嶌信彦(ジャーナリスト)

「嶌信彦の鳥・虫・歴史の目」

【まとめ】

・トランプ前大統領の「アメリカ第一主義」により米は世界の指導的地位失った。

・バイデン大統領は外交、安全保障、経済、国内政策をかつての国際協調主義に戻す方針。

・国際協調路線定着のため、バイデン任せでなく日本として発信の要有り。

 

アメリカのバイデン新大統領(78)が就任してから二ヵ月になる。トランプ前大統領は、アメリカの利益を最優先する“アメリカ第一主義”を掲げ、国際条約や国際機関からの一方的な脱退を宣言した。その結果、アメリカ社会の内側や国際社会との分断が進みアメリカは孤立していった。気候温暖化問題やコロナ対策にも消極的で、アメリカは世界の指導的地位を失ってしまった。

バイデン大統領は、そんなトランプ主義との決別を約束し「アメリカはまた戻ってきた。品位を回復し民主主義を守る」とし、分断ではなく結束を目指す大統領になると誓った。

大統領の勝利演説では「私たちは新型コロナ対策から仕事を始める。このウイルスを封じ込めない限り経済も生活も取り戻すことはできない。コロナ対策を実行に移すため、科学者や専門家と共に科学的見地を踏まえた思いやりと共感、配慮のある対策を実行し努力や関与を惜しまない」と約束した。

また、屋台骨である中間層を立て直し米国が世界で再び尊敬されるようにしたいと述べ、人種や老若男女、思想に拘らず、あらゆる人々が社会に参加する多様性に富んだ国を作ろうと呼びかけた。このため副大統領に米国史上初めて黒人女性のカマラ・ハリス氏(56)を選んだ。

▲写真 アイルランド首相とヴァーチャル二国間会議を行う、米副大統領のカマラ・ハリス氏 出典:Alex Wong/Getty Images

バイデン氏は北東部の工場労働者が多く暮らすペンシルバニア州の小さな街に生まれ、アイルランド系カトリックの中流家庭で育った。父親は中古車販売店のセールスマンだった。1969年に大学院を出て弁護士となり1972年に民主党から上院議員として初当選。以来6期36年務め、司法委員長、外交委員長などとなり、09〜17年までオバマ政権の副大統領だった。家庭的には二度の結婚をし、4人の子供がいたが最初の妻と長女を交通事故で亡くし、長男(46)を脳腫瘍で失っている。

バイデン大統領は、アメリカの外交、安全保障、経済、国内政策などをトランプ時代から大きく変えることを表明している。トランプ氏が一方的に脱退した地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」や世界保健機構(WHO)に復帰するほか、トランプ政権が離脱したイランとの国際的核合意に復帰する。

また核軍縮で期限切れから失効が危ぶまれていたロシアとの間の「新戦略兵器削減条約(新START)」についても延長を表明している。さらに、同盟国との関係を重視し国際協調路線に戻ることを宣言した。特に同盟国との関係、役割分担を重視し、日本はアジア政策でカギとなる最重要国だと強調している。ただ、防衛負担の増大を求める要求は続くとみられる。

対中国政策については、軍事的に競い合う「競争国」であるが、トランプ時代のような制裁関税の報復合戦には反対の姿勢を示し、経済、貿易でも重要な「競争相手」と指摘している。

移民やコロナ対策としてのマスク着用にも柔軟な態度をとるとみられ、アメリカは極端なトランプ主義からかつてのアメリカの国際協調主義に戻るとみられる。ただ、アメリカにはトランプ主義を支持する勢力が7千万人以上いるとされ、今後もトランプ主義との決別には多大な努力を必要としそうだ。国際協調路線を定着させるためには、バイデン氏のリーダーシップに任せるだけでなく国際的な支援も必要だ。日本も他人事とみるべきでなく日本の考えを発信していくことが必要だろう。

トップ画像:コロナウイルスに対するワクチン投与についてマスクを片手に方針説明するバイデン大統領 出典:Drew Angerer/Getty Images