ボトルネックはタクシー業界

 日本が脱炭素化する早道も、自家用車を減らすことだ。地球環境産業技術研究機構のシナリオ分析でも、ライドシェアで最終エネルギー消費は大幅に削減され、エネルギーコストも多くのシナリオの中でもっとも低い。

 ライドシェアは急速に普及しており、アメリカでは2030年までに90%以上の自家用車がライドシェアに置き換わるとアメリカ運輸省は予想している。

 問題は自動車産業の規模が大幅に縮小することだ。自家用車の走行距離は年間1万km程度だが、法人タクシーは10万kmだから、自家用車がすべて法人所有のライドシェアに置き換わると、乗用車の台数は90%減る可能性がある。

 自家用車のコストが減ると可処分所得は増えるが、過渡的にはかなり大きな雇用の喪失が出る。自動車関連産業の労働者はライドシェアの運転手になるしかないが、これも自動運転が実用化すればなくなる。

 これは「脱炭素化でグリーン成長」などというバラ色の話ではないが、コンピュータがネットワークに進化し、ソフトウェアが大産業になったように、自動車産業はサービス産業として生き残るしかない。国際競争力を失うと、鉄鋼など関連産業も壊滅する。

 ところが日本ではライドシェアがまったく進まない。タクシー業界が反対しているからだ。タクシーは産業としては先細りで、規制で独占を守ることが利潤の最大の源泉なので、政治力は強い。かつて滅びゆく農業が規制を守ったのと同じだ。

 しかしライドシェアの禁止で滅びるのは、市場規模がGDPの0.3%しかないタクシー業界ではなく、関連産業を含めるとGDPの20%近い自動車産業である。政府の中でも経済産業省は何とかしようとしているが、国土交通省が動かない。日本の製造業は、規制を守って変化から逃げた農業の轍を踏むのだろうか。

(池田 信夫)