(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員)

新通商戦略を発表した欧州委員会

 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は2月18日、向こう10年間を見据えた貿易政策に関する新たな指針(新通商戦略)を発表した。「自由かつ持続可能で積極的な貿易政策」という副題が示すように、自由貿易の原則を徹底すると同時に、そのルールづくりをEUが主導したいという思惑が、22ページにわたって盛り込まれている。

 欧州委員会はこの新通商戦略の中で、政治的及び地経的な衝突から世界的な不確実性が高まっていると位置づける。そして、それまでの多国間協調の流れに代わって自国第一主義が台頭した理由として、(1)グローバル化に伴う悪影響(格差の拡大や社会の変化)、(2)中国の急成長、(3)気候変動の急加速、(4)デジタル環境の激変の4点を指摘している。

 まず注目したいのが、その急速な経済成長に言及する形で中国への厳しい姿勢を明示したことだ。わざわざ中国に国家資本主義モデル(state capitalist model)という言葉を当てて、欧州の民間企業が内外で中国の国営企業との間で不公正な競争余儀なくされていることへの懸念を示している点から、EUの厳しい対中スタンスが透けて見える。

 もともとEUは、成長著しい中国からの投資に期待を寄せていた。しかし「一帯一路」構想を掲げる中国が軍需企業などの買収に乗り出したことから、態度を一変させて中国に対する警戒感を強めた。EUは中国を念頭に外資による戦略産業への投資や買収を規制するようになり、その扱いは日欧経済連携協定(EPA)でも問題になった。

 またEUは、中国が欧米の重視する民主主義や人権といった価値観を徐々に受け入れるだろうという期待を抱いていた。それに反して中国は、習近平体制の下でむしろ権威主義的な性格を強めていった。経済的にも政治的にも期待を裏切られたEUは中国に対するスタンスを厳しくしたが、新通商戦略でもそれが改めて明示された形だ。