Amazonが、ペンでの手書きに対応したE Ink搭載電子書籍リーダー「Kindle Scribe」を発売したが、ペン入力が可能なE Ink(電子ペーパー)デバイスは自体は前からいくつかリリースされている。
その1つが、Onyx InternationalのE Inkタブレット「BOOXシリーズ」である。中でも「BOOX Nova Air C」は、ペンを使った手書き(手描き)に加えてカラー表示に対応する7.8型E Inkを搭載していることが大きな特徴だ。日本における公式販売代理店(SKT)の直販価格(税込み)は5万9800円となる。
発売からおよそBOOX Nova Air Cを、「どのような用途にピッタリなのか」という観点から改めて簡単にチェックしていこう。
●カラーE Inkは輝度を改善 軽くて持ちやすいボディーが魅力
BOOX Nova Air Cは、BOOXシリーズのカラーE Ink搭載モデルとしては「Nova3 Color」(販売終了)に次ぐ第2弾となる。
今回はディスプレイとして元太科技工業が開発した「Kaleido Plus On-Cell ePaper」を搭載している。フロントライトを点灯した場合、Nova3 ColorのE Ink比でコントラストは30%、彩度は15%向上しているという。フロントライトは「寒色系」に加えて「暖色系」も搭載しているので、周囲の環境や時間帯に合わせて色温度を調整できるようになっている。
ボディーのサイズは公称値で約136.5(幅)×194(高さ)×6.3(厚さ)mmで、重量は実測値で270.6gだった。軽くて薄いことは魅力的だ。材質はプラスチック素材だが、質感も悪くない。
専用スタイラスペンはワコム製で、最大4096段階の筆圧検知に対応する。このペンは本体の側面にマグネットで固定しておける。
本体の左側面には、別売の「マグネティックケース」(SKT直販価格は7800円)と接続する際に利用するポゴピンが用意されている。本体の物理ボタンは電源ボタンしか備えていないが、マグネティックケースを装着するとボリュームボタンを利用できるようになる。
ボリュームボタンでのページ送りに対応するアプリなら、マグネティックケースを装着することで電子書籍を読む際の快適性が向上する(※1)。
(※1)ボリュームボタンによるページ送りは、アプリ側での設定が必要な場合があります
●ノートアプリでの手書き(手描き)の追従性は十分
ペンでの手書き(手描き)機能としては、オリジナルの「ノートアプリ」がプリインストールされている。このアプリは各種テンプレート、手書き文字のテキスト認識、キーボードからのテキスト入力など、一般的なノートアプリで求められそうな機能は一通りそろっている。E Inkを搭載していることもあり、ペン色を変えての描画も可能だ。
E Inkの仕様もあってか全体的に彩度は低めだが、描画の追従性は悪くない。十分に実用できる。
ノートアプリ作成したノートは、専用のクラウドストレージにバックアップできる。クラウドストレージは最大5GBまで無料で利用できるが、事前に「Onyxアカウント」を作成する必要がある。
他のデバイスとのファイルのやり取りは、Webブラウザからクラウドストレージにアクセスすることで行える。また、同一のWi-Fi(無線LAN)ネットワークにつながっている場合は、他のデバイスから直接Nova Air Cにアクセスしてファイルの交換を行えるようにもなっている。
●「Google Play」によるアプリ追加も可能(要設定)
BOOX Nova Air Cは“普通の”Androidデバイスでもある。そのため、「Google Playストア」からサードパーティー製のアプリをダウンロードすることも可能だ。もちろん、同ストアにある各種ノート/メモアプリなども利用できる。
ただし、Google Playサービスの有効化作業が必要となる。このことに関する補足説明は紙面で付属しているので、よく読んだ上で作業をすれば問題はない。
Google Playストアを利用できるようにした後、ノートアプリの定番ともいえるMicrosoftの「OneNote」を使ったみた……のだが、描画の遅れが気になる。もう少し正確にいうと、ペン種や線幅に関係なく、細くて黒い線の描画は問題なく追従するのだが、線のカラーや線幅の反映がワンテンポ遅れる感じである。
この遅延は後述する「アプリの最適化」でリフレッシュモードを変更すれば改善可能で、メモ用途がメインなら実用上の問題もなくなる。それでも、イラスト描きで求められる繊細な操作は厳しいかもしれない。
ただし、これはあくまでもOneNoteを使った際の感想であって、プリインストールのメモアプリでは全く問題は感じられない。アプリがE Inkのことを想定しているのか否かの差なのかもしれない。
●専用の電子書籍アプリもあり(ただし日本語タイトルはない模様)
E Inkというと「電子書籍リーダーとしてはどう?」という点も気になる。BOOX Nova Air Cには、専用の電子書籍ストアアプリがプリインストールされている。しかし、筆者が見た限りでは日本語の書籍が見当たらなかった。
日本の電子書籍を利用したい場合は、Google Playストアから各種電子書籍ストアのアプリをインストールして使うことが現実的だろう。今回はAmazonの「Kindleアプリ」を試してみたが、表示や操作は全く問題なかった。
カラーE Inkということで、カラー写真が多用されている電子雑誌も表示してみた。しかし、先に少し触れた通り、全体的に彩度は低めなので「カラーで快適に楽しめる」とは言いがたい。特に、写真内に小さめの文字が回り込むようなレイアウトのページでは、文字が読みづらくなってしまう。ただし、ピンチ操作で拡大できるので、さほど問題にはならないだろう。
マンガを含む電子書籍は、可読性の面における問題はない。
●表示の設定はアプリ単位で可能
E Inkデバイスでは、スクロールやページ遷移をした際に、前の表示内容がうっすらと残る「ゴースト現象」が問題になることがある。これを防ぐために、ページ遷移ごとに画面をリフレッシュするという策もあるのだが、その分だけ描画が遅れてしまう。この遅延は画面をスクロールした際により顕著に現れ、画面がチラチラして見にくくなってしまう恐れもある。
そこで、BOOXシリーズでは画面の輝度、コントラストや更新タイミングをアプリ単位でも調整できるようになっている。例えば、画面の動きが少ない電子書籍アプリではリフレッシュの頻度を高めに設定してゴーストの発生を抑制する一方で、画面スクロールが多くなるWebブラウザアプリでは、多少のゴーストに妥協してスクロールの滑らかさを優先する、といった使い分けも可能だ。
率直にいうと、現在の所は電子書籍をE Inkでカラー表示するメリットはさほど感じない。ただし、カラー作品が多いマンガアプリをスマートフォンよりも大きな画面で見たい場合には最適な選択肢の1つとなりそうだ。また、ノートの作成で色が使えるのは大きなメリットといえる。
筆者としては、BOOX Nova Air Cに「電子書籍の表示デバイス」よりも「カラーが使える手書きデバイス」としての可能性を見いだした。ある程度の汎用(はんよう)性を犠牲にしたとしても、設定の煩雑さなどをなくした「カラー手書きノートデバイス」が出てくることも期待したい。