山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・中国の対中南米公的融資は減少も、新型コロナで結びつき強まるとの見方。

・中国の外交最優先国はアルゼンチン、中国側巨額支援実施か。

・対中外交の加速化はアルゼンチンの国益を損なうとの懸念も。

 

■中国国営銀行の中南米向け融資がゼロに

米国の中南米専門シンクタンク「インターアメリカン・ダイアログ(IAD)」が最近公表した報告書によると、中国の国営銀行である中国国家開発銀行と輸出入銀行による中南米の政府および企業向けの新たな融資は2020年には実施されなかったという。

邦銀などの推計によれば、中国の中南米への公的融資は2010年がピークで350億ドル超に達したが、その後は総じて大幅減少傾向にあるとされている。IADのアナリストは、コロナ禍で多くの中南米諸国のインフラ開発への関心が低下したことが、中国の公的銀行による新規融資停止の背景にあると指摘している。また、中国国営銀行の最大の中南米融資先であるベネズエラが経済破綻で返済がとどこっていることも新規融資停止の理由の一つとみられる。

もっとも、中国からの融資が全くなくなったわけではない。中国は、中国・中南米カリブ協力基金(CLAC)や中国・中南米カリブ産業協力投資基金(CLAI)を通じ、相変わらず中南米向けに資金を提供しているようだ。

■“ワクチン外交”を積極展開

むしろ、新型コロナ禍で中国と中南米の結び付きが一層強まったとの見方もある。中国は昨年来、中南米諸国を対象に“ワクチン外交”を積極的に展開したほか、これら諸国のワクチン購入のため10億ドルの融資を行う方針を表明している。

アルゼンチン、ブラジル、ペルー、チリなどでは中国が経済回復するにつれ、貿易取引が再び活発になっている。今後の中国と中南米の経済関係に関しては「貿易面では引き続き緊密になろうが、融資や投資については中国は以前より一段と慎重になり、戦略的に価値のある国やプロジェクトを選別し、重点的に行うようになるだろう」(前述IADのアナリスト)との予測が中南米専門家の間で有力だ。

■アルゼンチンとの二国間協力は加速化

こうした中国の対中南米経済外交の最優先国とみられるのはアルゼンチンである。

▲写真 アルゼンチン、フェルナンデス大統領 出典:Juan Mabromata - Pool/Getty Images

アルゼンチンのフェルナンデス現政権は2019年発足以来、中国との経済関係を重視。フェルナンデス大統領は習近平国家主席としばしば電話会談や親書交換を通じて「包括的な戦略的パートナーシップの深化」(アルゼンチン外務省)を目指し、さまざまな分野での二国間協力の促進について協議してきた。昨年春以降、アルゼンチンは新型コロナ対策で中国から大型支援を受けたのに続き、9月に中国人民銀行との間で新たな通貨スワップ協定を締結、10月末にはアルゼンチン国会がアジアインフラ投資銀行(AIIB)加盟法案を可決した。さらに昨年12月には、アルゼンチンの鉄道建設・整備プリジェクトに対し中国が総額47億ドルの資金協力を行う協定が結ばれた。今年に入ってから両国の経済関係は一段と加速化している。リチウムイオン電池と電気自動車製造に関するアルゼンチン政府と中国企業との合意、中国企業によるアルゼンチンの鉱山会社買収も相次いで発表された。アルゼンチン・サンタクルス州での水力発電所建設を含めエネルギー・インフラ分野での中国の協力も進んでいるもようだ。

■「一帯一路」参加表明か

フェルナンデス大統領は5月に訪中し、習近平国家主席らと会談する予定である。中国側はその際、アルゼンチンで4番目の原発建設への資金援助など計15件、総額300億ドルの投資計画を提案するとの情報が流れている。ブエノスアイレスの有力メディアの間では、大統領の中国訪問中にアルゼンチンが「一帯一路」構想への参加を正式表明するとの情報が飛び交っている。

アルゼンチンは国際通貨基金(IMF)との総額450億ドルの債務再編交渉という大きな課題を抱えバイデン米政権の支援に大きな期待を寄せている中、「対中外交の加速化はアルゼンチンの国益を損なう」(ブエノスアイレスの有力紙「ナシオン」)として懸念する声も上がっている。

(了)

トップ写真:記念式典に出席する習近平国家主席 出典:Kevin Frayer/Getty Images