NANDの素の性能よりも、HDDの方が高速であることから、ファイルサイズによっては逆転することがある。

●着実な進化も、SLCバッファへの依存度が高い点には注意

 860 QVOに対する870 QVOの強化点は、QD1のランダムアクセスだ。こちらはベンチマークテストでもしっかり出ており、PCMark 10のような実践的なテストも進歩が伺える。

 使い込んだ時の性能低下が若干ながら改善され、またIntelligent TurboWriteの耐久性が向上しているという点も合わせて、より魅力的な製品になったといえるだろう。

 ただ、QLC NANDフラッシュ搭載SSD特有のクセは先代モデル同様にあり、使う人を選ぶ製品ではある。SLCバッファの容量である78GB(1TBモデルの場合は42GB)よりも大きなデータを書き込みすることが多いユーザーにはお勧めできないが、そのような大きなサイズを扱うことはほとんどないというのであれば問題ない。DRAMレスの安価なTLC NAND搭載SSDなどよりは、よほど快適に使えると思われる。

 後は価格競争力がどれだけあるかどうかだろう。SLCバッファーへの依存度が高いだけに、バッファーを最大容量確保するために必要な空き容量(1TBモデルは168GB、2TBモデル以上は288GB)を記録容量から除外して容量単価を計算して、それでも確実に買い得感が残る場合のみ、選択肢としたいところだ。

 日本での販売価格は未定だが、USドルベースで公開されている推奨小売価格を基準に見れば、2TBモデル($249.99)以下は現時点での旨味がいまひとつで、4TBモデル($499.99)以上なら選択肢に入る。1台で8TB($899.99)というモデルは現行では870 QVOのみであり、こちらは価格も含めてかなり魅力的に映る。