出町譲(経済ジャーナリスト・作家、テレビ朝日報道局勤務)

「出町譲の現場発!ニッポン再興」

【まとめ】

・鈴木直道元夕張市長の最大の仕事は353億円もの借金返済。

・自腹を切ったトップセールスは「地域再生」事業も可能に。

・夢を語るリーダーは子供たちにも夢をつなぐ。

 

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ちょうど1年前、私は北海道の夕張市を訪れた。目的は市長だった鈴木直道に会うためだ。破たんした自治体で、若き市長がどのように奮闘したのか。それを取材する旅だった。夕飯を共にした際、北海道知事出馬のうわさを質したが、軽く笑っていなされただけだった。それ以上は追及しなかった。鈴木は知事選で圧勝して、今や、北海道知事。私は、記者としての突っ込みが甘かったことを反省している。

北海道夕張市が破綻したのは12年前だ。それ以降、極限までの行政サービスの削減に追い込まれている。かつて6校だった小学校は1校しかない。子どもたちは凍(い)てつく寒さの中、長時間バスに揺られる。破綻当初は、最低の行政サービスで、全国最高の市民負担と揶揄(やゆ)された。ピーク時に12万人近くだった人口は今や8千人だ。

▲写真 廃墟となった夕張めろん城 出典:著者提供

鈴木直道は2011年に市長に就任した。もともと東京都の職員だったが、夕張市に派遣された。それが縁で出馬したわけだが、市長の仕事は壮絶なものだった。破綻した時の借金は353億円。鈴木にとって借金返済が最大の仕事となる。市税収入は年間8億円なのに、財政再生計画では、26億円返さなければならない。それが20年ほど続く。

「当初、行政サービスは、命にかかわること以外は全て削らなければならなかった。夕張市民が負担に耐えられるかどうかという視点はなかった」

図書館や市民会館は閉鎖した。市の補助金も次々に打ち切る。老朽化した市民住宅を修繕するお金もない。税金や下水道代は大幅に引き上げられた。若い人は嫌気を差し、夕張市を離れた。残されたのは、高齢者ばかりだ。高齢化率は、破綻前の35%から50%に上昇した。市の職員の給与は4割カットされた。鈴木の市長としての年収は250万円だ。痛みを伴う政策を実現するには、とにかく重要なのは、住民との対話だ。5人以上が申し込めば、市長が年中無休で出向く制度を設けた。

「飲食店に呼び出され、3時間か4時間も住民からお叱りを受けることもあります。ただ、人はどんなに怒っていても、しばらくすれば収まってくるのです。最後には『お前もたいへんだな』という言葉が出てきたこともあります」

▲写真 夕張市内 出典:著者提供

鈴木は一方で、自ら幅広くお金を集めている。例えば、企業版ふるさと納税を使った寄付だ。北海道で創業した家具のニトリが5億円、漢方薬大手のツムラが3億円寄付した。それ以外も含めて合計金額は8億7千万円となる。

「個人版ふるさと納税」の獲得にも余念がない。都内でわざわざ記者会見を開き、アピールした。こちらは3億6千万円。就任前の1千万円とは比較にならない。

トップセールスの際の東京出張も自腹だ。市長就任以来の財政再建の取り組みを、国も評価した。2017年3月、財政再生計画の抜本的な見直しに同意した。夕張市は、借金返済だけでなく、「地域再生」事業も可能となった。

鈴木は今、子どもたちに夢を持たせようともがく。市内で小中高一貫の英語教室を始めた。テレビ電話を利用し、外国人講師がマンツーマンで英会話を指導する。

「夕張市は、課題先進地で、課題と向き合ってきた。そして町の課題を少しずつ解決しようとしています。この経験を踏まえ、英語で話せるようになれば、グローバルに課題を解決する人材に育つかもしれない。高校卒業後に外で就職してもいい。子どもたちには夕張で生まれたことを誇りに思ってもらいたい」

私は鈴木と話して改めて「リーダーは夢を語るのが仕事だ」と実感した。どんな状況でも、「希望」の松明(たいまつ)を掲げ続けるべきなのだ。「危機があってもそれを先送りした方が選挙にも通りやすいし、役所批判も少なくて済む。しかし、先送りの結果、問題は深刻になるのです。夕張の場合は、誰が責任を取ったのでしょうか。先送りの意思決定をした当時の市長などではなく、今生活している市民や職員です」

財政危機の表面化を先送りする市町村は、夕張市だけではない。「不都合な真実」を隠し続ければ、波風が立たないからだ。しかし、私は、それは将来世代に無責任だと思う。人口減少社会に突入した今、危機の芽を早く摘むことができるかどうか。首長の決断と実行が地域の未来を左右する。

トップ写真:鈴木直道元夕張市長 出典:著者提供