2017.8.12創業120年の老舗で、津軽塗の製造販売を行ってきた青森県弘前市の田中屋が閉店することになり、大きな衝撃が広がっている−。地元紙が社会面トップで報じたそんな記事に目がくぎ付けになった▼白壁、黒塗りの柱が特徴的な店舗を何度か取材で訪ねたことがある。目的は併設されている画廊。盛岡市出身の美術家で弘前大教授を務めた故村上善男さんの企画展が毎年開催されていた。地図や古文書を用いた作品など、自在で多様な表現が楽しい▼画廊経営者でもある社長と親交を深め、生前から作品展を開いていた村上さん。画廊の改装に関わり、喫茶室のデザインを手掛けた。今も息吹が感じられる建物だ。作家と画廊の幸せな関係を感じた▼経営者が編んだ私家版の村上語録集も味わい深い。「津軽の風景を買って貰(もら)っているんだと思わなければ」。単に津軽塗という商品を売っていると思ってはいけない。その言葉を受け止め、体現していたのだが▼弘前公園近くの店は街のシンボルでもあり、立ち寄ったことのある県民も多いのでは。今、店舗を残す方向で市物産協会と調整しているという。趣ある建物を生かしてほしい▼「古い物を残す主義なんです」。風景の一角を崩されていく痛みに鈍感であってはならないという。各地域には歴史と文化を映す建物がある。村上語録は重い。