尾崎章彦(常磐病院乳腺外科、医療ガバナンス研究所)

【まとめ】

・40代女性のマンモグラフィー、乳がん見つかりにくく最終的に乳がんでないケース多い。

・追加検査し乳がん発見されても、死亡率減少に結びつくか不明確。

・マンモグラフィーを補う技術のニーズは確実に存在。

 

2019年も、ネットニュースや新聞を眺めていると、乳がんと新たに診断された芸能人の名前をちらほらと見かけた。室井佑月さんや長山洋子さんなど誰もがメディアで一度は目にしたことがあるような方々である。

現在、日本女性の11人に1人が生涯のうちに乳がんになると報告されている。実際、2014年に乳がんと診断された女性は78,529人と、女性におけるがんの罹患率のランキングにおいては、近年、不動の1位である(1)。その点を考慮すると、芸能界において毎年新たに乳がんと診断されている方々がいることも納得できる。

これほどまでに日本において乳がんの診断が増えた理由が2000年から自治体検診にマンモグラフィーが導入されたことだ。それ以降、無症状の早期癌の頻度は劇的に上昇しており、マンモグラフィーは期待された役割を果たしていると言える。

一方で、過去10年は、マンモグラフィーに対しての信頼が大きく揺らいだ期間でもあった。従来、例えば、米国においては、マンモグラフィーは、40歳以上の女性に対して毎年実施することが推奨されていた。しかし、2009年に、米国予防医学専門委員会は、従来の推奨を大きく見直し、過度なマンモグラフィーの実施に警鐘を鳴らすようになった(2)。

具体的には、50歳以上の女性に対しては、推奨されるマンモグラフィーの実施頻度を2年に1回と間隔を広げるとともに、40歳代の女性に対しては原則としてマンモグラフィーの定期的な実施は推奨しないという修正が行われた。

最大の理由は、40歳代の女性においてはマンモグラフィーによる死亡率減少効果が相対的に小さいことにある。例えば、60歳代の女性においては、10,000人が10年間マンモグラフィーを2年毎に実施することで21人の死亡が防げるのに対して、40歳代の女性においてはわずか3人の死亡しか防ぐことができなかったとされている(3)。

さらに、40歳代の女性においては、偽陽性(乳癌ではないにもかかわらずマンモグラフィーで異常が指摘されること)や不要な針生検の頻度が他の年代と比較して高いことが指摘されている。言い換えれば、40歳代女性のマンモグラフィーにおいては、絶対数として乳がんが見つかりにくい上に、異常が指摘された場合においても、最終的に乳がんでないケースが多いのである。

▲写真 マンモグラフィー検査機 出典:Pixabay by AlarconAudiovisua

ではなぜ40歳代の女性においてこのような現象が起きるのだろう。代表的な理由の一つが、この年代でデンスブレストを高頻度に認めることである。デンスブレストとは、白色に描出される乳腺実質を広範囲に認めるマンモグラフィー画像を指す。デンスブレストの乳房においては、乳がんが存在していたとしても、背景乳腺に隠れてしまうため、乳がんの検出率が下がるのである。また、正常な乳腺組織を乳がんと誤って認識するようなケースも増加する。40歳代の実に半分以上がデンスブレストと判断される状態にある(4)。デンスブレストの頻度は年齢とともに減少するが、50歳代、60歳代の女性においても、40%以上、30%以上がデンスブレストと判断されており、50歳以上の女性においても無縁ではない。

▲写真 マンモグラフィーで写し出されるデンスブレスト(高濃度乳腺)(左)と脂肪の多い乳房(右)。出典:National Institutes of Health

現在、マンモグラフィーによる乳がん検診において、検査異常の有無と合わせて、デンスブレストの有無について対象者に伝える仕組みを多くの国が採用している。そして、実臨床レベルにおいては、乳房超音波検査や造影MRI検査を追加で実施するのが一般的である。

しかし、異常はないがデンスブレストの存在を通知されたようなケースの対応は難しい。なぜならば、追加の検査を実施して乳がんが見つかるケースはかなり少数であるのに対して、偽陽性や不必要な生検を必要とするケースが高頻度で発生するからだ。現時点では取るべき対応についてコンセンサスが取れていない状態である。

そのような議論に一石を投じる論文が、2019年12月に、世界で最も権威がある医学雑誌である「ニューイングランド医学誌」に発表された(5)。この調査においては、2年毎にマンモグラフィーを実施している50〜74歳の女性のうち、特に異常はないがデンスブレストを指摘されたような方々を、追加で造影MRI検査に実施する群と実施しない群にランダムに割付した。その結果、造影MRI検査を実施した群においては、2年後の検診までの期間に指摘される乳がん(中間期乳がんという)の頻度がおよそ半分に減少した。一方で、新たに造影MRI検査で指摘された異常に対して実施された生検のうち74%が偽陽性(がんの診断には結びつかなかった)だった。

日本においては、同様のケースに対して、造影MRIの代わりに乳房超音波検査が選択されることも多い。しかし、乳房超音波検査においては、造影MRIに比較して、追加の乳がんの検出能が低く、一方で、偽陽性が多いという意見が趨勢を占めている(6)。

私に関して言えば、同様(異常はないがデンスブレスト)のケースに外来で出くわしたとしたら、まずは、造影MRIに比較して、体の負担が少ない乳房超音波検査を実施する。すると大部分のケースにおいては何らかの異常が指摘される。そのため、積極的に乳がんを疑っていなくても、追加で針生検を実施するか、半年後などに再度乳房超音波検査を実施することが増えてしまう。このような対応は見逃しを防ぐ上で必要とは考えているが、外来診療を圧迫しているのも事実であり、頭を悩ませている。

そして、最大の問題は、造影MRI検査なり乳房超音波検査なり追加の検査を実施して乳がんが発見された場合に、それが死亡率減少に結びつくかがはっきりしないことである。単純MRI(7)や自動超音波画像診断装置などによる乳がん検診、さらに、リキッドバイオプシーのように血液検査で乳がんを検出する技術も昨今開発されているが、やはり同様の問題を抱えている。

いずれにしても、新旧かかわらず、ここに挙げたような技術が、死亡率減少に結びつくか判断するためには十分な観察期間が必要であり、今後早い時期に結果が明らかになることはないだろう。

ではどうしたらいいか。ここで念頭におくべきは、乳がん検診は究極的には予防医学であり、保険医療の範疇を超えていることだ。そのため、マンモグラフィーを基本としつつも、それを超える検査については、対象者個人が納得して費用を払い、検査を受けている限りは、エビデンスが乏しいとしても、外野が横槍を入れる必要は必ずしもないように思う。

そして、医療者としては、そのような対象者の意思決定をサポートするために、一人ひとりにそれぞれの検査のメリットとデメリット、わかっていることとわかっていないことをファクトベースで丁寧に説明していくことが主たる役割になるだろう。

筆者の私見では、マンモグラフィーを補う技術に対してのニーズは確実に存在していると考えている。そして、今後そのような技術の存在感は高まっていくと予想している。そのような変化の萌芽が現れることを期待しながら、2020年を過ごしてみたい。

 

-引用文献-

(1)国立がん研究センター. 最新がん統計. 2019. https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html.(アクセス日時:2019年11月28日).

(2)U.S. Preventive Services Task Force. Breast Cancer: Screening. 2016. https://www.uspreventiveservicestaskforce.org/Page/Document/UpdateSummaryFinal/breast-cancer-screening. (アクセス日時:2019年11月28日).

(3)Nelson et al. Effectiveness of Breast Cancer Screening: Systematic Review and Meta-analysis to Update the 2009 U.S. Preventive Services Task Force Recommendation. Annals of Internal Medicine. 2016.

(4)Sprague et al. Prevalence of Mammographically Dense Breasts in the United States. Journal of the National Cancer Institute. 2014.

(5)Bakker et al. Supplemental MRI Screening for Women with Extremely Dense Breast Tissue. New England Journal of Medicine. 2019.

(6)Lee et al. Performance of Screening Ultrasonography as an Adjunct to Screening Mammography in Women Across the Spectrum of Breast Cancer Risk. 2019.

(7)Kwee et al. Diffusion-weighted whole-body imaging with background body signal suppression (DWIBS): features and potential applications in oncology. 2008.

トップ写真:ピンクリボン 出典:Pixabay by marijana1