スターバックスの第二創業の物語(パラダイム)

「1971年、シアトルで3人の若者が1つの店を始めました。いいコーヒー豆を仕入れ、上手に焙煎して売る。厳選した紅茶やスパイスなども置いてあり、ライフスタイルにこだわる、いかにも西海岸らしい発想の店でした」

 1982年、彼らの事業にほれ込んだハワード・シュルツ(同社の元会長兼社長兼最高経営責任者)がスターバックスに入社する。ここから、第二創業の物語が始まった。

「シュルツはやりがいを持って仕事に当たるものの何も始まらず、うまくもいかなかった。しかし、あるとき彼は啓示を受けます。出張で赴いたイタリアのミラノで、街中にあるエスプレッソバーの1つに入り、そこで最高のエスプレッソ、バリスタがコーヒーを入れる美しい姿、コーヒーを飲みながら会話を楽しむコミュニティに感動したのです。そして、スターバックスに欠けていたのはこの雰囲気、体験であることを悟りました」

「スターバックスを、最高のコーヒーとコミュニティがあるサードプレイス(職場や学校ではない、居心地のよい第三の場所)にしたい」というビジョンは、パラダイムシフト、つまり、物語の大きな変化の支点になった。

 シュルツがビジョンの実現に向けて試行錯誤を続ける中、1989年に現れたのが、ハワード・ビーハー(同社の元取締役)だった。ビーハーは、シュルツの強力なフォロワーになる。

「リーダーとフォロワーは、単なる上司部下のように人事で決まるものではありません。『あなたのやろうとしていることを一緒にやりたい』というフォロワーがいて、初めてリーダーはリーダーとして認められるのです。ビーハーは、ビジョンを実現するために戦う、シュルツの戦友ともいうべき存在になりました」

 ビーハーは「スターバックスはコーヒービジネスではなく、ピープルビジネスであるべき」と主張した。店で働く人間がスターバックスらしさを表現して初めて、サードプレイスが生まれる。「ユーザーに体験を提供する」というスターバックスのカルチャーがここから生まれた。

 そしてさらにもう一人、重要な2番目のフォロワーとなるオーリン・スミス(同社の元CEO)が登場する。

「スミスは実直な男で、カリスマリーダーであるシュルツの単なる従順なフォロワーになる可能性もありました。しかし、第一のフォロワーであるビーハーが情熱的に価値を追求する姿を見て、フォロワーの在り方を学びました。自ら強い意志を持って『ピープルビジネス』実現のための仕組みづくりにまい進したのです」


拡大画像表示

 スミスは、従業員を「パートナー」と呼び、株式を持たせて経営者とともに歩む仲間とした。さらに健康保険を提供するなど、働きがいのある職場環境をつくっていった。この3人によって、スターバックスのカルチャーが確立した。スターバックス社内では3人のファーストネームの頭文字をとって“H2O”と呼び、敬愛していたのだという。

スターバックスのパラダイムシフトの本質は“人”

 スターバックスの第二創業の物語をパーパスに基づいてひも解くと、3人の経営者はオリジン、ミッション、ビジョンのフォロワーだという。そして、これに賛同する人たちが、同じようにフォローして働く仲間になっていく。これが30年前に起きた新しい働き方へのパラダイムシフト、“物語の転換”だったと梅本氏は言う。

「当時掲げたミッションステートメント、つまり理念とミッションをどう実現するのかを働く仲間と共有するものですが、下図を見ると、スターバックスのパラダイムシフトが何だったのかがよく分かります」


拡大画像表示

「価値として最初にあるのは、『おいしいコーヒー』です。これが原点、オリジンです。そして、2番目にあるのが従業員、パートナーと呼ばれる『働く仲間のエンゲージメント、ES(従業員満足)』なのです。顧客を受け入れる『店舗』や『株主』よりも優先するところが、非常に先進的でした」

 従業員が生き生きと働くことでブランドの体現者となり、サードプレイスであるコミュニティを演出する。これによってスターバックスならではの顧客体験が実現し、持続的に利益が生まれ、それが株主に還元される。今日では当たり前になった循環だが、当時、新興のナスダックに上場し社外取締役が半数を占めていた同社において、このステートメントを通したところに「すごみがある」と梅本氏は話す。

「経営的にこれを実現するためには、ストーリーを語る人が必要です。シュルツが語り、ビーハーが規範や店舗の戦略的展開をしつつ組織文化をつくり、スミスが組織機構に落とし込みました。今、人事制度など働き方を変えて定型化していくさまざまな動きがありますが、それは最後に出てくるものなのです」