古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」



【まとめ】
・米メディアの人種報道に偏向有り。日・報道機関にも反映されている。
・米民主党系リベラルメディア「白人は加害者、黒人は被害者」の対立構図描く。
・米社会・政治を考察する際、偏向報道の可能性に注意が必要。

 

アメリカのニュースメディアが人種のからむ報道では奇妙なゆがみをますます激しく示すようになった。同じような犯罪事件の報道でも容疑者が白人か、黒人かで異なる姿勢をみせるのだ。白人の場合、その人種を強調して、犯罪自体に人種偏見がからむとする非難を述べる一方、黒人だと、その人種ファクターにはほとんど触れないという二重基準である。このゆがみはアメリカのニュースを転電する日本の主要報道機関にも反映されるようになった。

最近の実例を伝えよう。

4月2日、アメリカの首都ワシントンの連邦議会議事堂構内に1台の自動車がバリケードを打ち破って突入した。1人の男が運転する車は暴走して、警備側をもはね、警官のうち1人が死亡、1人が負傷した。容疑者も警官に射殺された。

(写真)暴走した自動車と事件の為一時的に閉鎖された連邦会議議事堂
(出典)Drew Angerer/Getty Images

 

この事件は日本でもすべての主要報道機関が報道した。日本の新聞もテレビも4月3日とか4日に「米議事堂検問に車突入」(読売新聞)というような見出しでアメリカからの情報を伝えた。ところが私がみた限り、日本での報道ではこの容疑者の人種についてはどこもなにも報じていなかった。

アメリカでのこの種の殺傷事件ではその犯人が白人か否かで報道の姿勢が大きく変わってくる。白人であれば、その「白人」という要素を大きく拡大して、その背後には黒人などへの偏見や差別が動機として広がっているだろう、という観測が常に述べられるといえる。

ここで注釈を記しておこう。

それは「黒人」、つまり「Black」という用語は当事国のアメリカでは決して差別言葉ではないという現実である。国勢調査での人種の区分でも「黒人」という言葉は公式用語となっている。日本では黒人を「アフリカ系アメリカ人」と呼ばなければ差別や侮蔑になると主張する識者もいるようだが、決してそんなことはない。黒人の初の大統領となったバラク・オバマ氏も自分の人種を描写するのに、ごくふつうに「黒人」という言葉を使っていた。

さて議事堂突入事件の犯人はインディアナ州出身のノア・グリーンという25歳の男だと判明した。グリーンは黒人だった。しかも黒人過激派イスラム系組織「ネーション・オブ・イスラム」の1員だった。この組織はときには暴力をも扇動する黒人活動家のルイス・ファラカンに指揮されていた。グリーンもその熱烈な信奉者だったことが明らかにされた。ただしグリーンには精神障害や情緒不安定の経歴があった。

この事件について民主党系リベラル派のワシントン・ポスト、ニューヨーク・タイムズ、CBSテレビ、CNNテレビなどはいずれも、犯人の人種にはほとんど触れなかった。「ほとんど」というのはその報道をふつうに読んでいても、犯人の人種に触れる部分はなかなか出てこない、という意味である。ほんの小さく、ごく簡単に触れる程度、報道によってはまったく言及のない実例もあった。

だからふつうにこの事件の報道を読んだり、聞いたりすると、犯人の人種的背景はなにも指摘がない、という感じで終わってしまうのだった。そうした論調の報道のメディアが圧倒的多数だった。

しかし少数派のニューヨーク・ポスト、FOXテレビという保守系のメディアでは犯人の人種や黒人過激団体へのかかわりを明記していた。そのかかわりが今回の暴力行為の原因になったかもしれない可能性にも触れていた。

一方、民主党系リベラルのメディアはこの種の事件の犯人が白人だった場合、ましてその白人が白人至上主義ともみなされる過激派組織にほんの少しでも関与していた場合、その「人種ファクター」を大々的に取り上げるのが常である。その背景には「白人は加害者、黒人は被害者」という人種対立の構図が描かれるのだ。

しかしアメリカの現実としては、白人が黒人を差別してきた歴史が長いという背景の下で、白人がなお黒人を攻撃するという傾向が消えない一方、黒人の側にも白人やアジア系という他の人種や民族に敵意を抱き、敵対的行動をとるという実例も多々、存在するのである。

だがニューヨーク・タイムズ的なリベラルのメディアはとにかく白人悪者説をにじませる。黒人の負や悪の行動には甘いのである。この傾向は政治的な意味をさらに発揮して共和党や保守派への攻撃につながっていく場合が多い。アメリカの政治構造では共和党や保守派は白人が多く、黒人が少ないという実態を反映しての、メディアの党派性偏向だともいえよう。

日本にとって危険なのはアメリカの民主党系メディアのこうした偏向を意識するにせよ、しないにせよ、その偏りをそのまま反映してしまう傾向である。その結果、現代のアメリカでは白人側に人種偏見が多く、黒人はその種の偏見はなく、とにかく犠牲者、被害者となっている、という構図が描かれる。

だが実際には白人の間でも人種差別に反対し、黒人の側でも人種偏見に走る傾向が存在するのだが、その実態は無視されがちとなる。こうした傾向は民主党リベラル派のバイデン政権下のアメリカではさらに一段と強くなっているようなのだ。

(写真)閣議で冒頭で記者団に挨拶するバイデン米大統領
(出典) Drew Angerer/Getty Images

アメリカの社会や政治を考察するときの注意点だといえよう。さらに具体的にはアメリカのニュースメディアの報道や評論を読むときの指針でもあろう。

 

***この記事は日本戦略研究フォーラムの古森義久氏の連載コラム「内外抗論」からの転載です。

(トップ画像)2021年4月2日に連邦議会議事堂構内で職務中に殺害された警察官に敬意を表し、米国議会議事堂で半旗が掲げられる様子。
(出典)Samuel Corum/Getty Images