安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

Japan In-depth編集部

【まとめ】

・ヴィンセント・フィショ氏は7月21日、日本外国特派員協会が主催したオンラインで会見に出席した。

・親権をめぐる日本の問題は、法ではなくその適用にある。

・日本の司法システムが、子供の連れ去りを助長している。

 

ヴィンセント・フィショ氏は7月21日、日本外国特派員協会(FCCJ)にて行われた会見にオンラインで出席した。(「Press Conference: A hunger strike with diplomatic implications by Vincent Fichot(記者会見:ヴィンセント・フィショ氏による外交問題を提起するハンスト)」フィショ氏は、3年前、妻が2人の子どもを連れて家を出て以来会えていない。現在、子どもたちとの再会を求め、国立競技場近くの千駄ヶ谷駅(東京都・渋谷区JR東日本総武線)構内でハンガーストライキを行っている。7月21日は、その12日目。自身の健康状態に不安のある中、子どもの権利尊重を訴えた。(前記事:「日本の司法制度は子どもの権利を守ってくれない」ハンスト続けるヴィンセント・フィショ氏)

司会を務めカカリン・ニシムラ氏(仏「リベラシオン」と「ラジオ・フランス」の特派員)は、会見開催の意図を次のように説明した。「私たちがこの会見を設ける必要があると考えたのは、フィショ氏と同じ境遇にある人が多くいること、そして、フィショ氏が彼の子どもだけでなく同じ境遇にある多くの子どもたちの権利のために戦っていることを知っているからです」。

▲写真 カリン・ニシムラ氏(FCCJオンライン会見の模様を編集部が撮影)

共同司会を務めたピオ・デミリア氏(イタリア人ジャーナリスト)によれば、FCCJはこの会見を開催するにあたり、フィショ氏の妻の担当弁護士から手紙を受け取っている。手紙は、フィショ氏の妻の名誉を棄損しないこと、彼女に言及しないことを求める内容だという。

これに対してフィショ氏は、「私は、妻を貶めるためにここにいるのではありません。日本の全ての国家機関、警察、司法、政府によって侵害されている、私の子どもたちの利益を守るためにここにいるのです」と述べた。

フィショ氏は、続けて自身の現状を説明した。

「私がハンストを行うのは、日本で行いうる全ての法的行為を試しても、日本にはこの状況を変える気がないと分かったからです」

「私は、EUや、欧州議会、2019年にはマクロン大統領にも、訴えを持っていきました。しかし3年間の後に、日本での子どもの誘拐を訴える私の試みは全て退けられました」

「私はフランス政府に圧力をかけることにしました。私の子どもたちはフランス国籍も持っていて、居所に関わらず、保護や人権保障はフランス政府にかかっています。私はハンストを通して、この非難すべき状況をフランス政府に理解してもらいたい。そして日本当局に対して、人権侵害を改善し、子どもたちを東京の家に返し、二度と同じことがないよう約束するように求めてほしい。日本が断った場合には、国際法の侵害として、フランス政府が強い制裁を科すと信じています」

▲写真 ピオ・デミリア氏(FCCJオンライン会見の模様を編集部が撮影)

フィショ氏は、日本が自発的に制度改革をする可能性はほとんどないと見ている。

「政府は、共同親権についての審議会を設立すると発表しましたが、これは彼らにとって初めての試みではなく、10年以上何の結果もないまま紛糾しています」

「私たちが必要なのは約束よりも結果です」

「自国領域内の自国民に会いたいという要求を3年間も無視し続けてきた政府が、明日になったら約束を守るようになるとは期待していません」

また、日本の親権制度については、次のように述べた。

「単独親権は問題ですが、最大の問題は司法にあると考えます。裁判官は法を重んじていません」

2011年の民法改正を例に挙げ、さらに訴えた。2011年の民法改正は、児童虐待から子どもを守ることを目的とし、親権が子どもの利益のために行われることを初めて明記した。(参考:「児童虐待から子どもを守るための民法の「親権制限制度」」政府広報オンライン)

「2011年に改正された民法では、親権を獲得するために子どもを誘拐するような凶悪な犯罪を犯す親には親権を与えず、子どもの成長と両親との健全な関係構築のために友好的な計画を提示する親に親権を与えるという点が、改正の原則であり、改善点でした。しかしこれは日本の裁判所では一切顧みられませんでした。問題は法自体にあるのではなく、その適用にあるのです」

さらにフィショ氏は、ハンストの現場を訪れた自身の支持者について言及し、日本政府を批判した。

「7月10日以来、フランス人だけでなく多くの人がたずねてくれました。支持者や、子ども誘拐の被害者たち、それも親だけでなく子の立場の人々もいました。12日の間、先進国で起こっていることと思えないような話を聞きました」

「全ての証言は問題の重大さを示しています。法務省や外務省は、国会議員の質問を受けるといつも『個々の場合に応じて』というけれど、もし彼らが私と一緒にここで12日間座っていれば、これが「個々」の問題でなく組織的な問題だとわかるでしょう。私の事例は特別ではなく、日本人・外国人・母親・父親あらゆる人に起こることです。最終的には子どもたちがこの犯罪・人権侵害に立ち向かうことになるのです」

▲写真 フィショ氏に取材する外国メディアや支援者ら(2021年7月17日) ⒸJapan In-depth編集部

子ども誘拐の被害者が父親である場合と、母親である場合の違いについての質問に対しては、次のように述べた。

「区別なく誰にでも起こります。しかし、父親が「妻が子どもを連れ去った」と言えば初期反応は「きっとそうするだけの正当な理由があったんだろう」というもので、突然DVや会話の中のことが持ち上がる。一方母親が暴力をふるった可能性となれば、すぐさま決めつけられることはないようです」

「被害者には、母親が多いように感じます。そしてその大きな理由は競争にあると思います。父親は、母親が子どもを連れ去ってしまえばもう二度と子どもに会えないと知っているので、より早く子どもを連れ去って親権を確保することを考えるでしょう。システムが、このドラスティックな行為を助長しているのです」

「私が子どもたちを取り戻したい理由は、日本が私の子どもたちの権利を守ってくれないことが現在明らかだからです。彼らの権利を尊重するために私ができる唯一のことは、私が彼らと共に東京の家に戻り、彼らの利益と両親との健全な関係を保障することです。私は、子どもたちと妻との関係がどうあるべきか決めようとはしていない。彼らが自分で決められる年になるまで、健全な関係を支えようとしているだけです」

マクロン大統領への直訴の実現可能性については、「50−50(五分五分)」と予想した。そのうえで、「約束よりも結果」を求める姿勢を強調した。

「ハンストの目的はマクロン大統領に会うことではありません」

「もし握手をして『最大限努力する』と言うだけなら、私は既に2年前に聞きましたし、それで私の子どもたちの境遇が改善されることはありませんでした」

妻に対して伝えたいメッセージを問われると、フィショ氏は「ありません」と否定した。「ここでの私の戦いは、私の子どもたちを保護すべき日本当局との戦いなのです」。

「短期的にはどんな結果になろうとも、日本当局による子どもの権利侵害を止めることは、過去のすべての抗議行動の結果だと言えるでしょう。過去20年もの間、メディアがこの問題を議論し、政府が目を向ける水準には達していませんでした。私以前に行動を起こした人全てに感謝しています」。

会見に質問を寄せたメディアは、Reutersなど外国メディア、フリージャーナリストが中心。会場で質問した日本のマス・メディアは読売新聞一社のみだった。

マクロン大統領は、23日に東京五輪開会式出席の為に来日する予定だが、フィショ氏と面会するかどうかはまだわからない。マクロン大統領が菅首相と面会した時に「子どもの連れ去り」問題について提起するかも未定だ。開会式まで後2日。東京は連日最高気温30度超の猛暑だ。フィショ氏の健康が懸念される。

 

【ヴィンセント・フィショ氏 FCCJ会見動画】

 https://youtu.be/jithMFYFJfA

【以下追記:2021年7月22日21時】

Japan In-depthはフランス大使館に対し、フィショ氏の問題に関する見解を独自に問い合わせた。

会見と同日(7月21日)、フランス大使館より公式のコメントが得られた。内容は、以下の通り。

「Fichot氏の状況はこの大使館でも約3年前から注意深く追っており、私たちはこの家族の状況について日本の当局(外務、司法、警察)に繰り返し注意喚起してきました。

Fichot氏の子どもたちの居場所については、これまで何の情報も一切提供されておらず、私たちの再三の働きかけにもかかわらず、Fichot氏が子どもたちに会える保証も、またこの大使館が領事訪問することを認められるということも、何の約束もとりつけられていません。

フランス当局は、最も高いレベルにおいても、またこの大使館においても、この件について引き続き注力し、また子どもの最善の利益のために解決策を見出す必要性について、日本当局に訴えかけ続けます。」

(了)

トップ写真:オンライン会見に臨むフィショ氏(FCCJオンライン会見の模様を編集部が撮影)©︎Japan In-depth編集部