古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・劉暁波氏の死で中国の非人道的措置に対し、米で一斉に非難の声。

・中国は膨張主義により国際秩序を崩そうとしていると米メディア指摘。

・日中関係を考える上で重要な指針となろう。

ノーベル平和賞を受賞した中国の民主活動家、劉暁波氏の痛ましい死がアメリカの官民を激しく揺さぶった。中国政府の非人道的な措置を一様に非難する広範で激烈な反応だった。

民主主義を主張しただけの人間を懲役11年の刑に処し、獄中での彼の病気の悪化を無視し、外国での治療を求めた彼の最後の願いをも拒否するという中国共産党政権の措置は、人間の尊厳の基本を踏みにじったといえよう。アメリカでの反応もまずその部分への鋭い非難だった。

だがアメリカでの論調ではそうした人道主義のレベルでの非難を越えて、今回の出来事こそ中国という国家の国際的な危険性、無法性を実証するのだ、というグローバルな視点からの警告も目立つ点が顕著だった。

わが日本にとってもこの種の国際的な視点からの中国への再考こそ重要だろう。

最近の中国はグローバル・パワーとしての拡大が顕著である。習近平国家主席の主導の下に「中国の夢」「平和的発展」に始まり、「一帯一路」とか「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」など、壮大に響く標語での国際構想を打ち上げている。日本でも中国のこの構想に加わるべきだという意見もある。

だがたとえ「国際協調」「グローバル化」という概念の下に中国に寄り添うという道を選ぶにしても、この新グローバル・パワーともみえる中華人民共和国という国がどんな本質なのかを知ることが欠かせまい。その本質を明示したのが今回の劉暁波氏の死なのである。

こうした点に焦点を合わせたアメリカ側での論評の一つを紹介しよう。アメリカの大手紙のウォールストリート・ジャーナルが7月13日付社説で打ち出した意見である。

同社説は「中国のノーベル賞での空席」という見出しだった。劉氏が2010年にノーベル平和賞の受賞者となったとき、本人は中国の刑務所にいて、その受賞式には出られなかった。もちろん中国政府が禁止したからだ。

同社説はその点にまず触れて「空席」という言葉を使ったわけだ。そのうえで「ノーベル平和賞の受賞者のうち獄死したのは劉暁波氏以外にはただ1人、ドイツのカール・フォン・オシェツキー氏だけだった」と強調していた。

オシェツキー氏はナチス・ドイツに迫害された言論人で、1935年にノーベル平和賞の受賞者となった。だが彼は当時のドイツ政府の政策に反対を表明して、国家反逆罪などで強制収容所にすでに入れられていた。受賞式には出席できず、その3年後の1938年には肺炎が原因となって獄中で死亡した。

ウォールストリート・ジャーナル社説はそうした人物の実例をあげることで、いまの中華人民共和国がナチス・ドイツにも似ていることを示唆しているのだった。

さてその社説には以下の骨子の記述があった。

・劉暁波氏の死は全世界にとって中国政府の人権弾圧に注意を向けていかねばならない責務があることの警鐘である。中国はいまや自国の政治を改革することなく、対外的に膨張する経済力と軍事的な威力によって、自国の専制独裁的な政治モデルを広げようとしているのだ。

・国際社会はいま中国政府に対して劉氏と同じ自由への闘争をしたことで拘束された中国人の人権弁護士たちを解放させるように圧力をかけねばならない。そうした圧力は中国の一般国民の利益にかなう。そしてその圧力は同時に中国の非民主的な政権がいま覆そうとしている規則に基づく民主的な国際秩序をも利するのである。

以上は同社説の一部だが、今回の悲劇が単に人間的、人道主義的な問題だけではなく、国際秩序のあり方というところにまで広がる広範で普遍の警告でもあることを強調しているわけだ。中国は対外的な膨張によって、民主主義や法の支配に基づく既存の国際秩序を崩そうとしている、という指摘なのである。

このような指摘は日本にとっても中国との二国間関係のあり方、そして国際関係での中国とのつきあい方を考えるうえでも重要な指針となるだろう。中国というのがどんな国家なのか、という指針である。

*トップ画像:2013年1月香港における劉暁波氏釈放を訴えるデモ