2021年6月上旬、エルサルバドルがビットコインを法定通貨にしたというニュースが世界を驚かせた。画期的な試みだが現実の課題は多い。元日銀局長の山岡浩巳氏が背景と課題を解説する。連載「ポストコロナのIT・未来予想図」の第42回。

 6月上旬、中南米の小国エルサルバドルが暗号資産であるビットコインを「法定通貨」にしたというニュースが、大きな注目を集めました。

エルサルバドルの特別な事情

 この決定を考える上では、まず、エルサルバドルという国の特別な事情を理解する必要があります。

 まず、エルサルバドルは、もともと米ドルを法定通貨としていました。

 独自の通貨を持つ国の中で暗号資産が広く流通すれば、自国の通貨・金融政策の自律性は大きく低下します。自国通貨をいくらコントロールしても、経済活動に影響を及ぼせなくなるからです。しかし、もともと政策に自律性が無いのであれば、暗号資産が使われても、それで政策の自律性が低下することにはなりません。

 また、エルサルバドルは人口約600万人強の小国ですが、海外に多くの移民や出稼ぎの方々を送り出しており、とりわけ米国には約250万人の同国出身の方々が住んでいます(私が米国メリーランド州に在住中、斜め前にお住いの方が同国出身であったことを思い出します)。このような海外在住の人々からの送金が、エルサルバドルのGDPの2割以上を占めています。このため、海外送金コストを安くしたいニーズは潜在的に強いのです。

 さらに、近年、マネロン規制が厳しくなっている中、銀行がコンプライアンス負担の増加などを嫌がって、新興国や途上国向けの海外送金業務から撤退する動きが目立っています。一方で、エルサルバドル国内には、銀行口座を持たない人々が相当数いらっしゃいます。そうなると、海外在住の方々が銀行を経由せずにエルサルバドルにビットコインで送金し、それを受け取った人々がエルサルバドル国内でそのまま使えないか、という発想につながりやすかったと言えます。