Japan In-depth編集部(佐田真衣)

【まとめ】

・イベント「コロナ禍で求められるインクルーシブ・イノベーション」が開催。

・登壇した4人の起業家が新型コロナ禍の影響などについて語った。

・これからもインクルーシブ・イノベーションが加速していくだろう。

 

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、サプライチェーンが途絶し、多くの産業が生産一休止などの難局に直面した。新興企業4社の代表が、ウィズ・コロナ時代におけるビジネスのあり方を議論した。

9月3日に行われたオンラインディスカッションのテーマは「コロナ禍で求められるインクルーシブ・イノベーション」。「インクルーシブ」とは、「包み込むような」とか「包括的、包摂的」という意味だが、「インクルーシブ・ビジネス」といった場合は、新興国や途上国における社会問題の解決と企業への経済的利益を両立させるビジネスモデルを指す。

創業時からインクルーシブを重視してきた4社の代表が、コロナ禍で再確認したビジネスにおけるインクルーシブの重要性を議論した。

登壇者は、株式会社ファーメンステーション代表取締酒井里奈氏、株式会社andu amet代表取締役/デザイナー鮫島弘子氏、フーズカカオ株式会社代表取締役福村瑛氏、株式会社ヘラルボニー代表取締役社長松田崇弥氏の4名。

インクルーシブを意識している会社の中でも、今回登壇した4社は社会で取り残されてしまいがちな人と一緒に事業を行っている。海外に拠点がある企業は、物理的制約の中、新規事業の開拓等を行ってきた。

 

■ コロナ禍で受けたダメージ

まず、エチオピアのシープスキンを材料にした高品質皮革製品の企画、製造、販売を行っている、株式会社audu amet代表取締役/デザイナーの鮫島弘子氏(以下、鮫島氏)は、新型コロナウイルス感染症の拡大が始まった時期の事業継続の困難さについて語った。

▲写真 株式会社andu amet 代表取締役/デザイナー 鮫島弘子氏 写真提供:andu amet

鮫島氏:

「エチオピアでは今、一日1000人から2000人ほど感染者が増えている。マスク着用の義務化などなされているが、水道がなく家が多いので、(手洗い用の)水タンクが設置されたりしている。実際に我がでも手洗いの機会を増やしたり、ソーシャルディスタンスを意識し、全員マスク着用するなど、工房でも感染症対策を行っている」。

同社では、マスクを工房で作り始めたが、現地の人はマスクを使うことに慣れておらず、文字が読めなくても使い方がわかるようにマニュアルを添えて現地の人に無料配布したという。

「急いでたくさんマスクを作ったことで、アシスタントも含め社員の技術が短期的に向上するという良い面もあった」。

一方、日本ではどのような状況だったのだろうか。福祉実験ユニット、株式会社ヘラルボニー代表取締役社長松田崇弥氏(以下松田氏)は次のように語った。

▲写真 株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長 松田崇弥氏 写真提供:andu amet

松田氏:

「日本でも医療現場だけでなく、実は福祉現場でもマスクが足りていない。医療現場はSNSなどで発信できるが、福祉現場では、不特定多数の人たちに発信できていなかった」。

こうしてヘラルボニーは、福祉現場もマスクが足りない現状を可視化させるため、「おすそ分けしマスク」という企画を立ち上げた。55枚入りのマスクを購入すると手元に届くのは50枚で残りの5枚は福祉現場に自動的に配布される仕組みだ。

予想以上の反響があり、1579の福祉施設に対して合計60万枚のマスクを届けることができたという。

「コロナがきっかけとなって、私たちも関われるかもしれないという気持ちから『関わり消費』というか、応援消費のような新しい消費の形態の誕生を感じている」。

オーガニック米からエタノールで化粧品やアロマ製品などを製造販売している株式会社ファーメンステーション代表取締役酒井里奈氏(以下、酒井氏)は、拠点が岩手県だったことによる苦労をこう語った。

▲写真 株式会社ファーメンステーション代表取締 酒井里奈氏 写真提供:andu amet

酒井氏:

「岩手は新型コロナ感染症患者が最後まで出なかった、そのため(他県からの)移動が困難になり、製造拠点である岩手への出張ができなくなった。その間、こんなに遠隔で頑張った会社は少ないんじゃないかというくらい頑張り、新製品を作った」。

逆境をバネにしたのだ。今まで原料は作っていたが商品はメーカーに作ってもらっていた同社。しかし、今回、初めて商品の製造まで行ったという。

「香りが大事なのに、それが(現場で)見たり嗅いだりできない。zoomで覗き込んで、今だ!などと指示をしたり、みんなで考えながら製造を行った」。

 

■ 各社のインクルーシブ性

各社、消費者も巻き込んだ形で活動されている。まさにインクルーシブの一つなのではないか。各社の「インクルーシブ性」について聞いた。

まず鮫島氏はエチオピア人の「援助慣れ」について語った。

鮫島氏:

「事業を始めたのは2012年からだが、こういったインクルーシブの事業を始めたいと思ったのは、ボランティアとしてエチオピアに住んでいた2002年。貧しい人を助けるんだ、という思いで現地に行って驚いたのは、援助慣れで、働くことをやめてしまった人たちが多いことだった。しかし彼らが怠け者でも、能力がないというわけでもなく、環境がそういった人たちを作りあげてしまっていた」。

しかし、彼らと「一緒に仕事をできるのではないか」と考えたのが、事業を始めたきっかけだと鮫島氏は語る。

同社の従業員の中には読み書きできない人もいるが、モチベーションは高く、日本の職人に引けを取らないほど丁寧で細かい仕事を行うという。

「途上国で仕事をしているので、援助や支援という目線で見られがちだが、そうではなく、win-winの関係だ。調達、生産、企画まで一貫して弊社のエチオピア工場で行うことで、品質管理ができたり、製造工程が環境に配慮できている」。

コロナで障害はあったが、生産、品質は落ちていない、と鮫島氏は胸を張った。

「非常事態ということで今まで以上に頑張ってくれている。現地に自分たちがコミットして、現場に入って生産している点がこのような結果をもたらしたのではないか」。

次に、インドネシアのカカオ農家と提携して商品を開発・生産している、フーズカカオ株式会社代表取締役 福村瑛氏(以下福村氏)は、現地での活動を紹介した。

チョコレートは実は発酵食品だ。発酵、収穫の工程は重労働で、かつセンシティブだという。そのノウハウは今まで現地では蓄積されていなかった。そこで、福村氏は、インドネシアの農家と一緒に発酵の過程を改善していった。

「最初は美味しくなかったがこれまでに感じたことのないくらいのカカオの風味を作ることができ、インドネシアのカカオの質が低いわけではないということに気がついた」と言う福村氏。

この技術をインドネシアの農園で確立させて他の農園でもできるようにしようと思い立った。砂糖とミルクを混ぜるチョコレートではなく、ハイカカオでも美味しいチョコレートが作れるはず。

そう考えた福村氏は、「農家自身でできるようにする必要がある。このノウハウを知った上でチョコレートトレーダーや消費者にカカオ豆を届けるという仕事をしている」。

andu ametは製造工程を全て会社が管理しているが、フーズカカオは現地にいる発酵のプロに任せつつ、間に入ってより質の良いものを高めている。違いはあれどトレーサブル、生産者の顔が見えるということが共通点だ。

▲写真 カカオ豆をカメラに写そうとする福村氏と、写っているか確認する他の登壇者たち。終始和やかな雰囲気。 写真提供:andu amet

一方、ファーメンテーションの酒井氏は、エタノールの由来について紹介した。

酒井氏によると、現在、アルコールは石油由来のものなのか発酵由来のものなのか、分かるものはとても少ないらしい。その中で同社は、おそらく世界で唯一完全にトレースできるアルコールを作っている。

同社のインクルーシブ性は、その生産拠点にある。岩手県の田んぼで採れるオーガニック米を発酵・蒸留してエタノールを作っており、「いろんな人の関わりがないとできない事業」だ。実は同社の事業には想像以上に様々な人が関わっている。

「米からアルコールを作ると、沢山の滓(かす)が出る。地元の鶏が食べて卵を産み、それがケーキに使われる。鶏が発酵したお米を食べると腸内環境がよくなっていい糞を出し、それが肥料になる。その肥料で農作物を出来る。工場でアルコールを作るには仲間が必要不可欠で、その輪がどんどん広がっている」。

まさに「循環事業」の様相を呈している。環境負荷を考え、発酵滓をお金と時間をかけて遠方まで運ぶのではなく、近くで循環仲間を増やすようにしているという。

また、新型コロナ感染症の拡大で、エタノールに注目が集まった。今後同社では、公衆衛生分野に力を入れるという。

「今まで身近な公衆衛生に使うもので『サステナブル(持続可能な)』がコンセプトのものがなかったので、これを作っている。商品の背景にあるものを大事にする時代になってきている」。

 

■ 商品に求められるストーリー

社会の変化の中で、商品やサービスの背景、ストリーが重視されつつある。鮫島氏もウィズコロナ時代において、そうした変化を感じ、「アルティメットエッセンシャル」というコンセプトで商品開発を始めた。

 

鮫島氏:

「毎年トレンドができるこれまでとは異なり、ブランドとして良いと思うものをワンシーズンで一着だけ出す。それをずっと使い続けてもらえるように提案をしていこうと誓い、活動している」。

鮫島氏は、ものが良くないと成り立たないと考えている。エチオピアの皮は世界最高峰の品質を誇る。強く丈夫なこの皮を使い、きちんとした生産背景で製品を顧客に届けることを重要視している。

「今まではモノや情報を沢山持っていることがファッションだったり、贅沢だった。今後は沢山情報がある中で、深堀りして興味を持ってものを選べるかという、知性を伴った裏側も含めたライフスタイルが贅沢になってなっていくのではないか」。

▲写真 エチオピア産の皮の魅力を伝える鮫島氏。実際に皮にペンを刺すデモンストレーションを行って、強度を試す鮫島氏。 写真提供:andu amet

■ インクルーシブイノベーション

イノベーションとは、新しい生産物の創出、新しい生産方法の導入、新しい市場の開拓、新しい資源の獲得、新しい組織の実現を指す。これにインクルーシブという言葉がつくとどのような意味を持つのか。

フーズカカオの例を紹介する。

従来のカカオ業界はトレーサビリティが取れていなかった。生産国はわかっていても、国を出る前のどの村からきたのか、トレーサビリティはなく、大量買い付け・輸出・加工・販売するというのが当たり前だった。

しかし、最近、「bean to bar」という板チョコが流行っている。カカオ豆を自分たちで調達し、輸出輸入して加工し、自分たちで販売するというものだ。福村氏は、より安価にこうした消費体験を提供できるのでは、と考えた。

「bean to barはカカオ農園に行って品質を確認・改善しているのでコストが高く、価格が市場価格の10倍とかになっている。僕らはカカオ豆の価格は守って生産コストを削ることで消費者の手に届きやすいバリューチェーンを作ることができると考えた」。

そこで福村氏は、カカオ豆から砂糖が入っていない状態まで一括で加工してしまおうと考えた。それが、2020年11月に東京で立ち上げた「カカオ加工ラボ(仮)」だ。

「原料から自分たちが開発しているというのをパティシエさんが言えるような状態にするお手伝いをしている」という。

ヘラルボニーは福祉業界で収まりがちだったアートを一般に広げる活動を行っている。いわば、知的障害がある人たちのエージェンシーだ。

今までは、障害がある人たちは福祉施設にいて、支援者が支援することによって厚生労働省からお金が入ってくるシステムだったが、松田氏はそこに疑問を持った。

「私たちは、障害者の方たちに対して支援者ではなく、ビジネスパートナーだと言っている。障害がある人たちの才能に対して企業がお金を払う新しい構造を作っている」。

その具体例が、JR東日本スタートアップ株式会社とヘラルボニーが、この7月に東京山手線の新駅、「高輪ゲートウェイ駅」の駅前特設会場で開催する、「Takanawa Gateway Fest」での取り組みだ。両社はここで、知的障害や身体障害のある人が描くアート作品で仮囲いを彩るアートミュージアムを実施している。福祉連動型・社会貢献型実証実験だ。

▲写真 アート仮囲い 出典:ヘラルボニー

今までもヘラルボニーは建設現場の仮囲いを使って展示にしてた。厚手のシールを貼って、企画が終わったらおしまいという形だったが、今回の高輪ゲートウェイでの展示では素材をターポリンにして、剥がした後、バッグにリサイクルにできるという仕組みを作った。

「今まで展示することによるお給料だけだったが、商品を売ることでさらに報酬が入る。JR東日本さんにも販売費分の売上げが入り、掲出料の軽減にもなる。アート作品の購入体験の場を増やしていきたい。こうした新しい購入体系ができたのはコロナによってかなと考えている」。

 

■ 新たな発見

これからのインクルーシブイノベーションは、生産者から販売者までに留まらず、消費者まで見据えて一緒に関わってく状態が在るべき姿ではないか。このような産業、ブランドがあるということを広めていくことも大事である。

コロナの大変な時期であったが、その中で乗り越えられたことや新しい発見はあっただろうか。

▲写真 今後の方向性について語る登壇者たち 写真提供:andu amet

フーズカカオの福村氏は、現地に行かなければ品質管理が難しいと感じていた。しかし現地の農家の人たちが日本への輸送可能であるかの基準を把握しているため、「リモートでもお互いに仕事ができていて、どんなものを作って、どうやって作るのかを理解した上で、設備があれば大丈夫」と、自分らが行かなくても品質管理可能である発見があったと述べた。

一方、今後の事業展開の方針転換を余儀なくされたのが、ヘラルボニーだ。大きかったのは2020オリンピック・パラリンピックの延期だったという。

「オリンピック・パラリンピックの衣装関連系がなくなり、外に出ることが前提となっているイベントがなくなって打撃を受けている」。

しかし、チャンスも訪れた。新型コロナによってアパレル、小売産業が大きな打撃を受け、百貨店からの撤退が進んだのだ。

「僕たちのようなベンチャーにもお声がかかるようになった。逆に交渉がしやすいという形になっており、このタイミングで攻めて伸びようと考えている。逆にアフターコロナでもこれがスタンダードになるようにしたい」と松田氏は意気込む。

ファーメンテーションも攻めに転じているという。追加で事業を増やそうと考えているという。

「岩手に行ったりできない中で、今まで岩手の工場は原料を作ることに専念していたが、これから製品を作って行こうと考えている。製品を作ることでお客さんのニーズに応えられるようになったり、最初から最後まで経験することで経験値がとても上がる」と意欲まんまんだ。

 

■ インクルーシブを進めるためにすべきこと

最後に酒井氏と鮫島氏が、これからどのような人をまきこんでいきたいか聞いた。

酒井氏は、自分たちの取り組みに共感してくれる人を巻き込みたい、と意欲を語った。

「アルコール、エタノールは公衆衛生に貢献できる。今は除菌ウェットティッシュの開発を進めている。こうした商品が売れるようになれば、今ゴミのものがゴミじゃなくなる。そういう取り組みをどんどんしていきたい。欲しいのは一緒に市場を作ってくれてこういった取り組みに共感してくれる方だ」。

鮫島氏は、エシカルビジネスを加速させたい、と述べた。

「コロナの中で、エゴイズムな人も増えているのではないか。これから資源も枯渇してきている中で生き残れない。奪い合うのではなく、シェアする時代にしていかなくてはいけないと今改めて再認識している。この二極化が垣間見える中でエシカルを加速させていきたいと考えている」。

今まで一般消費者にアプローチしてきたが、今後は、大企業など影響力のあるところと何か一緒にできるようなことを考えていきたい、と鮫島氏は語った。

扱う商品やサービスは違えど、インクルージョンを意識して事業展開している点は共通している4社。新型コロナ禍の中、新たな事業の方向性も見えてきたようだ。私達消費者も購買行動を考える時期に来ていることを気づかされた。

(了)

トップ写真:それぞれの会社で販売されいている製品を持っての集合写真。イベントはソーシャルディスタンスを保ち、マウスシールドをつけて行われた。 写真提供:andu amet