連載:牧ノブユキのワークアラウンド(PC・スマホの周辺機器やアクセサリー業界の裏話をお届けします)

 家電製品を手掛けるバルミューダのスマートフォン事業参入のように、メーカーがいきなり異業種へと参入するケースがある。既存の製品を別の分野に売り込んでいくのとは異なり、それまでの事業とはあまりかぶらない分野に、新しく製品ないしはサービスを投入していくというケースだ。

 異業種への進出はバブル崩壊直後の90年代半ばにもブームがあり、その時はバブル崩壊で追い詰められた事業者が、次に柱となりうる事業を探すパターンがほとんどだった。つまりネガティブなきっかけであることが多かったが、現在の異業種参入は必ずしもそうではなく、ポジティブなケースもよくみられる。

 ところで、こうした異業種参入はメーカーが行うケースが比較的多いようだ。冒頭で挙げたバルミューダ以外にも、最近ではシャープが不織布マスクに参入したのもそうだし、少し違ったところでは、アイリスオーヤマがPCに参入したのもそうだ。

 なぜメーカーは異業種への参入に積極的なのだろうか。今回はその裏にある理由をみていこう。

●ファブレスメーカーは異業種参入に積極的

 メーカーが異業種参入に特に積極的なのは、幾つかの理由がある。

 一つは、製造を外部に任せるファブレス体制のメーカーにとっては、どのジャンルでも、ノウハウは基本的に共通であるということだ。ありていに言えば、製品企画を行うスタッフと、生産を委託する外注先、さらに品質管理がきちんとできる体制さえあれば、どんな製品でも作れてしまうだけだ。

 もう一つは、とにかく在庫を作って販売店に納入してしまえば、その時点で売り上げが立つことだ。もちろんそのためには、過去の取引を通じて信頼関係ができあがっていることが条件になるが、よほどツボを外した製品でもない限り、量販店のバイヤーに売り込みをかければ「じゃあまずは試しに」と売場を提供してくれる。その時点でいったんは必ず売り上げを立てられる。

 今回のバルミューダの場合は、メーカーに知名度があることに加えて、京セラとタッグを組んで開発すると明言しており、海外メーカーと組んで製造した場合にありがちなトラブルの可能性は極めて低いと考えられる。

 また、あらかじめソフトバンクで販売することが決まっている時点で、既にある程度の数量が保証されており、異業種参入とはいえ大コケの心配はなさそうだ。

 もちろん反響がイマイチで一発限りになる可能性はないわけではないが、少なくとも販売のアテもなく作った製品が倉庫で山積みになり、原価すら回収できない中で倉庫代だけがどんどんかかっていくという、悪夢のような状況は想定しにくい。

 また今回バルミューダのスマホ参入のきっかけが、同社からの働きかけではなく、仮に同社のブランドを見込んだソフトバンク側や京セラ側から声がかかったのが発端ならば(あくまでも可能性の一つにすぎない。念のため)、ブランドを貸す形のバルミューダ側にとっては、さらにリスクの軽減につながる、数量保証などの手立てが用意されているはずだ。

●何らかの強みを持ったメーカーは先行する業者にとっては脅威

 ここまでみてきたのはバルミューダ、あるいはアイリスオーヤマなど、工場を持たないファブレスメーカーにありがちな仕組みだが、では自社で企画から生産までを一手に手掛けているメーカーの場合はどうだろうか。こうしたメーカーの場合、参入先の業界で他社を圧倒できる何らかの強みを持って参入してくることから、いきなりトップブランドとなることも多い。

 例えばシャープが不織布マスクに参入したのも、液晶の製造で使っていたクリーンルームが転用できるという、コストおよび品質で強みを発揮できる理由があったからだ。またメーカーとは少し違うが、ヤマダ電機が家具の製造販売に参入したのは、大塚家具を買収したことで、既存のルートとノウハウをそのまま確保できたことが大きい。

 一般的に異業種参入はニュースで華々しく取り上げられることが多く、経営者にとっては魅力的にみえることから、今後数年はコロナ禍による経営悪化からの脱却を目的に、異業種参入をもくろむメーカーは、さらに増えてくるものと予想される。各企業に出入りしているコンサルが、そうした提案を行って回っても不思議ではない。

 しかし前述のような強みや、リスク回避の方策がなければ、参入はしてみたものの全く売れなかったり、あるいは製品にトラブルが発生した場合に満足な対策が取れなかったりして、終息に追い込まれることになりがちだ。特に品質のトラブルについては、異業種への参入で売り上げを伸ばすどころか、本業に悪影響を与えることになりかねない。

●その異業種参入は積極的なスタンスによるものか

 一方で面白いのは、こうした覚悟を決めた異業種参入よりも、現状の営業体制と製品ラインアップのまま、同じ製品を同じ量販店の別の売場で取り扱ってもらうことの方が、簡単にみえて、かえって難易度が高い場合があることだ。

 例えばPC売場から文具売場やAV機器売場に話を持っていった場合、その売場での競合他社に合わせて価格を下げることを求められ、PC売場での売価とつじつまが合わなくなったり、またPC売場のバイヤーが浮気をしたとヘソを曲げて扱いが悪くなったりと、さまざまな問題が発生して、もとの売り上げにマイナスの影響を与えることがある。

 もちろん新規に製品を用意しなくてよい分、経営上のリスクは低いのは事実だ。しかし異業種参入のようにまとまった予算が投下されるわけではなく、社内の開発体制もそのまま、増員なしのまま別の売場に売り込みに行き、成功すればその後もフォローしろというのだから、現場にとってはたまらない。

 むしろこうした戦略で効果が上がらなかったことで既存業界に見切りをつけ、異業種への参入へと戦略を切り替えるケースは、一定の割合で存在する。もっともこうした経緯を間近でみてきている社員が、思い付きレベルの異業種参入について来るかは未知数だ。

 なにせメーカーの場合、参入に失敗して撤退されてしまうと、サポートのない製品が手元に残されるリスクがあり、消費者としてはたまらない。異業種から参入してきたメーカーの製品に手を出す場合、その参入が積極的な姿勢のたまものなのか、追い詰められてのやむを得ない判断によるものなのか、シビアに見抜く目が求められるといえそうだ。

著者:牧ノブユキ(Nobuyuki Maki)

IT機器メーカー、販売店勤務を経てコンサルへ。Googleトレンドを眺めていると1日が終わるのがもっぱらの悩み。無類のチョコミント好き。