2021年のパソコンはどう進化していくのか。年始のコラムはそれを支えるプラットフォームの変革について話を進めていきたい。昨年末のコラムから続く内容となるので、合わせてご覧いただきたい。

 昨年、第11世代Coreプロセッサを中心とする「Intel Evo」プラットフォームでモバイルコンピュータを大きく前進させたIntelだが、想定外だったのはAppleが独自に開発したMac向けSoC(System on a Chip)の「Apple M1」が予想以上の高性能だったことだろう。

 あれぐらいは想定内だった? いやいや、限られたスペックの範囲内において、そして「電力あたりのパフォーマンス」という視点において、M1は確かに予想以上の性能を出した。M1搭載MacBookシリーズはほとんどのモバイルPCより高性能にもかかわらず、半日使っても15%程度しかバッテリーが減らず、少々重い処理を行ってバッテリーを使ってみようと思っても、さして本体が温かくならない。

 ただし、M1がパーソナルコンピュータという土俵で圧倒的な性能を示したのは、前述したように、電力あたりのパフォーマンスに依存する一定領域内での話であり、高性能コンピューティングの世界にまで至るスペクトラムの中で、どこまでAppleの設計がスケーラビリティを持つかは未知数だ。

 加えてAppleのM1は、業界でいち早くTSMC(台湾の半導体製造ファウンドリ)の5nm製造プロセスルールを利用できた大規模SoCであり、160億個という極端に多いトランジスタの集積を可能にした。もちろん、それだけの投資をしたからという理屈は成り立つが、筆者の視点はそこにはない。

 どこよりも早く最新の製造プロセスを用いて設計できたということは、次の段階でより大規模なSoCへとステップアップすることは難しいということでもある。TSMCは今年、5nm+といわれるトランジスタ密度を高めたプロセスを導入するものの、劇的なトランジスタ数の増加が見込めるかといえば、難しいだろう。

 恐らくはiPhone向けのA14 BionicがA15 Bionic(仮)に進化する手助けにはなるが、Mac向けのM1をM2(仮)にするには2022年以降の3nmプロセス、あるいはその先の3nm+が必要だと思われる。

 言い換えれば、TSMCの製造プロセスを用いたライバルが今後登場するならば、それらがM1のライバルになっていく可能性は十分にあるということだ。5nmプロセスという武器を他社も使えるようになるときに、Apple製半導体の真の競争力が見えてくる。

●Apple M1の高性能に対してIntelは?

 長らく停滞しているIntelのモバイルプロセッサの進化に対して、Intel、大丈夫? と思ってきたPCエンスージアストは少なくないだろう。それはTiger Lake(開発コード名)と呼ばれていた第11世代CoreをSoCとして搭載するEvoプラットフォームで挽回したといいたいところだが、実際には性能面でも消費電力の面でもApple M1に大差の状態では、大丈夫? と思われても致し方がない。

 何しろ12〜28Wの消費電力クラスであるTiger Lake UP3パッケージが、15Wを上限とする13インチMacBook Pro下位モデル搭載時のM1よりもパフォーマンスが低いだけならまだしも、10〜12W程度と想定されるMacBook Airのフォームファクターでも負けてしまうとなれば、いくら製造プロセスが世代違いとはいえ、大丈夫? と思うのは自然なことだろう。7〜15WのUP4パッケージともなれば、M1とは比べるべくもない。

 Intelの言い分としては、10nmプロセス(Intelは他社の7nmプロセス相当の技術と主張しているが、それでもTSMCの5nmよりも1世代古いことになる)における適切なダイサイズ(半導体チップの面積)であり、従来比であれば高い性能と低消費電力を実現しているところをみてほしいのだろう。

 目の前の現実でいうならば、IntelのモバイルプロセッサはAppleのM1に対して(少なくとも製造プロセス≒トランジスタ数)は周回遅れであることは否めない。しかし、だからといってライバルとしての挑戦権がないわけではない。

 AppleのM1はMac専用であり、現実にはIntelが主要顧客としているWindows PCベンダー向けでは直接のライバルとはなり得ないからだ。M1が高性能だからといって、その上でWindowsが動作するわけでもないのに、気にしても仕方がないというのは、考え方によっては正しいかもしれない。

 実際のところ、Macがいくら高性能になったところでIntelプロセッサのシェアが急減するとは思えない。Intelものんびりしているわけではないだろうが、その辺りのプラットフォームとしての強みを考慮した上で「大丈夫、次への布石をゆっくり打っていこう」という考えなのかもしれない。

 同社が他社の5nmプロセス相当と主張するIntelの7nmプロセス立ち上げは2022〜2023年といわれているから、まだまだ先の話。Appleがどんなプロセッサを開発しようとマイペースにロードマップを消化していくつもりだろう。

●Apple M1の影響は、むしろArm版Windowsに

 もっとも、ここで忘れてはならないのが、MicrosoftがArm版のWindowsとそれを搭載する独自開発のPCにご執心なことだ。

 Microsoftは2019年、「Surface Pro X」に搭載するSoCの「SQ1」をQualcommと共同開発し、Arm版WindowsとArm上でIntel用Windowsアプリケーションを動かすためのエミュレータを開発した。

 さらにMicrosoftは「SQ2」搭載の第2世代Surface Pro Xを2020年に発売しているが、こちらは動作クロック周波数が少しばかり上がった程度で、大きな変革をもたらすものではない。

 しかしながら、Intel製プロセッサを搭載したモバイルPCの性能向上ペースが鈍いのは消費電力に起因する問題が原因で、体験の質を高める上でCPUの消費電力あたりのパフォーマンスをさらに追求する必要があることをApple M1が世の中に示したため、次世代のMicrosoft製プロセッサには期待が持てるのではないだろうか。

 SQ1、SQ2ともにTSMCの7nmプロセスを用いて製造されていたが、今年のアップデートでは5nmプロセスを前提とした、より大規模なSoCに更新されているはずだ。そうなれば(コンセプトの違いがパフォーマンスの差を生み出す可能性は傍に置くとして)、WindowsにおいてもArm搭載機の方が用途によってはよいという評価、あるいは期待が生まれてくるだろう。

 PCベンダーにしても、Intelアーキテクチャだけに依存せざるを得なかった中、Arm版でも十分な性能が得られ、またそれがユーザーに認知されるようになれば、Intel依存を弱めておきたいと考えるはずだ。

 Microsoftによるエミュレーション技術も、互換性、パフォーマンスともに向上していくとするなら、Intelアーキテクチャに依存しない形でのWindowsプラットフォーム展開は不可能ではない。そのことは、既にAppleが証明している。

 M1の高性能ぶりやそれを搭載するMacのバッテリー駆動性能の高さなどが周知されたことで、大きくWindowsプラットフォームも動くのではないだろうか。

●M1の次は果たしてどのような拡張になるのか

 一方でかなり不明瞭なのが、AppleがM1をどのように高性能な製品に展開していくのかだ。Appleは将来的にハイエンドデスクトップのMac Proを含むあらゆるMac製品を自社半導体にするという。

 M1は、1つのチップにメモリを含む必要な要素を集約することで、高性能と省電力を極めて高いバランスで両立させたSoCだ。しかし、一方で拡張性には乏しい。メモリはパッケージ内に封入されているため、最大で16GBしか選ぶことはできない。

 そもそも、M1が低消費電力で高性能な理由はTSMCの5nmプロセスとDRAMまで含めてシングルパッケージに封入した構成にかなり強く依存している。いずれ他社も追い付いては来るだろうが、しばらくは前にいるだろう。

 しかし、これをMacBook Proでも上位のモデルにまで適用できるかといえば、それが難しいことは、M1を搭載する製品ラインアップからも分かる。MacBook Airは完全に置き換えたが、13インチMacBook Proは下位モデルのみの置き換えで、16インチモデルは何のアップデートも受けていない。Mac miniもIntel CPU搭載モデルと併売のままだ。

 Mac Proに至る前に、まずは13インチMacBook Pro上位モデル以上のクラス(すなわち28W〜)の熱設計を許容できるモデルに対して、どう応えていくかは現在のM1からはみえない。

 そもそもM1が高性能かつ低消費電力な理由は、同一パッケージに封入されている広帯域で接続されたDRAMを内蔵CPU、GPUが共有することで、メモリ内容をグラフィックスメモリとメインメモリの間で転送する異なる処理できるからという説明だった。

 しかしM1のさらに上の性能を狙うならば、GPUは外付けの独立チップにせざるを得ない。もちろん、CPU、DRAM、GPUを別々のチップで1つのパッケージに搭載し、GPUとGPUを協調動作させることも不可能ではないだろうが、DRAMの拡張性に難を抱えたままとなる。

 2021年、Appleがそこにどのような解決策を持ってくるのかに注目したい。

●Apple M1の次はIntel外部GPUがヒントに?

 Appleの選択肢は幾つかある。

 まずノート型の範囲内で考えるならば、そのままM1を使いつつ、外部にM1と協調動作するGPUを開発することだ。13インチMacBook Proの上位モデルまでならば、これで十分かもしれない。

 IntelはTiger Lakeにおいて、内蔵するXeグラフィックスと同等設計の独立型GPUを用意し、統合されているXeグラフィックスと併用する「Iris Xe MAX Graphics」という提案を行っている。

 しかし16インチMacBook Proとなれば、メモリの拡張性も求められる。CPU性能に関しても、さらに多くのコアを搭載する上位モデルが欲しいという声があっても不思議ではない。

 例えば、M1の内部回路を再構成し内蔵GPUを省略(あるいはコア数を減らすなど簡素化)して、その分、CPUコアを増加させるというやり方もあるだろう。あるいは、GPUを外部に逃したM1の変形バージョンをデュアル搭載という道もゼロではなさそうだ。

 しかし、将来的なスケールアップの可能性も考えるならば、I/OコントローラーとGPUをCPUダイから独立させた上で同一パッケージ内で共存させるような構成をとるかもしれない。この場合、DRAMはパッケージ外に持つことになるが、たとえDDR5を間に合わせたとしても、帯域的にはやや無理がある。

 両方のダイで共有するキャッシュを持たせることでメモリ帯域の問題を緩和する、といったこともあるのではないだろうか。この辺りは、AMDの動向もヒントになるかもしれない。

 歩留まりという面では、半導体ダイ単位で考えればよく、必要に応じてパッケージに組み込むダイの数、種類などで性能と価格が決まるという構成は、「Mac専用」と考えるならば、さほど複雑にはならないはずだ。

●Arm版Windowsは外販されるのか

 ところでハードウェアの話ではないが、「Windows on Arm」、つまりArm版のWindowsが外販されるかどうかについて、Microsoftがどう判断するかにも注目している。PCベンダーに対してのライセンスは行うと予想しているが、一般向けにライセンス、バイナリの配布を始めれば、M1搭載MacでもWindowsを動かすことが可能になる。

 また、Arm版Windowsが自由にライセンスされるならば、より幅広い市場に広がっていく可能性すらある。何が利点かといえば、それは現時点では消費電力ということになるだろうが、昨今の事情を考えるならば、実はそこにこそ最も大きな価値があるともいえる。

 もっとも、Intelが手をこまねいて見ているはずもない、とも思う。M1はMacにしか搭載されないため、Windows PCに広く採用されているIntelのライバルではないという見方もできるが、しかし比較される対象ではある上、Windowsもより多くのArm搭載機で動くようになればPC業界の巨人であるIntelも無視はできない。

 Arm版Windowsが外販とまではいかなくとも、OEM版ライセンスをユーザーが気軽に入手できるなんてことを想定していないとは思わない。つまり、何らかの手立ては施すのではないだろうか。

 Intelの7nmプロセス立ち上げは2022年以降を予定しているようだが、それまでの間に何が彼らにできるのか。注意深く見守りたい。

[本田雅一,ITmedia]