なぜJDIを危機に陥れたアップルが、またもや変心して支援しようとしたのか?

 第1の理由は、JDIが瀕死の状態に追い込まれ、量産モデルのiPhone11の生産に支障をきたすことを避けたいからだ。有機EL(OLED)ディスプレイを採用した機種(XS、XS Max)の販売が惨憺たる状況であり、安価な液晶モデルの生産を確保したいのだ。

(参考記事)今年はiPhoneビジネスモデル崩壊の年になる
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55955

 第2の理由は、米中貿易戦争への対策として、日本を調達先として確保しておきたかったのだ。

 第3の理由は、2019年にiPhone11に搭載されたOLEDは、サムスンが90%、10%をLGディスプレイが供給していたが、LGディスプレイがスマホ用液晶から撤退するとの観測があり、他の供給先を確保することが必要だった。

 アップルは、実際にJDIの資金繰りへの支援策として、前受け金の支払い期限の延期、発注量の増加等を行っている。その支援策の最終段階が「白山工場の購入」であり、その検討にシャープも参加していると思われる。

 JDIは、12月12日に、アップルとみられる顧客企業に白山工場の設備を2億ドル(約219億円)で売却する協議を進めると発表していた。しかし、交渉のなかで土地や建物を含む工場全体の売却案に切り替わったとみられる。売却額は800億円から900億円で交渉している模様だ。

 工場設備の売却から工場全体の売却へと切り替わった原因を、シャープの過去の事例から考えてみる。

 シャープは、亀山工場の第6世代の中古液晶ラインを中国に売ったことがある。中古装置を分解し部品等を交換したら、新品の装置と価格差が小さかった。装置価格が下がっていたからだ。このため、先方にも不満があった(参考:拙著『シャープ「液晶敗戦」の教訓』)。

 この失敗事例が教えることは、装置には真空と半導体ガス配管等があるため、装置を分解・移動して再稼働させることは、労多くして益少なし、ということである。土地や建物を含む工場全体を売却・購入した方が、益が大きい。

 だが、アップル単独で購入しただけでは工場を稼働できない。そのため、シャープに声をかけたのではないだろうか。

 白山工場の売却が実現すると、JDIは茂原工場(千葉県茂原)へ生産を集約することになる。つまり、生き残りをかけて、縮小均衡の道を進むことになる。

シャープにとってアップルは敵か味方か?

 シャープもJDIと同じく、アップルの支配下にあったことがある。

 シャープは、亀山第一工場の第6世代液晶ラインを中国に売却した後に、約1000億円を投じてスマホ用液晶ラインを新設することを2010年2月に発表した。そのための資金の多くはアップルが負担し、生産したスマホ用液晶も同社が引き取ることとなった。亀山第一工場は「アップル専用工場」となり、アップル社員が常駐するフロアへ、シャープ社員の出入りが制限されるまでになった。また、リスク回避と価格削減のためアップルは多社購買を進めていた。そのためシャープは、生産する液晶の特性を他社並みに抑えさせられる「技術抑圧」という技術的な屈辱も受けた。

 JDIは、このシャープの教訓から学ばず、2015年にアップルから1700億円を受け取り、白山工場を建設していたわけだ。