宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2021#19」

2021年5月10-16日 

【まとめ】

・フィリピン大統領・外相の問題発言相次ぐ。

・大統領、中国への厳しい姿勢を見せる一方で発言への謝罪も。

・米国、中国の対応とともにフィリピン外交への注目集まる。

 

またフィリピン大統領の問題発言が飛び出した。5月5日、ドゥテルテ大統領は南シナ海問題でフィリピンの主張を認めた国際仲裁裁判所の判断を「ゴミ箱行き紙屑」と呼んだそうだ。二日前にはロクシン外相が自己のツイッターで、「中国よ、出ていきやがれ」と野卑な英語で発信したばかり。フィリピン外交はどうなるのだろうか。

この外相発言、日本では「中国よ、消え失せやがれ」などと報じられているのだが・・。「細かいことを言うな」とお叱りを受けそうだが、この翻訳はちょっと違うよなぁ。英語では"China, my friend, how politely can I put it? Let me see… O…GET THE Fxxx OUT,"と言っている。これがフィリピン要人、特に外相の言葉とは到底思えないが・・・。
 
この発言、筆者なら、「友人である中国よ、どうすれば礼儀正しく言えるだろうか、さて、おおそうだ!出て行きやがれ、だ」と訳す。英語で「消え失せやがれ」と言うなら、もっと下品な表現があるが、さすがにそこまでは言っていない。でも、いずれにせよ、大統領も外相も、英語の表現力は語彙不足、実に乏しいと言わざるを得ない。

先月大統領は、「南シナ海での石油・鉱物資源の領有権を主張すべく軍艦派遣の用意がある」と述べ、中国に対し厳しい姿勢を示していたのに。中国から圧力がかかったのだろうか。外相発言についても中国外交部に「基本的礼儀と身分に相応しい態度で話せ」と窘められ、謝罪している。おいおい、しっかりしてくれよ! フィリピン大統領の真意は何か?米国は、中国はどうするつもりだ?日本は何する?色々考えたが、この点は来週の産経新聞に書くつもりだ。

もう一つ今週筆者が注目したのが韓国大統領の演説だ。10日、文在寅大統領は任期5年目で演説し、南北融和については「不可逆的な平和へ進む最後の機会」だとして対話を呼びかけたという。

▲写真 任期5年目の演説をする文在寅韓国大統領 出典:South Korean Presidential Blue House via Getty Images

韓国中央日報によれば、同大統領の発言は:

 ●北朝鮮のさまざまな反応があったが、対話を拒否したとは考えない。北朝鮮ももう最後の判断の時間を持つだろう。

 ●3回の南北首脳会談、2回の米朝首脳会談から続かず対話が膠着した状態。対話の膠着が長引けば決して望ましくない。

 ●これまでは米国の新政権が発足し、また新政権がどのように対北朝鮮政策を確立するのかそれを待つ過程だった。米国が『戦略的忍耐』の政策に戻らないだろうか、北朝鮮を外交の優先順位に置かず、それで時間がかかるのではないかなど懸念があったのは事実だ。

 ●しかし、米国もやはりこの対話の断絶が長く続くことが望ましくはないという考えの下、(バイデン政権)発足初期から韓国政府と緊密に調整・協議しながら短い時間で対北朝鮮政策を確立した。

 ●米国の対北朝鮮政策の全貌はすべて明らかにはなっていないが、韓国政府が望む方向とほとんど合致すると言える。ひとまず韓半島(朝鮮半島)の完全な非核化を目標にし、また、シンガポール宣言の土台の上から出発し、外交的方法で漸進的・段階的、実用的に柔軟にアプローチするということだ。

 ●もう一度向き合って座り、協議できる機会が与えられただけに、北朝鮮がこれに呼応することを期待する。そして、そうした状況が作られるならば韓国政府は総力を尽くす計画だ。韓米首脳会談を通じて北朝鮮を対話の道にもっと早く出てこられるようにするためのさまざまな案に対し、さらに緊密に協議したいと思う。

一体この大統領は現実を見ているのだろうか。一方、日韓関係には一切言及していない。この人がいる限り、南北関係だけでなく、日韓も、米韓も進まないだろうな、と強く予感させる相変わらずの演説だったようだ。やれやれ、あと一年は何も動きそうにないなぁ。

〇アジア

ミャンマー軍事政権が民主派の「国家統一政府(NUG)」とその「国民防衛部隊(PDF)」などを「テロ組織」に指定。クーデター発生以降、民間人770人以上が犠牲になっているが、ガチンコの争いは長期化しそうだ。先日のASEANとのコンセンサスも進んでいない。この中でスーチー女史の影が薄くなりつつあるのが気になる。

〇欧州・ロシア

6日投票のスコットランド地方議会選で、予想通り、分離独立諸勢力が過半数を占めた。北アイルランドでもアイルランドとの統一論が勢いを増している。「連合王国」の結束は大丈夫なのか。英国が抜けてもEUは何とかなるが、英国が分裂すれば、その悪影響は単なる「離脱」にとどまらないだろう。

〇中東

サリバン米NSC補佐官がイスラエル首相安保顧問と電話会談し、エルサレムでパレスチナ人とイスラエル治安部隊の大規模な衝突が続いている状況に「深刻な懸念」を伝え、沈静化を促したそうだ。この事件の行方は、今後バイデン政権が中東和平問題をどの程度真剣に考えているかの試金石になる。でも、イスラエルは米国の言うことを聞かないだろうな。

〇南北アメリカ

バイデン政権がコロナワクチン企業の知的財産権の放棄を打ち出したが、独仏はこれに反対している。米国内でも多くの関係者は大統領がここまで言うとは思っていなかったらしい。これまで医薬品業界ロビーは強力だと言われてきたが、果たしてどうか。2009年のリーマンショックでは金融ロビーの化けの皮が剝がれた前例もある。

〇インド亜大陸

インドは首都圏外出禁止令を5月17日早朝まで延長。4月19日に発令後、今回は制限をより厳しくして地下鉄などの運行も停止するらしい。

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

トップ写真:フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領(左)と中国李克強氏(右)(北京 2019年8月30日) 出典:How Hwee Young-Pool/Getty Images