文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部

現代アートのスーパースター

 90歳を迎えた今もなお精力的に作品を制作する一方で、すでに美術史の中で“巨匠”と語られるゲルハルト・リヒター。世界中の美術館やコレクターがリヒターの作品を入手したいと願い、オークションでは高額落札が相次いでいる。

 2012年にはエリック・クラプトンが所有していた抽象画が、生存する作家として最高額となる約27億円で落札。その2年後の2014年には1987年制作のアブストラクト・ペインティングに当時のクリスティーズ史上最高額となる約36億円の値がついた。金銭的な価値から見てもリヒターが現代アートのスーパースターであることは間違いない。

 だが、その一方で、リヒターほどその魅力を語りにくいアーティストはいない。

国内美術館で16年ぶりの回顧展が開幕

 6月7日、東京国立近代美術館にて「ゲルハルト・リヒター展」が開幕した。日本国内では16年ぶり、東京では初となる美術館での個展。初期作から最新のドローイングまで122点が展示されているが、作品を鑑賞すればするほど、頭の中が迷路に迷い込んだ気分になる。

 というのも、リヒターはフォト・ペインティング、カラー・チャート、アブストラクト・ペインティングなど様々な技法を駆使しながら、「人間がものを見るとは、どういうことか」を問い続けてきたアーティスト。技法だけでなく、写真、ガラス、鏡など、作品に使われている素材も実に多様だ。

 技法、素材が多彩であることに加え、表現方法もバリエーションに富んでいる。具象表現もあれば、モチーフがまったく分からない抽象画もある。一貫した“リヒターの作風”を見出すことは難しく、作品が何を意味しているのか、単純には読み解けないのだ。

「理解できないのなら、見なければいいのではないか」と言われそうだが、困ったことに、リヒターの作品には人を惹きつける「強さ」がある。リヒター作品と聞けば、鑑賞せずにはいられない。そして、いざ作品と対峙すると、インテリジェンスに満ちた上質な刺激に目が離せなくなってしまう。