Apple WatchとiPadの最新モデルがお披露目されたAppleのスペシャルイベントは、1時間とこれまでの発表会にあたる半分の時間で内容も簡潔にまとめられ、あらかじめ編集された映像コンテンツとして日本語字幕もついており、日本では深夜のスタートであるにもかかわらず、Twitterなどでは多くの人が発表の1つ1つに一喜一憂していた。

 発表内容を列記すると、まずハードウェアとしては新たに血中酸素濃度の測定が可能になったApple Watch series 6と、手頃な値段で買えるApple Watch SE、そしてプロ用に迫る機能を提供する「iPad Air」と低価格な「iPad」の4製品が発表された。

 それと関連してiOS 14、iPad OS 14、watchOS 7、tVOSの最新版が米国時間の9月16日(日本時間の17日)に一斉にリリースされることや、iCloud、Apple Music、Apple Arcade、Apple TV+といった同社の4つのサブスクリプションサービスを個人で月額1100円、家族の場合は同1850円(いずれも税込み)で利用できるようにする「Apple One」という包括型サブスクリプションプログラムも明らかにされた。

 そして、年内に日本を除く一部の国で提供が始まるフィットネスコンテンツ「Apple Fitness+」もある。

 さらにiPhoneを持つことを許されていない児童に、親のiPhoneで設定したApple Watchを使えるようにする「ファミリー共有設定」という機能などが公開された。

 と、発表会の骨子はこれだけなのだが、その間にこれからの健康管理を大きく変えそうな新技術など、いくつもの興味深い発表が行われた。そうした発表のいくつかは、まるでAppleがCOVID-19のパンデミックを予見していたのではないかと思わせる面白い符号も見せている。

 だが、その話は後半にとっておき、まずは今回のハードウェア新製品をどう捉えたらいいのかから読み解きたい。

●新ラインアップをGood、Better、Bestで読み解く

 10年目を迎えるiPadは標準のiPad、iPad mini、iPad Air、iPad Proとモデルがたくさんあり、どのモデル選んだらいいのか悩ましい。また、これまでシンプルだったApple Watchにも、今回、新たにApple Watch SEという別ラインが加わり、製品ラインアップが複雑化しているように見える。

 だが、実はAppleの製品ラインアップは、一見複雑に見えてもシンプルな法則で整理されている。

 1997年にオンライン版のApple Storeがオープンしてから、ユーザーに提供する製品はGood、Better、Bestの3つのグレードで整理されているのだ。

 一番下のモデルが「安い価格」を優先した廉価版ではなく、一番手頃な製品でも、その製品の体験が高いレベルで味わえる「Good(良)」に設定しているところが同社らしいところだ。

 これに対して、最新のトレンドも捉えたさらに良い体験を提供するのが「Better」モデル。

 一方で、「Best」は、すぐには役に立たないかもしれないけれど、未来を先取りした技術も取り入れた意欲的なモデルという位置づけになる。

 例えばiPhone 11 ProではUltra Wide Band(UWB)という物の位置を正確に計れる技術などが搭載されている。これをiPadに当てはめると、新発表の第8世代iPad(と2019年に発表されたiPad mini)が、Appleが考える現時点でのiPad体験のベースラインを作っている「Good」な製品になる。

 気が付けば、これら2つのベースラインのモデルでもiPadの全てのアプリが使え、プロセッサは最新の機械学習アプリも快適に動かすA12 Bionicチップだ。新たに登場した第8世代iPadでは、これによりもっとも売れているWindowsのノートPCと比べて2倍、最も売れているAndroidタブレットと比べて3倍、そして最も売れているChromebookと比べると6倍もの性能を発揮する。

 同製品もiPad miniも必要十分な800万画素のカメラを内蔵し、Apple Pencilも使え、セルラーモデルは便利なeSIMにも対応済みだ。それでいて最新iPadは税別3万4800円からという価格を実現している。

 一方、Betterに当たる今回発表のiPad Air(第4世代)では、最新のiPad Proよりも新しいA14 Bionicチップを搭載した。iPad Pro用と思われていたMagic Keyboardや第2世代のApple Pencilにも対応し、1200万画素カメラ、USB-Cコネクター、Liquid Retina Display、Wi-Fi 6対応と兄貴分であるはずのiPad Pro自慢の機能を遠慮なく搭載している。

 さらに、マスクを着けた状態でもログインが簡単な指紋認証技術、Touch IDの第2世代の技術をホームボタンよりはるかに小さい電源ボタンに内蔵してしまった。それでいて価格は12.9インチiPad Proの約6割となる税別6万2800円からだ。これが最も売れるモデルと踏んでいるのか、5色のカラーバリエーションも用意している。

 そんな弟分が出てきたことで、逆に際立ったのが、今のAppleが考えるBestの機能で、持つ向きにかかわらず最良の音響が楽しめる4つのスピーカーでの音響体験や未来への可能性を秘めたLiDARスキャナー、超広角と広角の2つのカメラレンズ、それを使ったポートレート撮影などは(iPhoneではBetterモデルにも搭載されているが)iPadではBestといえる機能なようだ。

 では、Apple WatchのGood、Better、Bestはどうなのだろうか。

 Bestは血中酸素濃度も計れる注目のApple Watch series 6、そしてBetterは今回新たに加わった手頃なApple Watch SEで、Goodのモデルは1万9800円で引き続き提供される3世代前のモデル、Apple Watch series 3となる。

 Apple Watch series 3はセルラーモデルがなく、画面サイズも最新モデルと比べて30%小さいが、高心拍や低心拍になった時にそれを知らせてくれる機能や、事故などにあったときに助けを呼び出せる緊急SOS機能、泳ぎながらも使える耐水性能といったApple Watchの基本機能は一通り押さえている。

 BetterモデルのApple Watch SEは、series 3よりも画面が30%大きくなり緊急通報が国内だけでなく海外の一部の国でも使えるようになるだけでなく、転んで意識を失った時に自動で助けを呼ぶ転倒検出、後述するファミリー共有、コンパス、そして今いる場所のGPS位置情報だけでなく高度も分かる常時計測の高度計が用意されつつも、Wi-Fiモデルで2万9800円から(セルラーモデルは3万4800円から)という手頃な価格を実現している。

 一方でBestに当たるのが、発表会の最大の目玉ともいえるApple Watch series 6だ(4万2800円〜)。こちらはSEの全ての機能に加え、Retinaディスプレイも常時表示のものになっており、海外で提供されている電気心電図をとるのに必要な電気心拍センサーを内蔵。発表会では一切触れられなかったが、iPhone 11 Pro以来初となるUltra Wide Band技術に対応したU1チップも搭載されている。

 他の2モデルのケースに使われているアルミニウム以外にも、ステンレスやチタニウムといった高級素材のケースが選べたり、同じアルミニウムケースでもブルーやPRODUCT(RED)といった特別色のケースがあったり、Nikeやエルメスとのコラボモデルを選ぶこともできる。

 まさにApple Watchの魅力の全てを楽しめるseries 6だが、その下に新たにSEが加わったことで、これからユーザー比率がどう変わるかは興味深いところだ。

●「ファミリー共有設定」から見えるデジタルファミリーの未来

 Apple Watchは、既に世界で最も売れている時計だが、その利用をさらに広めるべく用意された「ファミリー共有設定」という機能について、もう少し深掘りしてみよう。このファミリー共有設定は、親がiPhoneを使っているが、その子供や同居しているシニアは、iPhoneやその他の携帯電話も持っていないという家族構成を想定している。

 これまでApple Watchは、iPhoneとペアリングして使う道具として設計されており、iPhoneを持っていない人は、本体をアクティベート(使える状態にする)ができなかった。

 ファミリー共有設定では、親のiPhoneを使って、同居人用に購入した単体で使う前提のApple Watchをアクティベートすることが可能になる。

 例えば、子供がまだ携帯を持たせるには早い年頃だと感じていても、この機能を使ってApple Watchを与えれば、子供が外出中に無事かを位置情報で確認したり、電話やメッセージで連絡を取ったりすることもできる。また外出中に転倒などがあった場合には、その通知を受けることも可能だ。

 子供の側は、通常のApple Watch同様にアプリをインストールして利用したり、電話やメッセージのやりとりをしたり、自分だけのMeMojiを時計の画面上でデザインしたり、マップ、Siri、アラームなどの標準機能を活用したりと、スマホよりもはるかに中毒性の低いスマートデバイスとして活用できる。

 そうは言っても、Apple Watchが悪い影響を与えていないか心配な父兄は、設定に使ったiPhoneを通して、子供が連絡できる相手を制限したり、勉強していないといけない時間はアプリの利用や通知の受信に制限をかける「スクールタイム」という設定をしたりすることができる。

 スクールタイム状態のApple Watchは、学校の先生が見回っている時にすぐに確認できるように特徴的な画面(画面の中央に黄色いリングが現れる)になっている。

 もっとも、こういった場合でもちゃんと子供たちのプライバシーを守ってくれるのがAppleらしい設計だ。

 そんなファミリー共有設定とApple Watchだが、実は米国ではちょっと未来の家族のやりとりを予見させるような機能も搭載されている。Apple Cashファミリーという機能が用意され、親から子供へApple Pay払いに使えるクレジットをメッセージとして送ることができるのだ。例えば、今日のお小遣いとして10ドル分のクレジットを送れば、子供はApple Pay払いに対応したお店や乗り物で、それを使うことができる。

 早く日本でも実現してほしい機能の1つだ。

●「血中酸素濃度」センサーに期待高まる健康の未来

 発表会の主役はApple Watchで、ほぼ1時間ちょうどの発表会でも最初の40分はApple Watchに関する発表だった。そんなApple Watchの発表の中で、個人的に鮮烈に印象に残ったのが米国で展開される新しいApple WatchのCMだった。

 今年で登場5周年を迎え、既に世界で最も売れている時計にもなったApple Watchであるにも関わらず、未だに「何に使うの?」と聞かれる製品でもある。

 スマートフォンの通知を受けたり、フィットネスやワークアウトの記録を取ってくれたりすることは知られているが、アプリを一切いれないでも実に多くのことをやってくれるのがApple Watchだ。

 発表会で披露された新CMでは、賢そうな声のナレーターが次々と未来を予言するのだが……。「いずれ機械学習ができる小さなコンピューターがあなたの睡眠を記録して健康的な暮らしを促進する日が来るだろう」と語ると、ベッドの上で寝ている女性が「それ、もうやっています」と最新のApple Watchを見せる。

 その後も、ナレーターは次々と、未来のウェアラブルコンピューターが実現してくれそうな機能を語るのだが、ことごとく「既にやっているよ」とApple Watchを見せられフラストレーションを感じる。最後には「血中酸素を測る」というと、新たにこの機能に対応したApple Watch series 6を身につけた人が宇宙ステーションから「もうやっているよ」という札を見せ「未来の健康はあなたの腕の上に」(筆者訳)というコピーで終わる。

 Apple Watchは最新のseries 6の前から、心身の健康を守るために既に把握し切れないほど多くの機能を提供してきた。そして多くの人が、どんな機能を搭載しているかの全体像は把握しないまでも、自然と使いこなし、恩恵に授かっている。

 そんなApple Watchだが、消費カロリーや脈拍、心電図と違って、新たに計測が可能になった血中酸素濃度に関しては何のための指標かわからない、という人も多いかもしれない。

 果たしてSEとの2万円ほどの価格差を正当化させる機能なのだろうか。判断は人によって分かれるところだが、このセンサーはヘルスケア機器、健康機器に詳しい人たちからは切望されていたものだ。

 血中酸素とは、血液の中でどれだけの量の酸素が運ばれているかを測った指標で、これが一体、どのような健康管理に役立つのかは未知な部分も多い。

 ただ、例えば睡眠時無呼吸症などを患うと、この量が減り低酸素血症という脳などへの障害をもたらす深刻な症状を引き起こすことがあり、そうしたことへの対処にも、これを測る専用の医療機器が使われている。

 血中酸素濃度は、コロナ禍になって、さらに大きな注目を集めた。というのも、この変化を測ることで、療養中の軽度なCOVID-19感染者の肺炎を早期発見できると期待されているからだ。こちらも実際に専用の医療機器が軽傷者宿泊施設などで利用され始めている。

 Apple Watchが提供する血中酸素濃度センサーは、許認可上はあくまでもウェルネスとフィットネス目的のためとされており、計測に使われるアプリの日本語名も米国での発表直後にウェルネスを強調した「血中酸素ウェルネスアプリ」となった。

 ただ、この注目の指標が、見た目も美しく、1日中身につけている人が多いApple Watchで測れるようになったことに、大きな意義を感じる医療関係者は少なくない。

 特に米国では、医療機器として認可されていないヘルスケア機器は、その分、日常生活の中でのユーザーの身体データーを拾っているので、医療機器で計測するデータとは別の高い価値があると考える医療関係者が多く、いくつかの機関がAppleと組んで、血中酸素濃度の活用に関する新たなリサーチを始めているようだ。

●Apple Watchを巡る世界の取り組み

 発表会では、そのうち3つが紹介された。

 1つ目は、そもそもこの指標がどのように役立つかを調べる将来のヘルスケアアプリケーションで、どのように活用できるかを探るリサーチだ。カリフォルニア大学アーバイン校、そして医療サービス会社、Anthemと共同で血中酸素と進めている。

 2つ目は、この指標を心臓の健康に役立てるための研究だ。カナダのTed Rogers Centre for Heart Research、および健康に関する北米有数の研究機関であるカナダのUniversity Health NetworkのPeter Munk Cardiac Centreの研究者と緊密に協力している。

 そして3つ目が、今まさに気になるインフルエンザやCOVID-19などの初期兆候の発見に役立てる研究だ。これは米国のBrotman Baty Institute for Precision MedicineのSeattle Flu Studyの研究者と、ワシントン大学医学部の教授と進めている。これは共にApple Watchで測れる血中酸素濃度と心拍数の両方を指標にするのだという。

 このように血中酸素濃度の測定は、今すぐに確実な効果を医学的にうたえる指標ではないが、その分、今後、デジタル時代の体調管理で最も伸び代が大きい指標であるともいえる。

 Apple Watchは2014年に発売されてから、座りっぱなしを防ぐ機能やアクティビティリングなど、人々の健康を促進する機能で秀でていたが、Apple Watch series 6や、同時にリリースされるwatchOS 7は、その度合いがさらに1つ飛び抜けた感じがする。

 COVID-19のパンデミック前から予定されていたという手洗い補助機能(時間と水の流れる音などから、ちゃんと手を洗えているかを検出、指導)や、免疫力強化の上でも重要な睡眠の質を管理する機能など、まるでコロナ禍の今を予見して備えるべく作られているような機能も多い。

 だが、それ以上に驚かされるのが、今回のApple Watch発表でも冒頭で紹介された「Dear Apple」というビデオのシリーズの最新版だ。Apple Watchの通知で自分が敗血症性ショック状態にあることを知り命を救われた女性、盲目でありながらApple Watchを使って活動的な暮らしをしているスペイン人男性、陸上でオリンピックを目指しながらもI型糖尿病で夢が絶たれたものの、Apple WatchとCGM(持続グルコースモニター)のおかげで陸上競技を続けられ、全米新記録を出した少女、ひどい高血圧で薬代だけで毎月2000ドルかかっていたがApple Watchを使ったエクササイズで体調を改善した男性、心不全で危険な状態に陥っていたことを早期発見し命を取り止めた男性と、Apple Watchがいかに多くの人の人生を変えたかのストーリーには毎年驚かされる。

 ちなみに「接触確認」アプリなどの例をあげるまでもなく、Apple Watchを中心としたAppleの健康に関する取り組みは、既に世界の政府機関などからも高い評価を得ている。さまざまな国民健康政策で注目を集めるシンガポールでは、Appleと協力してLumiHealthという健康促進プログラムを開発。10月から提供予定のアプリは健康を促進する行動を促し、ユーザーがそれに従うとその度にポイントが貯まり2年間で最大380シンガポールドル(約3万円)を獲得することができると言う。

●Apple Watch、良い未来へのもう1つのアプローチ

 さて、そんなApple Watchだが、実は今回、未来に向けて、もう1つ大きな英断を行っている。

 なんと、USB電源アダプターの付属をやめたのだ。Apple 環境・政策・社会イニシアチブ担当のバイス・プレジデント、発表会の途中でリサ・ジャクソン氏が登場した時には、Apple Watchが使用している再生アルミなどの素材のリサイクルや、2030年までにカーボンニュートラルを目指している話だと思った。確かに話もあったが、最後に驚きの発表を行っていた。

 今のユーザーは既に家にUSB電源アダプターをたくさん持っている。それなのに新製品を出荷するたびにこれをセットにすることは、無駄に資源を消費し、カーボンフットプリントを増やすことにつながっているとジャクソン氏は言う。そこでAppleは、まずはApple WatchからUSB電源アダプターをパッケージから省き、さらにApple Watchの製造パートナーを再生可能エネルギーに移行させることで、毎年自動車5万台分の二酸化炭素排出量を削減できるという。

 Apple Watchの製品としての質や使い勝手については、この後、レビュー記事などでも触れることになると思うが、そうした製品レベルの評価の前に、我々がどんな製品を選ぶかによって、未来は作られている部分もあるということを改めてここに書いておきたい。

 我々が大量消費を続ける限り、商品を企業は大量生産する。その大量生産の方法が環境負荷の大きい物であるとしたら、それはあなた自身が、その選択によって環境にダメージを与えているということに他ならないのだ。

 そんな中、Appleは相変わらず安定のエシカルな姿勢で、買う人々に安心感を与えてくれる世界でも数少ない企業の1つだと改めて思わされた。