コクピットの中で機長と副操縦士が殴り合い、うつ病のパイロットが乗客もろとも機体を墜落させる――。以前なら考えられないことが起きるようになっている。航空機の技術革新は目覚ましいものがあるが、乗客の命を守るべきパイロットがまさかの犯罪行為を犯すことまでは思いが至らなかったようだ。パイロットも人間なので悩みを抱えていたり、故意の犯罪を犯したりする。そうした前提で安全対策を講じてこなかったツケが深刻な問題と化している。

(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)

 2022年6月、エールフランスのエアバスA320型機がジュネーブからパリへの飛行中に、コクピット内で起きた事件が明らかになった。機長と副操縦士はお互いの襟をつかみ、殴り合いを始めたのである。

 止めに入った客室乗務員が着陸までコクピットに留まって監視したこともあり、事故にはならなかったものの、あわやの異常運航であった。

 パイロットの暴力行為はわが国でも起きている。

 2016年6月、国内大手の航空会社で発生した事件、幸いステイ先の地上だったので、乗務予定の便が欠航するだけで済んだものの、飛行中なら危険な状況に陥る可能性もあった。このときは副操縦士が、機長と通報を受けて駆けつけた警察官を殴り逮捕された。

パイロットによる自殺で乗客巻き添えも

 現代の航空機には以前のように第3のパイロットであるセカンドオフィサー(航空機関士も含む)が搭乗しない。コクピット内で機長と副操縦士の間で喧嘩や暴力行為が起きても止めに入る第三者がおらず、危険な運航に発展することもあり得るのである。

 こうした暴力行為以外にも以前は耳にしなかった事件が起きるようになっている。パイロットが搭乗機を墜落させて自殺を試みることだ。乗客を巻き添えにするような自殺行為が近年、1990年代後半くらいから頻発している。