文=條伴仁 イラスト=日高トモキチ

※文中で作品の結末に触れている箇所があります。

オカルト系ホラー映画の礎を築いた『エクソシスト』

 正直ビビりですが、ホラー系のジャンルムービー好きの映画マニアです。それはなぜかというと、ホラー系映画の楽しみはスリルやショックだけではなく「感動」だから。今回はそんなホラー映画のプラスワンな魅了をご紹介します。

 まず、最初の作品は現代オカルト系ホラー映画の礎を築いた名作『エクソシスト』。ワシントンの女優一家の娘リーガンに取り憑いた悪魔パズズと二人の神父の戦いを、斬新なショック描写と徹底したリアリズムで描いたこの作品が全米に衝撃を与えたのは1973年のこと。日本公開は1974年で、いわゆる「第一次カルトブーム」の影響もあり大ヒットしました。

 監督はウィリアム・フリードキン。前作にあたる刑事ドラマ『フレンチコネクション』でアカデミー賞はじめ映画賞を多数受賞した監督の“次の一手”が、意表をついたホラーだったというわけです。

 そんな背景で誕生したこの作品を魅力的にしている要素のひとつは、実は全米でベストセラーとなったウィリアム・ピーター・ブラッティの原作を、著者自らが脚本化した骨太いドラマにあります。

 それは悪魔という未知の敵に挑んでゆく神父二人の死力をつくした戦いのドラマであり、敵が攻撃してくるのは誰でも抱える自分の心の中の弱さやトラウマで、それに正面から向合い、克服していくという「内なる闘い」のドラマこそが本作の「感動ポイント」となっています。

 ちなみに「エクソシスト」はこれまで「2」「3」「ビギニング」という続編とTVシリーズが製作され、今年の7月には「新3部作」の製作が発表されましたが、それも1作目で創造されたドラマの魅力あってこそといえるのではないでしょうか。そして、本作は日本でも数多くの漫画やアニメに影響を与えたことは、ご存知のとおりです。

秀逸なアイディアでヒットした『クワイエット・プレイス』

 つぎの作品は秀逸なアイディアで世界的なヒット作となったSFホラー『クワイエット・プレイス』。つい最近、コロナ禍の影響で重なる延期を乗り越えて待望の続編『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』が公開されました(ちなみに最初に発表された邦題は『クワイエット・プレイス PARTⅡ』でした)。

『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』
配給:東和ピクチャーズ

「音を立てたら、即死。」というキャッチコピーのとおり、音に反応して襲ってくる”何か“により崩壊しかけている世界を舞台に、その”何か“から逃れて暮らす一家のサバイバルをスリリングに描いた本作。その魅力は、音を立ててはいけないというルールと、それをどのように克服するかという知恵比べが明確に描かれている点でした。特にその究極いえる音を立てないでの出産と子育てなどは、手に汗しつつも「なるほど!」というアイディアの、まさにサバイバルの快感に溢れたものでした。

 そしてこの作品の「感動ポイント」はそのサバイバルが「家族を守るために闘い」のドラマである点です。それが全編を通してきっちりと描かれており、やがてクライマックスの「自己犠牲のドラマ」が生まれるのです。

 ちなみに主演のエミリー・ブラントと監督も務めるジョン・クラシンスキーは、実生活でもパートナー同士で、それも本作の説得力の源になっているのかもしれません。

実話ベースの「死霊館ユニバース」

 最後にとりあげる作品は、最新作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』の公開を10月1日に控える、近年“最怖”のホラーシリーズ「死霊館」から、第2作目『死霊館 エンフィールド事件』です。

 実在する心霊現象研究家のウォーレン夫妻の体験をもとにした「実話」ベースのゴーストハンターものというユニークな設定のこのシリーズは、「ソウ」シリーズの才人ジェームズ・ワンのもと成功を続け、最新作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』で7作目となる「死霊館ユニバース」といわれるかつてない世界観を展開するに至っています。

 せっかくですので簡単に「ユニバース」の概要に触れておきましょう。

 まずはユニバースの核となる『死霊館』(2013)と2作目『死霊館 エンフィールド事件』(2016)。

 この2作はともにウォーレン夫妻が手掛けた1970年代の心霊現象事件の顛末を描くものですが、その魅力は実録ものへの拘りです。どちらも事件の起こった年と場所が特定されていたり、みなさんもどこかで聞いたことのあるオカルト事件やそれに纏わる品々が、巧みに物語に見え隠れします(中にはそれだけで別に映画化されているものも登場します)。

 ちなみにウォーレン夫妻、妻のロレインは透視能力者ですが、夫のエドは教会が公認した悪魔研究家ということ以外、特に派手な除霊能力などはなく、地道な調査と専門知識、そして夫婦の絆によって事件に立ち向かっていくところが最近のホラージャンルでは異色の存在となっています。

 さてそのウォーレン夫妻が自宅の地下に厳重に保管している恐ろしげな所蔵品の中でも、とりわけ不気味で危険な人形を巡る物語を描いたのが、「アナベル」シリーズで、こちらはすでに3作品(『アナベル 死霊館の人形』(2014)『アナベル 死霊人形の誕生』(2017)『アナベル 死霊博物館』(2019)が製作されています。このシリーズは「死霊館」と一味違い、実録に拘らない自由な展開の“呪いの人形もの”となっています。ちなみにいつも気になるウォーレン家の地下の所蔵品ですが、3作目の「死霊博物館」でじっくりと見ことができます。

 そして「ユニバース」は1950年代のルーマニアに舞台を移し、「エンフィールド事件」に登場する悪魔の修道女を描く『死霊館のシスター』(2018)という広がりも見せます。

 なお、このほかに公式には「ユニバース」に数えられていませんが、ユニバースとつながりを持つ『ラ・ヨローナ 〜泣く女〜』というメキシコの幽霊をテーマにした作品もあります。

 いずれにしてもすべての作品にジェームズ・ワンが関わっていることで、統一感を保って拡大を続ける異色のホラーユニバースとなっています。

「エンフィールド事件」は職業の矜持のドラマ!?

 さて、いささか遠回りしてしまいましたが『死霊館 エンフィールド事件』に話を戻しましょう。

 本作は数々の心霊事件の真贋を見抜き事件を解決してきたことで、だんだん知名度が上がり、その一方で世間の懐疑的な人々からバッシングも受けるようになったウォーレン夫妻が、イギリスの郊外の住宅を舞台に、そこに住んでいた老人の霊に悩まされるシングルマザーの一家の依頼を受ける物語です。

 本作の「感動ポイント」は、引き受けた事件を解決し依頼主を助けようとする「職業の矜持のドラマ」であるという点です。本作のラスト30分間は正体を突き止めた「死霊」との壮絶な対決になるのですが、ご紹介したように基本的に特殊な能力や武器を持たない夫のエドが、それでも事件の核心に立ち向かう姿にホラーとしての怖さとドラマとしての感動が同居するという貴重な体験ができる作品です。

 さて最新作『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』、監督は「ラ・ヨローナ」でJ・ワンとのコラボ実績のあるマイケル・チャベスが起用されました。3作目にして初めてJ・ワン以外が監督となる本作で、「ユニバース」がどのように継承され発展するのか、新たな「感動」との出会いを期待して待ちたいと思います。

https://wwws.warnerbros.co.jp/shiryoukan-muzai/

(條 伴仁)