宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#9」

2021年3月1-7日 

【まとめ】

・バイデン大統領、シリアの親イラン勢力が使うインフラへの空爆了承。

・米政権、ジャーナリスト殺害作戦をサウジ皇太子が「承認」していたとの報告書公表。

・米、イランとの対話を模索の可能性。

 

先週は突っ込み所満載の一週間だった。2月25日、バイデン大統領はシリア国内の親イラン勢力が使うインフラに対する空爆を了承した。バイデン政権では初の軍事行動だ。

また、翌26日にはDNI(米国家情報長官)室が、2018年10月在イスタンブール・サウジ総領事館内でに起きたサウジ人ジャーナリスト殺害作戦をサウジ皇太子が「承認」していたとする報告書を公表した。更に、25-26日にオマーン湾ではイスラエルの貨物船が何者かに攻撃されている。中東では一体何が起きているのか。

これら3つの事件が無関係とは言い切れない。むしろより大きな一連の動きの一局面かもしれない。どういうことか。先ずは関連事件を時系列順に振り返ってほしい。共通するキーワードは「米国とイランの対話の可能性」だ。これらが如何に相互関連するのか。詳しくは今週の産経新聞コラムに書いたので、是非ともご一読願いたい。

-2020年-

 11月03日 バイデン大統領候補の勝利

 11月25日 イラン大統領、「状況がトランプ政権以前に戻れば解決は容易」と発言

 11月27日 テヘラン市近郊でイラン核開発の中心人物が何者かに暗殺される

 12月02日  イラン国会、ウラン濃縮活動の即時拡大などを求める法律を可決

-2021年-

 1月20日 バイデン政権発足

 1月27日 イスラエル軍参謀総長、「イラン核合意への復帰は誤り」と発言

 2月05日 バイデン政権、イランが支援する「フーシー派」の「テロ組織」指定を撤回

 2月15日 イラク・クルド自治区の米軍基地に親イラン勢力がロケット弾攻撃

 2月24日 イラン、IAEAの「追加議定書」の暫定履行を停止すると発表

 2月25日 米国、シリア東部でイランが支援する武装グループに対し爆撃を実施

 2月26日未明 オマーン湾でイスラエル企業所有の貨物船が攻撃を受ける

 2月26日 米情報機関、3年前のサウジ人ジャーナリスト殺害作戦をサウジ皇太子が「承認した」とする報告書を公表

▲写真 イラン ロウハニ大統領 カザフスタンのアクタウで開催されたカスピアンサミットにて(2018年8月12日) 出典:Mikhail Svetlov/Getty Images

もう一つ、筆者が驚いた事件がある。2月23日の米国防総省記者会見で何と同省報道官が、「尖閣の主権は日本にある」と明言したのだ。具体的には、「我々が国際社会とともに尖閣の主権について日本を支持していることは明らかである」と述べた。

(obviously we hold with the international community about the Senkakus and the sovereignty of the Senkakus and we support Japan obviously in that sovereignty )

これには中国側が猛反発した筈だ。これまで米国は尖閣が日本の施政権下にあるとは述べていたが、尖閣に対する「主権が日本にある」とは決して言わなかった。今の国防総省報道官はジョン・カービー退役海軍少将だが、彼は海軍の広報専門家で、その後民主党政権下でも国務省、国防総省の報道官を務めたベテラン報道官だ。

▲写真 ジョン・カービー国防総省報道官(2015年1月9日) 出典:Mark Wilson/Getty Images

トランプ政権時代はCNNでコメンテーターまでやっていたが、それにしてはお粗末な発言である。「施政権」と「主権」の違いぐらい理解しろよと言いたいところだが、逆に言えば、今の国防総省では尖閣は「限りなく日本の主権下にある」という認識なのだろう。ポロっと本音が出たと考えれば、当たらずとも遠からずではなかろうか。

このカービーさん、26日の記者会見では「尖閣諸島の主権に関する米国の政策に変更はない(すなわち、否定も肯定もしない曖昧戦略は変わらない)」という、実にみっともない訂正発言を行っている。関連部分を全文以下にご紹介しよう。アメリカ式の「訂正謝罪」記者会見の典型例だと思って、じっくりお読みいただきたい。

And finally, I need to correct something that I said during the Tuesday press gaggle. There is no change to U.S. policy regarding the sovereignty of the Senkaku Islands. As President Biden underscored in his call with Prime Minister Suga, Secretary Blinken reaffirmed in his call with Foreign Minister Motegi, and Secretary Austin further reaffirmed in his call with Defense Minister Kishi, the United States is unwavering in its commitment to the defense of Japan under Article 5 of our security treaty, which includes the Senkaku Islands. The United States opposes any unilateral action that seeks to change the status quo. For further discussion on U.S. policy, I would of course refer you to our colleagues at the State Department but I do regret my error the other day. That was on me and I apologize for any confusion that that caused.

▲写真 尖閣諸島 魚釣島 出典:© National Land Image Information (Color Aerial Photographs), Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism

〇アジア  

先週末、香港当局が香港国家安全維持法の国家政権転覆罪容疑で民主活動家たちの大量起訴に踏み切ったという。北京は香港民主派勢力を本気で潰す気なのだろう。起訴後の保釈は困難で、有罪になれば10年以上の禁錮刑もあり得る。香港の自由がたった一年でなくなるなんて、10年前に一体誰が予想しただろうか。

〇欧州・ロシア  

ロシア反体制派のナワリヌイ氏が悪名高い刑務所に移送された。執行猶予が破棄され、約2年6月の実刑となった。バイデン政権のプーチン批判は増々厳しくなるだろう。プーチン氏はこの移送で危機を乗り切れると思っているのか。とでも言いたいところだが、恐らく今回も、これで乗り切ってしまうのだろう。これがロシアである。

〇中東  

先週末リヤド上空でイエメンの親イラン勢力の弾道ミサイル1発が迎撃され、南部の複数の地域でも爆発物を積んだ無人機6機が破壊されたという。イエメンに大規模軍事介入したサウジ皇太子だが、米国からも批判され今は四面楚歌だ。彼は成長し今後一皮剥けるのか、それとも暴君を続けるのか。これに王国の将来が懸かっている。

〇南北アメリカ  

先週末トランプ前米大統領がフロリダ州で保守系CPACのイベントに大統領選後初めて登場、バイデン大統領を批判するとともに、2024年の米大統領選に出馬する可能性を示唆した。新党結成には言及しなかったが、それは共和党を乗っ取り続けるつもり、ということを意味する。共和党の既存エリート層はこれにどう反撃するのか。

〇インド亜大陸  

インドが国内でサービスを提供するソーシャルメディア、ストリーミングサービス、デジタルニュースアウトレットなどを規制するための抜本的新ルールを発表したため、Facebook、Twitter、Google、Netflixなどの外国の巨大企業は戦々恐々だという。「これでは中国と同じではないか、インドは民主主義ではなかったのか」という批判にインドはどう応えるのか。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:バイデン米大統領(2021年2月22日) 出典:Alex Wong/Getty Images