「おいしい」ライフをデザインする

楠本:コロナ禍で、「外食産業って圧倒的にエンターテインメントだな」と感じた人が多いんじゃないかと思うんですよね。コロナがなければ外食をする理由なんてわざわざ考えません。「なんとなく」で行けた。

 それが、様々な制限が生まれて外食ができなくなってしまった。「みんなで食事に行けるのは楽しい」とか「あそこのお店のあの料理が食べたい」という、ただ単に食べるだけにとどまらない娯楽性があったことをみんなが自覚したのではないか、と思います。

 ではこの先、外食産業にいるわれわれがどう考えるかと言えば、「なんとなく友達と会う」「なんとなく食べに行く」と思っていた、この「なんとなく」をもう少し丁寧に考えてみることだと思っています。

 いつ、どこで何を食べるか。この選び方がもっとデザインされてくるはずですから。

菊地:「時間と場所からの解放」とその先にある「選択の自由のデザイン」ということですね。

楠本:もともと日本人には「四季に思いを馳せる生活」という強みがあるんです。ライフスタイルを丁寧にするという強みは、日本が、十分に海外に「輸出」できる分野です。

 時間と場所からの解放が始まって、より選択肢が増えた。選択肢が増えるというのは、日々の生活を大切にするということだと思います。そのデザインを描くきっかけとして「おいしい」というキーワードを基盤にしたいというのが、今回、僕が本を出す意味でもありました。

 本当に時代は変わろうとしているんですよね。僕たちバブル世代は「雑」でしたから。

「24時間働け!」と言われ、「押忍!」と答えて乗り切ることで評価された時代です(笑)。

「生活を大切にする」というのは、日本人のライフスタイルの次元を上げていくことにもなるし、これが国力に繋がると思うんです。

菊地:ライフスタイルの次元ということで思い出した話があります。いま私は京都大学経営管理大学院で特別教授として毎週授業を持っているのですが、前・京都大学総長の山極壽一さんが興味深いことをおっしゃっていた。

 人間には、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感があるのだけど、他人と共有できるのは、視覚と聴覚の2つなんだと。オンライン会議を例にとると納得がいきますよね。同じ画面を観ながら同じ話を聞いて共有している。

 ただし、この視覚と聴覚だけでは本当の意味での信頼関係はつくれない、と。

 逆に本来共有することができない、触覚、嗅覚、味覚を一緒に体験することで、人間は信頼関係が築ける。

 だとするとZoom会議では、信頼関係を築くのは難しいとも言えるわけなんですが、ともあれ一緒に食事をして過ごすことで、人間は信頼関係が築けるということです。人間は社会的な動物ですから、信頼関係がないと持続性がないんですから。

楠本:そうした「食」を通じた人間関係を生み出すための場所と時間の提供というのは、私たち外食産業が果たす役割だろうという想いが根底にあります。

菊地:いろいろなところでテクノロジーの進化が起こって、さまざまな業界でイノベーションが起ころうとしているわけですが、その中枢に「食」がある。

 というより、第一歩を切り拓く役目が、僕たち「食」に携わる者たちにあるということを、楠本さんとの話でより強く持ちました。

楠本:僕も菊地さんとの今回の話から、過去の延長に未来はないということ、そして、「食」のイノベーションによって、未来をデザインしていくことの重要性も再認識しました。ありがとうございました!

(楠本 修二郎)