2010年の登場から11年目を迎えたiPadだが、iPadの魅力をさらに光らせるiPadOS 15の登場で新たな転機を迎えようとしている。今回、製品を担当するMac and iPad Product Marketing担当副社長トーマス・ボーガー氏(Thomas Boger)とPlatform Product Marketing担当のステファン・トンナ(Stephen Tonna)氏の2人を独占インタビューする機会を得た。

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●やりたいことが何でもできる魔法のガラス板

 「病院では、医師が白衣のポケットにもスポッと収めてそこかしこに持ち運び、空の上ではわずかなスペースも大事な飛行機のコクピットでパイロットが活用する。海の上では船長も。さらに現場で顧客と向き合う補修/点検サービスの技術者や不動産業者、建築設計士たちも活用し、零細企業の社長やデザイナーの役にも立つ。新しいiPad miniが活躍できる場面はたくさんあると思います。なぜなら、こんなに小さい製品ではあるけれど、正真正銘のiPadだからです」とボーガー氏は語る。

 iPadは、とにかく活用の幅が広いデバイスだというボーガー副社長だが、iPad miniの携帯性に優れたサイズにより、さらにその幅が広がると確信しているという。

 Appleがスマートフォンとパソコンの中間の領域に、新カテゴリー製品の可能性があることを感じてiPadを発表したのは11年前だ。最初は、Apple自身も電子書籍リーダーや動画ビューアー以外の活用方法を思い浮かべられずにいた。しかし、実際に製品が発売されると、そのシンプルな形ゆえに多くの人にインスピレーションを与え、施設の受付や会計からスポーツのトレーニング、デパートや電車の駅の案内係など、今では外出先でも見かけることも多い。

 ボーガー氏は初代iPad登場からの11年をどのように見ているのだろうか。

 「iPadは日々の暮らしの中で、ますます重要な存在になってきていると感じています」とボーガー氏。「朝、1日のスタートにiPadを見ることで幕を切り、日中はiPadを使ってクリエイティブなもの、事務的なものに関わらず仕事をしたり、人によっては勉強をしたりと活用されています。一方でネットを見たり、ソーシャルメディアをチェックしたり、ゲームをしたりとプライベートにも活用したり……iPadそのものの活用は非常に幅が広いですが、それは私たち自身も製品の魅力が用途の幅広さだと認識しており、さらに用途が広がるように意識して製品をアップデートしてきたことがあると思います」

 「例えば、Apple PencilやSmart Keboardのようなアクセサリーも製品の用途を広げました。2021年に追加したUSB Type-CやThunderbolt端子、M1プロセッサや5G対応なども、全てiPadの用途をさらに押し広げるべく加えた変更です」

 「iPadは、やりたいことが何でもできる魔法のガラス板です。これは11年前に製品が登場した時以来変わらない、我々の同製品への認識であるし、実際、これこそがiPadの全てだと思っています。アップデートの積み重ねで、今、この言葉は10年前よりもさらに真実味を帯びていると思います」という。

●2つの新iPadで異なるアプローチ

 モデルチェンジを重ねることで、さらに用途が広がったというiPad。確かにiPad miniの携帯性は、製品に新しい使い方のインスピレーションを与えてくれる。

 ボーガー氏もiPad miniでは、ただ製品を小さくしたのではなく、小さいからこそ広がる可能性を重視した製品だという。他社が出している小型タブレットの多くは「小さい」=「安い」という発想で、性能などが落ちる設計のものが多い。

 これに対して、Appleが今回のiPad miniで取ったのは全く逆のアプローチで、「小さいサイズに可能な限りの能力を凝縮する」というものだった。

 「iPadをiPadたらしめている全ての要素を持ちながらも小さくて携帯性に優れる」

 このことがiPad miniをさらに汎用(はんよう)性の高い製品にするのだという。

 では、一方で、見た目がこれまでと変わらない第9世代のiPadはどうか。この製品はiPad miniとは、全く別の方法で製品の活用の幅を広げてくれるとボーガー氏は語る。優れたコストパフォーマンスのことだ。

 「(10.2インチという標準サイズの)iPadは明らかに一番人気が高いiPadです」とボーガー氏。実際、2020年発表された第8世代のiPadも、人気の高さゆえに日本では売り切れの状態が続いていた。こちらの製品も、人気で使っている人が多いだけに多様な使い方が生まれているという。

 そうした新しいニーズに対応すべく、第9世代では最新のA13プロセッサを搭載し「CPUやGPU処理、機械学習処理などあらゆる処理が20%ほど高速に」なったとうたう。もともとiPadは、処理の遅さを感じることが少ないデバイスだが、性能が高くなることで、よりやれること、やりたいことが増えるはずだ。最低のストレージ容量が64GBに引き上げられた(以前は32GB)ことも同様だろう。

 これに加えて環境光になじむTrue Toneを採用したり、第1世代のApple PencilやSmart Keyboardをサポートしたりとトレンドに合わせた進化も施されているが、ボーガー氏は、中でもセンターフレーム機能に対応した超広角カメラの採用は大きな変化だという。

 「iPad Proで既に搭載済みの機能だが大好評の機能」とのことで、「Pro向けとして開発したこの機能を、こんなにも早く一般向けのiPadにまで広げられたことを誇りに思っています」と付け加えた。

 第9世代iPadは、価格重視の一般ユーザーはもちろん、製品の大量導入を考えている組織や教育機関でも重要な製品だ。「特に昨今はヘルスケア系の機関でのiPadの活用が広がっています」とボーガー氏は語る。

 第9世代iPadはLightning端子だけでなく、製品の形状も第7/第8世代のiPadと同じなので、既に市場に出回っている豊富なアクセサリー、あるいはユーザーが前世代のiPadのために自作した取り付け器具などもそのまま使うことができる。

 一方で性能が大きく向上しているのは「常にiPadの新しい活用が広がり続けており、より多くの活用方法に対応するためにも性能は常に更新し続けていく必要があるからだ」という。

●iPadのもう1つの「耐久性」である旧機種のサポート

 iPadの幅広い活用を促しているのは、その多彩なハードウェアだけではない。9月21日から提供が始まったiPadOS 15には、iPadの使い方を根本から変えてしまいそうな機能もいくつか追加されている。

 これについてはトンナ氏が答えてくれた。最新のiPadOS 15は新機能も重要だが、同時に「今では懐かしい第2世代のiPad Air(2014年発表)や第4世代のiPad mini(2015年)にまでさかのぼって対応させることができたことを喜んでいます」と語る。

 トンナ氏はこうも付け加えている。

 「我々はiPadOSができる限り多くの古い機種をサポートできるように取り組んでいます。いつまでも最新のOSが使えるということも、製品の耐久年数の一要素だと思っています」と述べる。

 「iPadOSで最も大事なのは、iPadならではの特徴的な使い方を提供し、トム(ボーガー氏)が言っていたような幅広い使い方をする上で重要な能力を提供することです」とトンナ氏。

 その中でも重要なのが、複数アプリの同時利用を実現するマルチタスクだ。複数アプリを同時利用する状態に切り替えられたり、解除したりといった操作がiPadOS 15を使えば、7年前の第2世代iPad Airから最新のiPad miniやiPad Proまで、全ての機種で利用できるようになる。

 iPadOSが、古い機器をサポートしてくれることは、新しいiPadの購入を促してくれる側面もあるとボーガー氏は加える。

 「どこの家でも、新しいiPadを買ったら、古いiPadは子供にお下がりとして与えたり、家でスマート家電のコントローラーとして二次活用していたりすることが多いと思います」とボーガー氏。OSが古い製品まで対応してくれれば、お下がりのiPadでも常に最新機能の恩恵を受けられることになる。

 iPadOS 15には、他にもウィジェットを使ってホーム画面を簡単にカスタマイズして、必要な情報にアプリを起動せずに確認できたり、Appライブラリ機能を使って目当てのアプリを簡単に見つけて起動できたりするのも大きな特徴だ。

 「もう1つクールな機能がクイックメモです」とトンナ氏が加える。「Apple Pencilや指でスワイプするだけで、すぐに使えるメモが画面の端から飛び出てくる。これはいつでもどこでもメモ帳を持ち歩いているようなもので、何かを頭の中に思いついたら、その瞬間に書きとめることができる良さがあります」と付け加える。

 他に「翻訳」アプリなども追加しているが、年末に向けてのアップデートでは、さらに「Swift Playgroundsのアップデートも行う」という。「Swift Playground」と言えば、Apple独自のプログラミング言語、Swiftを学ぶための「プログラミング学習」アプリという印象があるかもしれない。しかし、それだけに止まらず、本格的なアプリの開発までも行える。

 年末に登場する最新版では、なんと開発したアプリをそのままApp Storeに登録して提供することも可能だという。もはや、アプリの開発にMacは不要で、iPadで直接アプリを作って配布できる時代がやってくるのだ。

●コロナ禍で伸びるiPadシリーズの人気

 「iPadの唯一無二の魅力は、まるで3本足のスツールのように3つの要素で支えられています。1つ目は、冒頭で話したワールドクラスのハードウェアです。(スマートフォンに比べて)大きなスクリーンを持ち、Apple Pencilを使って手書きをすることもできれば、トラックパッドやマウスを使った操作にも対応しています。

 2つ目がiPadOSです。他にもタブレット製品はありますが、iPadのようにそれ専用のOSが用意された製品はありません。ここにさらに魅力を加味する3つ目の足が、Apple PencilなどiPadならではの特徴に合わせて作られた100万本以上もあるiPad用アプリです。

 これら3つの要素が1つになることで、他の製品では得難い体験、ライバルのいない製品、iPadを作り上げているのです」とボーガー氏は強調する。

 今回、発表された新製品は2つだが、これによってiPadシリーズ全体としての魅力も増した、とボーガー氏はアピールする。

 一番上のiPad Proは「M1プロセッサを搭載し圧倒的なパワーを手にしました」。プロセッサだけでなく120Hzのリフレッシュレートで滑らかな表示を実現するProMotionディスプレイや高速なThunderbolt端子も備えている。

 一方、iPad AirはいくつかのPro機能を、より手頃な価格で提供している。

 「iPadで特筆すべきは、シリーズの全製品が正真正銘のiPadで、Webやメール、ソーシャルメディアを見るといった日常的な使い方はもちろん、iPadのために特別に作られた豊富なアプリを利用することができるのです」とボーガー氏は誇る。

 2010年の衝撃的なデビューから11年、この価値が十分浸透したこともあるのだろう「iPadのビジネスはかつてないほど成功している」ようで、「今季の出荷台数は40%も伸びました」とボーガー氏は語る。今回の新製品や新OSの狙いは「この勢いを維持すること」だという。