円高の是正やデフレ脱却を意図した安倍政権の経済政策「3本の矢」。金融政策と財政政策こそ実現したが、規制改革による成長戦略はいまだ道半ばだ。金融緩和に限界がある以上、次期政権の打ち手は財政政策か規制緩和に限られるが、どちらを重視するかで経済政策は大きく変わる。それぞれの候補者はどちらを重視しているのだろうか。SMBC日興証券の宮前耕也氏が読み解く。

(宮前 耕也:SMBC日興証券 日本担当シニアエコノミスト)

 近年の経済政策の変遷は「3本の矢」で整理すると分かりやすい。「3本の矢」とは、2012年末に発足した安倍政権が掲げた「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」、そして規制緩和等により「民間投資を喚起する成長戦略」である。

 当時は「3本の矢」によって円高是正やデフレ脱却を果たし、強い経済を実現する、好循環をもたらすという政策的な意図があった。また、経済の好循環を実現することで、民主党政権が決定した5%から8%への消費増税を乗り切りたいとの意図もあったとみられる。

「アベノミクス」前半の主役は金融政策

 最初に主役となったのは金融政策だ。

 2013年に2%の物価目標導入と日銀による異次元緩和が実現した結果、円安が進行した。ただ、円安に消費増税が重なり、消費者物価は2014年度に瞬間風速的に3%付近の大幅上昇を記録した。

 安倍政権は「政労使会議」などを通じて企業に賃上げを促したが、物価上昇には追い付かず、個人消費がダメージを受けることになった。

 法人減税と消費増税のポリシーミックスを推進したことと相まって、結果的にアベノミクスは企業部門に優しく、家計部門に厳しい政策との評価を受けるケースもあった。

 アベノミクスを前半と後半で分けるなら、その境は2015年だろう。同年9月、安倍政権は「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」からなる「新3本の矢」を打ち出した。狙いはダメージを受けた家計部門への配慮だ。

 新しい1本目の矢の「強い経済」は、元々はオリジナル版の「3本の矢」の目標の位置づけであり、従来の「3本の矢」を継続するとの意図が込められていたとみられる。ただ、「金融政策」の文言が新しい1本目の矢では削除された点が重要だった。